
山口智監督体制5年目の湘南ベルマーレがクラブ史上初の開幕3連勝とJ1で躍進している。スロースタートのイメージが強かった彼らに、何が起こっているのか? クラブを追い続ける隈元大吾記者は、この快進撃は「変化」ではなく「継続」が実を結んだものだという。スタートダッシュ成功の背景をレポートする。
湘南が2025シーズン開幕から躍進している。
鬼木達新監督率いる鹿島を1-0で降すと、続くC大阪戦を2-1で制し、さらには浦和も2-1で退けた。開幕2連勝が平塚時代の1998年以来27年ぶりなら、同3連勝はクラブ史上初の快挙だった。昨季まで毎年のようにJ1残留争いに身を置いていたチームはそうして第3節時点で首位に躍り出た。
2022年以降の2ケタ得点者の増加が示す価値
にわかに注がれた好奇のまなざしに、しかしキム・ミンテは「いつもやっていることをただやっている」と涼しい顔だ。U-20日本代表の石井久継も、「周りからは調子がいいと見られがちですけど、今までずっと積み上げてきたことをそのまま出せているだけなので、自信を持ってみんなプレーできています」とチームの想いを代弁した。
彼らが語る通り、山口智監督が選手たちに求めるものは一貫している。
準備とポジショニング、相手を見ながらプレーすること、主体的にボールを奪い自分たちからアクションを起こして攻めること、すべてはゴールを奪うために。2021年9月に就任して以来、勝っても負けても、残留争いの渦中にあろうとも、指揮官が求める基準は揺るがない。
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— 湘南ベルマーレ (@bellmare_staff) January 16, 2025
思えば、彼らはこれまでもクラブの歴史を地道に動かしてきた。
2021年も残留争いを勝ち抜くと、翌年はJ1に復帰した2018年以降で最高位となる12位につけ、2023年は最終節を前に残留を決めた。昨季は26年ぶりにトップリーグで4連勝を記し、湘南としては過去最多となる53得点をマークした。
個人の数字も見逃せない。
2022年には町野修斗が13得点を挙げ、翌年も大橋祐紀が13得点で続き、昨季はルキアンが11得点、福田翔生と鈴木章斗がそれぞれ10得点と、3選手が2ケタに到達した。湘南となった2000年以降J1では一度も2ケタ得点者を輩出していなかった過去を踏まえれば、2022年以降の2ケタ得点者の増加は個々の努力や意識はもとより、ゴールの可能性を高めるチームとしてのつくりも欠かせまい。
事実、山口監督のもとで育む進化は、例えば30mライン進入回数やペナルティエリア進入回数にも表れている。以前まではリーグ平均を下回っていたこれらの数字が、2022年には平均値に迫り、昨季はボール保持率も併せてリーグ平均を上回った。攻撃にまつわる数値の向上が得点の増加に寄与していることは間違いない。
町野と大橋はその後日本代表に選ばれ、現在は欧州で活躍を遂げている。文字通り雨後の筍のように新たな才を次々と送り出している足跡もまた、チームとしてのたしかな成果に数えられよう。
守備の改善で統一された意思。求めるのは「タフさ」
もちろん、それでも毎年のように残留を争っている事実に、指揮官は自身の責任に言及し、選手たちも悔しさを口にする。だからこそ、結果に対する彼らの想いは今季これまで以上に強い。
意識の変化は、畑大雅の言葉に端的だ。……



Profile
隈元 大吾
湘南ベルマーレを中心に取材、執筆。サッカー専門誌や一般誌、Web媒体等に寄稿するほか、クラブのオフィシャルハンドブックやマッチデイプログラム、企画等に携わる。著書に『監督・曺貴裁の指導論~選手を伸ばす30のエピソード』(産業能率大学出版部)など。