SPECIAL

J2を支配する謎トレンド。[3-4-2-1]が強い理由

2017.10.25

西部謙司の戦術リストランテ Jリーグ編 第2回

海外サッカー月刊誌footballistaの名物連載『戦術リストランテ』のJリーグ編がWEBで開店! 第2回は千葉を通してJ2のサッカーを見続けている西部さんが、首位を快走する湘南を筆頭に上位チームがことごとく採用している謎の[3-4-2-1]ブームに迫る。

構成 浅野賀一

J2型[3-4-2-1]とは何なのか?

――今回はJ2で上位を独占している[3-4-2-1]システムについて取り上げます。千葉を追っている西部さんにとっては目の上のたんこぶなチームたちですね(笑)

 湘南ベルマーレ、アビスパ福岡、V・ファーレン長崎、松本山雅、東京ヴェルディなど、J2の上位クラブの多くが[3-4-2-1]です。他にも大分トリニータ、ザスパクサツ群馬、ファジアーノ岡山もそう。常に[3-4-2-1]とは限らないチームもありますが、珍しいフォーメーションの割には採用例が多い。これだけ多いのはJ2特有の事情があります。

赤文字が17シーズンで[3-4-2-1]を10試合以上採用したチーム(参照:『Football LAB』)

 J2はJ1と比べると個の能力が少し落ちるので、パスを繋いでボールを支配して勝つサッカーを成立させるのが難しくなります。ただ、ドン引きでカウンターを狙わないのがポイントです。J2型[3-4-2-1]は序盤にハイプレスを仕掛けます。というのも、J2だとハイプレスを外せるチームが少ないからです。うまくハメてしまえばミスを誘ってショートカウンターで仕留められる。ただ、ずっと前がかりでやるチームはほとんどなくて途中で引いて5バック化します。怖いのはカウンターであって、むしろ引いてしまえば崩せるチームの方が少ないですから。危なそうならば1トップへのロングボール、繋げそうな時は繋ぎますがそんなに無理はしません。

――ロングボールは普通、FWを裏に走らせるカウンターをイメージしがちですが、たとえ相手ボールになるとしてもあえて蹴ってしまって、そこにプレスをかけるということですよね。こう書くと、ラグビーのハイパント攻撃みたいですが。

 とはいえ、ロングボールをCBにそのまま跳ね返されてしまったら意味がないので、[3-4-2-1]の1トップには空中戦に強いタイプを置きます。攻撃は1トップへロングボールを蹴って、競り落としたボールを2シャドーが拾って攻め込んでいくパターンがメインです。シャドーが前を向けたら、ウイングバックが上がって幅を作ります。この攻め方ならそれほどビルドアップ能力がなくても形になります。

――そうなると運任せの攻撃になるので確率は高くないように思うのですが……。

 確かに単調な攻撃なので、そんなに点は取れません。逆に相手もこういうチームが多いのでどれだけしっかり守れるかで勝敗が決まるケースが多くなります。まず守備ありきで、どれだけ攻撃にリソースを割けるかはチーム事情によって変わります。

 キーになるのは1トップです。ここには長身で強靱なタイプが不可欠。ここで収まらないと攻撃の柱が作れません。ある意味、一番お金をかけないといけないポジションですね。ジネイ(湘南)、ウェリントン(福岡)、ファンマ(長崎)、高崎(松本)、ドウグラス・ヴィエイラ(東京V)と、このシステムで上位にきているチームは例外なくそれ用のFWがいます。

――先ほど守備時は5バック化するとおっしゃっていましたが、具体的には攻守でどういったメカニズムになるのでしょうか?

