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帰ってきた指揮官。いわきFC・田村雄三監督が目指すのは『いわきらしさ』再演への回帰

2023.10.10

これがクラブのすべてと向き合ってきた男の底力だろうか。J2昇格初年度となる今シーズン。降格圏に喘いでいたいわきFCは、一昨シーズンまでチームを率いていた田村雄三監督の“復帰”とともに、明らかに息を吹き返した上、『いわきらしさ』と『魂の息吹くフットボール』の再演によって、むしろさらなる進化すらも推し進めているようにさえ見える。ならば、ここはクラブをJFL時代から見守り続けている福島民友新聞の小磯佑輔に、田村監督に率いられたいわきFCのいまを、多角的にあぶり出してもらおう。

いわきをつくった男による「復活劇」

 田村雄三新監督が就任後初めての公開練習で報道陣に向けて語ったのは、県1部からJFLまでチームを率い、いわきの礎を築いた男としての「責任」だった。

 「やるとすれば僕しかいないのかなと。『いわきらしさ』を取り戻すのであれば(チームを)作り上げてきた責任がある」

 その後のチームの復調は誰の目から見ても明らかだ。就任後の7試合でチームは4勝3分けの無敗。7月の月間優秀監督賞にも選出された。21位に沈むチームを劇的に変えた、田村監督の手腕に迫る。

【田村監督就任以前=第1~20節】

20試合4勝4分け12敗・勝ち点「16」

14得点(0.7点/試合)37失点(1.85点/試合)

【田村監督就任以降=第21~38節】

18試合7勝7分け4敗・勝ち点「28」

25得点(1.39点/試合)19失点(1.06点/試合)

「ミスを恐れるな、追い越せ」

 シーズンの折り返しを待たずしての監督交代の理由は、低迷した成績以上に「いわきらしさ」を取り戻すことにあった。

 「勝てないからではない。成績でもない。『魂の息吹くフットボール』を、外連味のないフットボールを取り戻すため、苦渋の決断をしました」(大倉智いわきスポーツクラブ社長)

 最初にてこ入れを行ったのは選手の精神面。選手のミスを認め、チャレンジを促すことから始めた。田村監督は語る。

 「最初のミーティングで『みんながみんなそうではないけど、ミスを恐れているし、失点したくないし、失点したら”ズドン”となっているよ。もっと極端なことを言ったら”前にボール蹴って良いよ、俺は受けたくないから”という雰囲気さえあるよ』と選手に伝えた」……

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いわきFC

Profile

小磯 佑輔(福島民友新聞社)

1996年1月生まれ。大学卒業後の2020年、福島民友新聞社に入社。翌21年にいわきFCの担当記者となり、2度の昇格を取材した。小中高時代は打つより投げることの好きな野球少年。大学時代にサッカーの面白さに出会って以来、毎週の海外サッカー観戦を欠かさない。

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