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地球上最多勝ち点の裏側、横山歩夢の後輩力、ポステコグルー派閥との再会…岩田智輝と振り返るバーミンガムでの1年(前編)

2025.07.17

昨夏の移籍市場で驚きをもって伝えられた日本人選手の動向の1つが、岩田智輝のセルティックからバーミンガム・シティへの移籍だった。スコットランドの名門を離れ、イングランドの3部に移った2022シーズンのJリーグMVPは、加入直後より不動の中盤として君臨。チームのEFLリーグ1優勝&チャンピオンシップ復帰を支えた1年を本人が振り返るインタビューを、2025-26シーズン開幕に先駆けて前後編に分けてお届けする(取材日:6月11日)。

 46試合、111ポイント。「不滅の」と言っても過言ではない1シーズンの最多勝ち点記録、それも「3部の」、「EFLの」、果ては「イングランドの」ですらなく、「地球上での」最多勝ち点記録が2024-25シーズンのバーミンガム・シティによって打ち立てられたことを知る人は、日本にそう多くはいない。

 「2022年JリーグMVPの岩田智輝がイングランド3部クラブに移籍した」。物事を表象的に捉えるなら、2024年夏のデッドラインデーに起きたことはそれ以上でもそれ以下でもない。たった1年半前まで横浜F・マリノスであれだけの活躍を見せていた彼が、セルティックでもそれなりの存在感を放っていた彼が、イングランドとはいえEFLリーグ1へ。日本のサッカーファンは当然のように、決して少なくない「なぜ?」の感情を向けた。

 6月、シーズンを終え束の間の休息を日本で過ごす岩田の表情は、充実感と自信、そしてまだ道半ばにある自らの目標への希望に満ちあふれていた。3部の常識を変え、沈痛な低迷の過去をかつてない新時代へと繋げようとしているクラブの文字通り中心で、彼はかけがえのない1年を走り抜いた。それは普通のフットボーラーがそう遭遇することのない、何もかもが普通ではない時間だった。

 「世界の勝ち点記録を作ったチームの中盤に君臨した日本人」、岩田智輝の正史を日本語でも書き記さなければならない。そう思って、私は彼にインタビュー取材を申し込んだ。

「プレミアへの一番の近道」バーミンガムは「家族のよう」

――これまで何度も聞かれていることかと思いますが、なぜバーミンガムに移籍したのでしょうか?

 「まずはその前のシーズン、セルティックで先発で出られる試合が本当に少なくて、それまで横浜FMの時もずっと先発として出ていたので、やはりもう一度その立場でプレーしたいと思っていました。もう1つは海外で慣れない生活の中、妻と子どもが頑張って生活している姿を見ていたので、自分もちゃんと試合に出て家族に恩返ししたいと感じていたのも大きいですね。

 実は前のシーズンが終わってすぐくらいにバーミンガムからはオファーをいただいて、そこから最終的に決まった移籍最終日まで彼らはずっと待ち続けてくれていました。自分がキャリアをスタートさせた大分トリニータでのプロ1年目もJ2からJ3へ降格してというタイミングで、バーミンガムも2部から3部に落ちて監督も変わってというタイミングだったので、雰囲気が似ているなとも思いましたね。それでプレミアで活躍するという自分の目標から逆算して考えた時に、3部から経験を積んでいってプレミアに上がるのが一番の近道、一番イメージしやすいルートかなと思って、バーミンガムへの移籍を選びました」

――イングランド3部でプレーした日本人選手は過去ほとんどいませんでした。情報も少ない中で、このカテゴリーへの移籍に不安はありませんでしたか?

 「正直に言えばチャンピオンシップ(2部)からプレミア、というのが理想的でしたが、まずは試合に出たいというのがあったので、すごく熱心にオファーをくれたバーミンガムが一番試合に関われそうかなと。3部といっても自分が上がっていければ1年だけで済む話なので、そこへの躊躇はまったくなかったです。バーミンガムであれば1年で上がれると……公言はしてなかったですけど(笑)。でもそう自分では信じていたので、楽しみの方が大きかったですね」

――同じ夏に加入した横山歩夢選手(1月にヨング・ヘンクへローン移籍して今夏にヘンクへと完全移籍)とはどのような関係でしたか?

 「面識はなくてバーミンガムに来て初対面でしたけど、すごくいい子で。いつも2人で話しながら仲良くやっていました。9月には急にクラブの人から『日本人の記者が来て(クラブのYouTubeチャンネル用に)インタビューするから』と言われて、『ああ、わかりました』という感じで2人で取材も受けました。チーム全体が本当にスタッフも選手も全員ウェルカムマインドというか、『よく来てくれた!』ぐらいのスタンスだったので、国籍関係なく家族のように接してくれましたね。

……

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Profile

秋吉 圭(EFLから見るフットボール)

1996年生まれ。高校時代にEFL(英2、3、4部)についての発信活動を開始し、社会学的な視点やUnderlying Dataを用いた独自の角度を意識しながら、「世界最高の下部リーグ」と信じるEFLの幅広い魅力を伝えるべく執筆を行う。小学5年生からのバーミンガムファンで、2023-24シーズンには1年間現地に移住しカップ戦も含めた全試合観戦を達成し、クラブが選ぶ同季の年間最優秀サポーター賞を受賞した。X:@Japanesethe72

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