 3バックと2ボランチについては他のシステムでも役割はほぼ同じですが、特殊なポジションになるのが2シャドーとウイングバックです。2シャドーの攻撃面での動き方は自由ですが、守備ではタスクを負うことになります。主に2通りあり、1つは基本ポジションのまま下げる。この場合の守備のポジショニングはインサイドハーフに近くなります。もう1つはサイドに開いてウイングバックと組んで守る。こちらは引いた時は[5-4-1]のサイドハーフです。

 つまり中央に戻ってボランチとセンターを固めるか、サイドへ開いてウイングバックと組むかの2種類の守り方があり、主にどちらかのチームもあれば、状況によって変えていくチームもあります。例えば、湘南の2シャドーは相手のボランチをマークしていて、相手のSBにはウイングバックが前へ出て対応することが多い。ウイングバックが前へ出ると、3バックはボール方向へスライドします。プレスのかかりはこちらの方が強いですし、奪った後のショートカウンターも有利です(図1)。

 逆に2シャドーがサイドに落ちるケースでも、最初はボランチをケアしながら最終的にサイドへ下りていくのと、相手のサイドに高い位置から守備をしていく場合がありますが、引いた時にはどちらも[5-4-1]のサイドハーフになります。シャドーが守備ブロックに入るまでに時間がかかるので、引き込んで守る形が多くなりますね。ただ、9人の人海守備ですから守りは固いです。その分、攻撃はやりにくくなりますけどね(図2)。

 ウイングバックはシャドーとの関係で前へ出て潰しにいくタイプと、下がってスペースを埋めるタイプに分かれます。まあ、どちらにしても攻守にわたる運動量とスプリント能力は不可欠になります。

――同じ[3-4-2-1]でも、ミハイロ・ペトロヴィッチ監督が広島や浦和に導入したシステムとは違うということですか?

 J2の[3-4-2-1]は攻撃よりも守備重視なので根本的に別のシステムと考えた方がいいと思います。ミシャ式のようにボールを支配しながら配置を変えて優位性を出そうという意図もありません(ミシャ式は攻撃時に[4-1-5]、守備時は[5-4-1]に変形する可変システム)。J2型は守備を万全にした上で被カウンターリスクの少ない攻撃をするやり方です。

 首位を快走する湘南も基本的にはジネイへのロングボールがメインです。ただ、前向きに仕掛けられる時にはウイングバックを3バックの一角がオーバーラップするなど、一気に人数をかけていきます。ボランチが前線に絡んでのショートパスによるコンビネーションもあります。チャンスと見れば人数をかけていくところに特徴があります。

 松本は1トップの高崎へのロングボールが主要攻め込みルートですが、CBの飯田が最前線まで上がってツインタワーになることがあります。FKはもちろん、スローインの時も上がりますし、流れの中でもスルスルと最前線へ出て行きます。空中戦のポイントを2つ作ろうという試みですね。

ゲーゲンプレッシングはもう古い!?

――ただ一つ興味深いテーマがあって、ドイツで近年ゲーゲンプレッシング(攻撃から守備に切り替わった際に定位置に戻らずにそのまま前からプレスをかける戦術)の流行があるじゃないですか。実際、湘南の曺貴裁監督はロジャー・シュミット時代のレバークーゼンやRBライプツィヒの戦術に影響を受けています。湘南のインテンシティの高いサッカーは欧州最先端のトレンドの一つとも言えます。

 湘南はカウンター時に人数をかけますし、守備に切り替わった時も2シャドーはセンターに残ってプレスをかけ、サイドはウイングバックが思い切って前に出ていく、いわゆるゲーゲンプレッシングを仕掛けます。J2の中では技術もありますし、小気味良いパスワークも見せます。戦術的な完成度は高いですが、同時に限界も抱えています。それは昨季J1から降格したことでも明らかではないでしょうか。

 クロップのドルトムントもCFのレバンドフスキにロングボールを放り込んで物凄い勢いでプレスに殺到する今のJ2っぽいユニークなサッカーを突き詰めていましたが、レバンドフスキが移籍した最終年は一時降格圏に転落するほど急降下しました。レバンドフスキがいれば競り合いでイーブンボールに持ち込めましたが、1トップに絶対的な高さと強さがないとその作戦は成り立ちません。そもそもロングボールは前向きにクリアできるCBの方が有利ですからね。レバークーゼンのロジャー・シュミットも(ゲーゲンプレッシング対策が進んだ)就任3年目の昨季に途中解任されています。

 今のプレミアで(クロップが率いる)リバプールの試合を見ていても感じますが、いくらトランジション(攻守の切り替え)に特化するといっても、ポゼッションの基本ができていないのはマズい。トライアングルのポジションすらできていないので、ボールを持たされた時の攻撃の設計が個人頼みです。マネとサラーは独力で突破できるスーパーな選手ですが、スペースを消されてしまうと長所は半減します。

