SPECIAL

俺がやらねば誰がやる――清水エスパルス・乾貴士が有するのは数々の修羅場をくぐってきた『無形資産』

2023.11.22

【短期集中連載】J1昇格プレーオフのキーマン#3
清水エスパルス編:乾貴士

明治安田生命J2リーグ第42節が終わり、J1昇格プレーオフ出場クラブが決まった。3位東京ヴェルディ、4位清水エスパルス、5位モンテディオ山形、6位ジェフユナイテッド千葉の4チームだ。トーナメント形式の一発勝負で優勝チームがJ1昇格の権利を手にすることになる。この決戦のキーマンとなるのは誰なのか?

第3回の清水エスパルス編では、チームの攻撃をしなやかに牽引するファンタジスタ、乾貴士をピックアップ!

リーグ戦では10得点10アシストと大車輪の活躍!

 俺がやらねば誰がやる――。当人はそんな心境にあるんじゃなかろうか。苛烈なプレーオフに挑む清水エスパルスのキーパーソン。その最右翼に《乾貴士》の名前を挙げないわけにはいくまい。

 何しろ、レギュラーシーズンのチーム内における存在感は圧倒的だった。それは数字を見てもわかる。32試合に出場し、10得点10アシストをマーク。助っ人のカルリーニョス・ジュニオが15得点、チアゴ・サンタナが12得点を記録したが、計20得点にコミットした選手は乾をおいて他にはいない。

 今季の清水はすべり出しで大きくつまずいた。開幕からの7試合で5分け2敗。一度も勝てず、19位に沈んでしまう。改善の兆しが見えない前任者のゼ・リカルドが監督の座を追われ、コーチの秋葉忠宏が跡目を継ぐと、ベンチを温めていた乾に出番が回ってくる。第8節の東京ヴェルディ戦からスタメンの一角に収まり、攻撃陣の核として躍動。清水の逆襲が始まったのもそこからだった。

 秋葉体制下の戦績は20勝9分6敗。最終的に4位に終わったものの、1試合平均勝ち点は1.97で、J1への自動昇格を果たしたジュビロ磐田の1.79をしのぐものだ。また、1試合平均得点は2.11で、J2最多得点をマークするFC町田ゼルビアの1.88を上回るものだった。その動力源が乾だったのである。

 がっちり守る相手をどう崩すか。それは今季の清水に突きつけられた大きなテーマだ。事実、第7節まで悪戦苦闘。ほとんど外回り一辺倒で守備側のブロックを攻めあぐねる。この苦境を打開するにはライン間の攻略に優れるエキスパートが必要だった。そこで秋葉監督はチームきっての技術者に白羽の矢を立てる。

「敵の防壁を内側から破壊する《トロイの木馬》」という当たり役

 乾と言えば、ワイドオープンから鋭く仕掛ける左の翼として鳴らしてきたが、指揮官はトップ下に抜擢。これが見事、30代半ばを迎えたベテランの当たり役となる。狭いスペースで立ち回ることを苦にしない繊細な足業と創造力をもって、敵の防壁を内側から破壊する《トロイの木馬》と化したからだ。……

残り:2,541文字/全文:3,663文字 この記事の続きは
footballista MEMBERSHIP
に会員登録すると
お読みいただけます

TAG

乾貴士清水エスパルス

Profile

北條 聡

1968年生まれ。栃木県出身。早大政経学部卒。サッカー専門誌編集長を経て、2013年からフリーランスに。YouTubeチャンネル『蹴球メガネーズ』の一員として活動中。

RANKING