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“キング・フレンキー・システム”に舵を切ったブスケッツ後のバルセロナ。本来の創発的なアタックで殴り勝つ未来へ

2023.09.11

2021年11月に就任したシャビ監督の下、4季ぶりにリーガを制した昨シーズンを経て、今夏も5人の実力者をスカッドに加えたバルセロナ。リーグ開幕4戦を3勝1分(8得点4失点)で発進し、9月19日には2季連続グループステージ敗退中のCLで初戦を迎えるチームの現状を、長年バルサを追うぶんた(@bunradio1)さんに伝えてもらった。

ギュンドアンの順応と、ヤマルというサプライズ

 サウジアラビアの札束攻勢による一流選手の乱獲でざわついた夏の移籍マーケット。バルセロナは厳しい財政難ゆえにない袖は振れなかったが、選手の「憧れ」に訴求するブランド力で今シーズンも強力な陣容をそろえることができた。

 一番の注目はバルサ戦術の肝となるピボーテを10年以上担ってきたセルヒオ・ブスケッツ(→インテル・マイアミ)の後釜だったが、カンテラーノとしてバルサ・イズムを把握しているオリオル・ロメウをジローナから獲得。さらにポジショナルプレーを実装するチームにとって重要視される左利きの本格派CBとして、アスレティック・ビルバオからイニゴ・マルティネスを。そして昨シーズン、3冠を達成したマンチェスター・シティでキャプテンを務め、ペップ・グアルディオラからも絶大なる信頼を得ていたイルカイ・ギュンドアンをフリー移籍で加え、チームの屋台骨を着実に強化した。

 移籍マーケット最終日には、ホンモノの偽SBことカンセロと、ディエゴ・シメオネの下で燻るフェリックスという2人のジョアンもレンタルで獲得することに成功。これにより1つのポジションに実力者が2人そろい、リーガ連覇とともに昨シーズンはミスったCLという本丸に突き進む野心が垣間見えるのであった。

 特に期待したい新加入選手はギュンドアンだ。落語にたとえるなら古典を極めるようなフットボールで勝利を追求するシャビ・バルサに、毎年新作の噺を創作して笑いをかっさらい、進化しながら勝ち続けているシティのフットボールで得た知見が注入されることで、どういうケミストリーが発生するだろうか。

 さっそくギュンドアンは、ケガをしたペドリの穴埋めをする中盤の舵取りをやりつつ、ドルトムント時代の旧友、ロベルト・レバンドフスキとのペアリングを強めながらゴールをうかがう姿勢もしっかりと見せ、味方と相互作用しながら「ゴールを奪う」というチームタスクのキーマンになろうとしている。 

 そんなギュンドアンのボールプレーにおける選択肢の引き出しの豊富さと判断の正確性をピッチ上で目の当たりにするペドリとガビがどれだけの影響を受けるか。その昔、シャビ自身がデコ(現スポーツディレクター)と一緒にプレーしたことで忠実なパサーから試合の流れを汲み取れる有能なゲームメイカーへと一皮剥けるきっかけを得たように、その偉大な経験から若き2人の隠れた能力が引き出されるか。シーズンを通して注目したいところである。 

 当然のように馴染んだギュンドアンの順応力にも驚いたが、新戦力でのビッグサプライズはカンテラから昇格した16歳のラミン・ヤマルである。ピッチに立てば年齢など関係ないとはいえ、間違いのない判断力、背中にマーカーがいてもワンターンの一瞬で前向きになれる空間認知と俊敏性、1対1でのボールの置きどころと運び方、カットインの鋭い仕掛け、正確無比なアーリークロスなど、第3節ビジャレアル戦(○3-4)ではウイング特有の勇敢さの中に俯瞰で見て最も納得のいくプレーでバルサの花形ポジションでも十分やっていけるポテンシャルを見せつけてくれた。

 頭のネジが一本外れ、自分の才能と折り合いがつけられずにいたウスマン・デンベレ(→パリ・サンジェルマン)との無情の別れを、若きカンテラーノは一蹴させたのだった。

“解放”されたフレンキー+副官ロメウ

……

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Profile

ぶんた

戦後プリズン・ブレイクから、男たちの抗争に疲れ果て、トラック野郎に転身。デコトラ一番星で、日本を飛び出しバルセロナへ爆走。現地で出会ったフットボールクラブに一目惚れ。現在はフットボーラー・ヘアースタイル研究のマイスターの称号を得て、リキプッチに似合うリーゼントスタイルを思案中。座右の銘は「追うもんの方が、追われるもんより強いんじゃ!」

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