 ゲーゲンプレッシングは、いわば相手の状態にそれほど関係なく自分たちから主体的にプレスしていくやり方です。しかし、相手がうまければプレスしても外されるだけです。レバンドフスキが抜けた後のドルトムントのゲーゲンプレッシングがダメになったのは、条件が変わっているのにプレスに行ってしまったからです。ポゼッションが必要だったというのは、それで点を取れるというより陣形を再整理できる攻撃の時間を作ることで、奪われた時にプレッシングの条件が良くなるからです。単純にロングボールを跳ね返されるだけでも、ドルトムントは2列目がプレスしようと前進しているので逆カウンターになってしまう。だからゲーゲンプレッシングという主体的なプレスには最初から問題があったと言わざるを得ません。

 ――湘南がJ1の2年目で直面したのがそのパターンですね。相手に引かれて、カウンターでズタズタにされる。僕なんかは戦力の劣る湘南相手に引く志の低さはどうかと思いましたが。

 サッカーは「攻撃」、「攻→守の切り替え」、「守備」、「守→攻の切り替え」という4つの局面から成り立っていて、そのどこかに弱点を抱えていたら狙われますよね。

――でも、バルセロナのサッカーは「攻撃」、「攻→守の切り替え」の2局面に特化していますよね。

 バルセロナは基本的に攻め急がない。パスを繋ぎながら押し込んで、相手の守備が崩れてからフィニッシュへかかります。だから奪われた時も相手の陣形が崩れているので反撃を食いにくい。そもそも良い時のバルサがボールを持ったらなかなか奪えません。それがあるから守備の条件もコントロールできる。ポゼッションに絶対的な強みがあるから主に2局面の循環でサッカーができているわけです。

 反対に「守備」、「守→攻の切り替え」を重視したカウンターサッカーは相手にボールを持たされた時にどうするのか?という問題が永遠につきまといます。課題解決にいろいろな取り組みがされていますが、決定的な回答は出ていない。アルゼンチンの名将セサル・ルイス・メノッティが「カウンターは不完全なサッカー」というのはそのためです。

――湘南が相手にベタ引きされたら難しいことになるのは僕も感じていました。ただ不思議なのはJ2では湘南は格上なのでそういう展開になりやすいのに圧倒的に勝てていることです。

 千葉の時も言いましたが、J1とJ2の最大の違いは決定力です。千葉もお馴染みのハイライン戦術なので何度も危ない場面はあるのですが、相手の決定力が低いので命拾いしている時がある。湘南も前がかりで攻めるのでカウンターは食らうのですが、あまりやられていない。J2のチームは押し込まれるとミスをしますし、人数はかけていますが個々の守備が強いわけでもありません。湘南の攻撃力があれば相対的に有利でしょう。互いにミスが多い(=攻守が切り替わる)ので、トランジションの速さという長所が発揮しやすい。湘南に早くプレスされたら相手はそれを外してのカウンターができない。J1との違いはそこでキープされることで、そうなればプレスが逆効果になることもあります。前がかりのプレスをかわされればカウンターになりますし、その際のFWの決定力も違います。
あと湘南は勝負強い。千葉のホームの試合では、千葉がボールを支配して攻めに攻めて圧倒しました。それでも湘南はワンチャンスを決めて0-1で勝をもぎ取った。曺監督も試合後にワンサイドゲームだったと認めていますが、その中でも勝ち方はあると言っていました。

――西部さんが湘南に厳しいのはその恨みなんじゃないですか(笑)。他のクラブはどうですか?

