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育成でも欧州王者を目指すアストンビラ。その野心からヴィッセル神戸と戦略的パートナーシップ締結のヒントを探る

2023.11.02

10月19日に突如として発表されたアストンビラとヴィッセル神戸の戦略的パートナーシップ締結。イングランドの古豪を復活へと導いているオーナーのV Sportsはビトーリア・ギマランイスとZED FCも保有するマルチクラブ・オーナーシップを展開中で、新たに加盟する神戸を含め今後いかにピッチ内外で連携を深めていくのか。そのヒントを探るべく、“ビランズ”(アストンビラの愛称)が進めている様々なプロジェクトをサポーターの安洋一郎氏に紹介してもらった。

 アストンビラの快進撃が止まらない。

 昨季途中にウナイ・エメリを新監督に招へいすると、2022年11月の就任時点でプレミアリーグ15位だったかつての“欧州王者”は完全復活を遂げ、怒涛の追い上げでECL出場権を勝ち取る7位でフィニッシュ。今季もその勢いそのままに勝ち点を稼いでおり、第10節時点で勝ち点22を獲得。首位まで勝ち点4差の5位につけている。

 本拠ビラ・パークでは今年3月のクリスタルパレス戦から怒涛の12連勝を達成するなど、現在プレミアリーグで最も勢いがあるクラブと言っても過言ではない。その反面、アストンビラが日本で話題となることはほとんどないが、先日大々的に取り上げられる機会があった。それが10月19日にアストンビラとヴィッセル神戸が発表した「戦略的パートナーシップ締結」のニュースである。

 ヴィッセル神戸公式サイトによると、主な概要は「アストンビラを含むV Sportsネットワークの一員であるポルトガルのビトーリアSC(通称ビトーリア・ギマランイス)、エジプトのZED FCとのグローバルな連携」で、具体的には「若手選手の海外移籍支援や選手育成を含めたパスウェイの構築を筆頭に、指導者養成やクラブ間の人材交流、ユース年代における交流プログラム、チーム編成、スカウト、分析に関わる様々なデータや知見の共有など、 その領域は多岐にわたる」とのことだ。10月末にはさっそくヴィッセル神戸のアカデミーの選手たちが渡英してトレーニングに参加するなど、今後両クラブの関わりが積極的に進んでいくことが予想されるが、あまり日本のサッカーメディアで掘り下げられないアストンビラの情報を十分に知り得ていないヴィッセル神戸サポーターも少なくないだろう。

 そこでこの機会に、アストンビラが進めるプロジェクトやヴィッセル神戸と連携するであろう育成戦略を紹介しつつ、今後両クラブ間で起こり得そうな取り組みについても考察していく。

今や世界12位のクラブに!億万長者オーナー2人の下で急成長中

 現在のアストンビラに欠かせないのが、2018年夏に共同オーナーとなった2人だ。当時チャンピオンシップ(イングランド2部相当)に所属していた同クラブは、財政難から破産寸前だったが、彼らがクラブの抱える全借金を返済したことで存続が決まった。

 エジプト人実業家ナセフ・サウィリスとアメリカの実業家ウェズ・イーデンスは合同会社『V Sports』を立ち上げ、2023年4月には、もとから保有をしていたアストンビラに加えてエジプトのZED FC、ポルトガルのビトーリアSCの3クラブの経営権を獲得した。ヴィッセル神戸はこの3つのクラブと戦略的パートナーシップを締結したことになる。

 このマルチクラブオーナーシップを展開するサウィリスとイーデンスはどちらも億万長者として知られ、米誌『フォーブス』によれば2023年時点で総資産は前者が69億ドル(約9936億円)、後者は34億ドル(約4896億円)に上るという。プレミアリーグではニューカッスルとマンチェスター・シティに次ぐ資金力を誇るとも言われている共同オーナー2人は、2018年夏の就任時から“野心”を掲げて出し惜しみなくクラブに投資を行っている。

 その具体的な最終目的地を明かしたのは、アストンビラの守護神エミリアーノ・マルティネスだ。W杯優勝GKは、10月26日に行われたECLグループステージ第3節AZ戦の前日会見にて、「アストンビラはUEFAチャンピオンズリーグ(CL)で優勝し、トロフィーを獲得したいと考えている」と発言。彼らは本気で1981-82シーズン以来のCL制覇を目指している。

 そのためにまずはCL出場権獲得を直近の現実的な目標に掲げている2人のオーナーは、就任直前の2017-18シーズンまでチェルシーのマネージングディレクターを務めていたクリスティアン・パースロウを口説き落としてCEO(最高責任者)に招へい。レディースチーム、アカデミー、リクルート、インフラまでを含むすべてをアップデートした。結果としてあらゆる部門が急成長を遂げたクラブは、まずトップチームが1年でプレミアリーグへと復帰。現在『トランスファーマルクト』をのぞいてみても、世界で12番目に市場価値の高いチーム(6億3070万ユーロ/約953億円)にまで上り詰めている。

ビラ・パークに足を運び22-23プレミアリーグ第30節ノッティンガム・フォレスト戦を見守るサウィリスとパースロウ。2人の間には熱狂的なアストンビラサポーターとして知られるジョージ王子とウィリアム皇太子の姿も

 女子チームは2年で1部に昇格。2003-04シーズン以来のトップリーグ復帰を果たすと、昨季は5位という高順位でフィニッシュを果たした。

 リクルート面ではパースロウが20年夏にコペンハーゲンから引き抜いたスポーツディレクター、ヨハン・ランゲ(11月よりトッテナムのテクニカル・ディレクターに就任)の下で大胆な改革を敢行。今夏にはセビージャで手腕を発揮したラモン・ロドリゲス・ベルデホ、通称“モンチ”をフットボールオペレーション部門のトップ(実質的なテクニカルディレクター≒スカウト部門のトップ)に据えた。その部下に昨季までベティスでチーフスカウトを務めていたアルベルト・ベニートが入り、さらにその下でチーフスカウトのアレックス・フレイザーや指揮官のエメリとともにパリ・サンジェルマンやアーセナル、ビジャレアルで共闘した優秀なスカウト陣が働いている。……

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Profile

安洋一郎

1998年生まれ、東京都出身。高校2年生の頃から『MILKサッカーアカデミー』の佐藤祐一が運営する『株式会社Lifepicture』で、サッカーのデータ分析や記事制作に従事。大学卒業と同時に独立してフリーランスのライターとして活動する。中学生の頃よりアストン・ヴィラを応援しており、クラブ公式サポーターズクラブ『AVFC Japan』を複数名で運営。プレミアリーグからEFLまでイングランドのフットボールを幅広く追っている。

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