不遇をかこったスタッド・レンヌを半年で離れ、今夏加入したバーミンガム・シティで再起を図っている日本代表FW古橋亨梧。2025-26シーズンのここまで公式戦5戦1発という数字には表れていない個性と、それを生かしたいクリス・デイビス監督の狙いを、チャンピオンシップ開幕節イプスウィッチ・タウン戦の解説も務めた秋吉圭(EFLから見るフットボール)氏に教えてもらおう。
古橋亨梧には比類なき「個性」がある。筆者はこれまで彼のキャリアをつぶさに追いかけてきたわけではない。それでもセルティック時代の断片的な記憶、そしてバーミンガム・シティに加入してからのこの約1カ月半を観察してきただけでも、自信を持ってそう断言できる。彼ほど特徴的なスタイルを持つストライカーは、特にこの現代フットボールのトップレベルにおいては、そういたものではない。
ある意味では彼は現代的だ。最前線での自己犠牲を厭わず、一見無鉄砲にも思えるランニングながらその実チームとしての決まりごとを守っており、効果的なファーストプレスの起点となる。
それが「ストライカーの守備面」だとすれば、かたやポジションの本質とも言うべき「攻撃面」において、古橋はフットボール界が15年前に置き忘れてきたかのようなプロフィールを持つ。特にストライカーとしては一際目立たない体格にして下がってボールを受けにくるわけでもなく、構築にはほぼ絡まずにCBの間でひたすらに駆け引きを仕掛ける。彼が挑んでいるのはまさしく「人と人とでの勝負」であり、その姿からは数字とデータサイエンスが幅を利かせる現代フットボールの環境に対するアンチテーゼすら感じさせる。
マンツーマンでの守備構築が基本形となったことでストライカーのタスクがより広範なものとなり、ワイドフォワード(ウイングながら供給源ではなく自ら切れ込んで得点源となる選手)全盛を迎えたこの時代に、古橋は依然として「ゴール」によって自身のストライカーとしての価値を定義しようとしている。そして重要なことに、そうして彼は実際に名を上げてきた。
セルティックの伝説となり、周囲の混乱に巻き込まれたスタッド・レンヌで忘れたい半年を過ごし、2025年夏に選んだ欧州3クラブ目。そこは「世界最強の2部リーグ」、現在欧州全体でも屈指の野心を抱くバーミンガムで、古橋亨梧の新たな挑戦が幕を開けた。
公式戦5戦でわずか1発。身振り手振りにも焦りが表れるが…
開幕から公式戦5試合が過ぎた。まだサンプルサイズとしてはあまりに小さい数字ではあるが、良くも悪くも、古橋はすでにバーミンガムのファンに対して彼の個性を知らしめている。
あえて数字の話から始めたい。ここまで全5試合出場で1ゴール。その1点はカラバオカップ1回戦のシェフィールド・ユナイテッド戦で、見事にバックパスを掠め取ったディマレイ・グレイがパスを出した段階で右手を上げて喜んでいたほど、完璧なお膳立てを受けてのオープンゴールだった。
何よりも結果がほしい
相手のミスを見逃さず
古橋亨梧 デビュー2戦目で初ゴール🏆カラバオカップ1回戦
🆚バーミンガム×シェフィールド・U
📺#DAZN 見逃し配信中#DAZNFootball pic.twitter.com/RSZnbk47fC— DAZN Japan (@DAZN_JPN) August 14, 2025
1つ事実ベースで話を進めていくと、移籍後古橋が記録した枠内シュートはこのゴールの際の1本のみにとどまっている。シュート自体は12本打っておりその中には惜しいものも何個かあったが、一方でそもそもまったくボールをミートできていないような、完全なコンタクトミスと言っていいものも複数回あった。またチャンピオンシップ第2節のブラックバーン戦では95分間出場しながら、相手のローブロックの前に持ち味を発揮できず、シュート0本に終わっている(パスを受けた回数すら1回だった)。
リーグ戦3試合における実ゴールのxG(ゴール期待値)比は-1.43とアダム・アームストロング(サウサンプトン)に次いでリーグで2番目に低く、またパス本数(90分平均)も5.17とサム・スミス(レクサム)に次いでこちらもリーグで2番目に少ない。リーグ3試合でのボールタッチ回数は35回、その内タッチ成功17回の失敗18回と後者が上回っているなど、およそアンダーラインデータの面では厳しい数字が立ち並ぶ。

もっとも、古橋のプレースタイルを思えば、後半のデータはさほど気にしなくてもいいだろう。一瞬のキレ、瞬発力に強みを持つ古橋にとってボールタッチ数が少ないことはある意味当然であり、またパス数も同様の観点から気にするべきではない。これらの数字が低いとゴールを取らない限りアプリ等での機械採点の数字は低くなってしまうが、そんなものは現実のフットボールにおいて何の意味も持たない。
ただゴール、そしてシュートに直結する数字については入念に検討する必要がある。それは本来、古橋を「古橋亨梧」たらしめているものに他ならない。
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Profile
秋吉 圭(EFLから見るフットボール)
1996年生まれ。高校時代にEFL(英2、3、4部)についての発信活動を開始し、社会学的な視点やUnderlying Dataを用いた独自の角度を意識しながら、「世界最高の下部リーグ」と信じるEFLの幅広い魅力を伝えるべく執筆を行う。小学5年生からのバーミンガムファンで、2023-24シーズンには1年間現地に移住しカップ戦も含めた全試合観戦を達成し、クラブが選ぶ同季の年間最優秀サポーター賞を受賞した。X:@Japanesethe72