 松本の反町監督はもともと湘南の監督をやっていたくらいですし、同タイプですね。戦術的にも洗練されています。福岡や長崎は2シャドーがサイドに流れて守備に当たる形で守備時は[3-4-3]から[5-4-1]に移行する形ですね。ちなみに、湘南は攻撃時は[3-2-4-1]のような形で攻めてそのまま前からプレスをかけ、外されたら[5-4-1]へ移行ですね。

 余談ですが、福岡のウェリントンの空中戦は強烈で、少し前の福岡の攻撃はGKからのゴールキックが一番怖かった。GKがフリーでウェリントン目がけて蹴れるので(笑)。

 湘南の曺監督はもちろん、福岡の井原監督、長崎の高木監督、松本の反町監督、他のチームもそうですが、ポゼッションの練習はしていると思うんです。ただ、ロングボールの方がJ2で勝つためなら効率がいい。だからポゼッションの練習はしているし、やろうと思えばできるかもしれないけど試合ではやらない。いつかガラッと戦い方を変える可能性もないとはいえませんが、現状でポゼッションはオマケみたいなものですね。ただ、そのままJ1に上がっても厳しい。J1ではCBの能力も上がってくるので1トップが絶対的な制空権を取れなくなりますし、J1のFWにはJ2のレベルから隔絶した選手がいます。今季昇格した札幌は福森(+都倉)のセットプレーが威力を発揮していますが、何でもいいのでロングボール以外の攻め手を作れるかどうかがJ1で生き残れるかどうかの分かれ目になると思います。

器用な日本人に向いている可変システム

――ちょっとネガティブになってしまったので、[3-4-2-1]のポジティブな面をお願いします!

 日本人に向いていますね、単純に。例えば松本の工藤、石原の2シャドーは1トップが落としたボールを拾ってドリブルができて、スルーパスもできる。岡山の石毛と豊川のコンビもそうですね。ただ、彼らは単独のトップ下としては、得点力という面でやや物足りないかもしれません。2人だとそれをシェアできるのでバランスがいい。2シャドー向きのタイプはかなりいると思います。J1でハマらなかったドリブラーでもシャドーなら生かしやすいかもしれない。

 堅実に守れるボランチはだいたいいるでしょう。困らないと思います。DFも2人でセンターを組ませるにはどうかという選手でも3人なら不安がない。ウイングバック向きの走力のある選手も多いと思います。なので、1トップ以外は探せば簡単に見つかりそうですよね。日本人は総じて器用なんですが、“帯に短したすきに長し”の選手もけっこういる。逆にいえば、J1で良さが出なかった選手がJ2の[3-4-2-1]で再生している場合もあります。

――またネガティブな方向に行きそうなんで一つ補足すると、日本人は一つのポジションの個人戦術を徹底的に叩き込むのではなく万能型を育成する傾向があります。だから、複数ポジションをこなせるポリバレントな選手が多い。吉武監督時代のU-17日本代表はDFラインにDF登録の選手が一人もいないという試合があったくらいですから(笑)。だからトップレベルではスペシャリストと比べると中途半端に映る。こういう特性を生かすのが攻撃時と守備時に複数ポジションを流動させる可変システムなのかもしれませんが。

 ミシャ式は一つの形ですよね。ただ、可変式という同じ形を長期間やることで、それ用の選手しか使えなくなってしまう危険もあります。J2型[3-4-2-1]はその点では間口が広いと言えるかもしれません。

――日本代表だと大迫の1トップがはまるかもしれません。

 代表でやるならJ2型ではなくミシャ式の[3-4-2-1]になるんじゃないですか。J2型の[3-4-2-1]は攻撃を前3枚の質的優位に頼って、その分後方を5バックで固めて守備を担保するシステムです。ただ、RBライプツィヒみたいにこれに近いやり方でトップクラスまで上れた例もありますから、やり方次第なんだとは思います。J2を勝ち抜くには手堅い戦法なんですが、J1でも通用するレベルでこのサッカーを完成させるには、フィジカル面で質的優位を作れるタレントが必要です。ただ、球際の強さや当たりの強さは日本人選手が苦手とするところなので、なかなか難しいですよね。

――逆に言えば、それ用のタレントを育成して日本サッカーの中で優位性を見出そうとしているいわきFCの取り組みは興味深いかもしれませんね。今日は長い時間ありがとうございました。

Photos: Getty Images

TAG

Jリーグ戦術リストランテ

Profile

西部 謙司

1962年9月27日、東京都生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、会社員を経て、学研『ストライカー』の編集部勤務。95~98年にフランスのパリに住み、欧州サッカーを取材。02年にフリーランスとなる。『戦術リストランテV サッカーの解釈を変える最先端の戦術用語』(小社刊)が発売中。