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インテルの2トップとどのように対峙するか、ペップ・シティの選択やいかに。CL決勝プレビュー

2023.06.08

6月10日、ついに22-23シーズンの欧州王者が決定する。悲願のCL初制覇をもくろむマンチェスター・シティと、13シーズンぶり4度目(チャンピオンズカップ時代を含む)の優勝を目指すインテルの激突の戦術的なポイントがどこになるのか。世界中から視線が注がれる一戦をらいかーると氏が展望する。

 サッカー文化の衝突と表現されることもあるCLも、いよいよファイナルを迎える。資金的な意味でも最も競争力のあるプレミアリーグのチームたちが本命に挙げられる中で、レアル・マドリーがすべてをなぎ倒していった昨シーズンの決勝は全世界に大きな衝撃を与えた。そんなレアル・マドリーへのリベンジを今シーズン成し遂げ、悲願のCL制覇までたどり着きそうなマンチェスター・シティ。

 対するはインテル。多くの人がシティ優位を予想する中で、リーグ戦で苦戦しながらも終わってみては来シーズンのCL出場権を確保し、コッパ・イタリアでは優勝している。シモーネ・インザーギ監督がカップ戦のファイナルで無類の強さを発揮しているというデータもあり、シティにとっては不気味でしょうがないだろう。

 そんな両者のぶつかり合いは、どのような試合になるだろうか。淡々と整理しながら考えていきたい。プレビューは占いのようなものである。当たるも八卦当たらぬも八卦。グアルディオラの奇策によって、このプレビューが無に帰す可能性もあるんじゃないかという予想も含めて、プレビューとすることをご容赦ください。

過去と比較すると、立ち位置が異なるグアルディオラ

 グアルディオラといえば、ボール保持からの高速トランジションによるショートカウンターと無限ボール保持の2択を相手に迫るサッカーを基本としてきた。今までは奇策を行ったとしてもこの枠組みをスムーズにするためであり、枠組みから外れることはほとんどなかった。ある意味で、チームグアルディオラのサッカーは不変であった。ボールを放棄したり、自陣に撤退してカウンターを狙ったりなんて選択肢はあり得なかったのだ。

 しかし、今季のシティは試合状況に応じて撤退守備からのカウンターも武器としている。気がつけば、どのような状況に対しても高いレベルで対応できるようになっているのだ。簡単に整理をすると、本職を守備とする選手の大量起用によって、撤退守備の安定とネガティブトランジションでの1対1のレベルアップを手に入れた。アーリング・ホーランドの獲得によって地上戦だけでなく、自陣からの速攻とカウンターを選択肢に入れるようになったシティの戦術の幅は手広くなっている。

 手段は多様だったとしてもボール保持と高速トランジションで突撃するしかなかった過去に対して、現在のシティはボール保持と高速トランジションは装備しながらも、速攻やカウンター、インテルにボールを保持させる撤退守備を選択肢として持っている。グアルディオラがどの“表情”でインテルと向き合うかは最初の注目ポイントとなるだろう。おそらくは手慣れたボール保持と高速トランジションで試合に入り、徐々に6人目の攻撃(詳しくは後述)を解禁、先制したら撤退守備からのカウンターに移行するのが、今季のなりふりかまっていられない時のシティがよく見せる表情だと認識している。

 グアルディオラに多彩な選択肢があるのに対し、インテルに選択肢があるかといえば、あるようでない。正確に言うならば、インテルはボールを保持しようがしまいがあまり関係ない立ち位置にいるように見える。これまではグアルディオラのサッカーは不変であり、相手が何を仕掛けてくるかを予想するものだったが、今回は真逆の構造になっていることは新しい変化と言えるだろう。

準決勝レアル・マドリー戦第2レグのハイライト動画。RBライプツィヒ、バイエルン、そして王者レアル・マドリーを破って2シーズンぶりに決勝の舞台に立つ

インテルの選択肢を消すプレス+[5-3]ブロック

 インテルのプレッシングの配置は[5-3-2]を基本としている。2トップの片方の選手がボールサイドの守備に加勢することもあるが、基本的には前で相手のCBと対峙して相手の攻撃が終わるのを待っていることの方が多い。高い位置から攻撃的なプレッシングを行うこともあるが、得意としているのはミドルゾーンからのプレッシングだ。ボール保持者にプレッシングをかけてボールを奪い切るよりは、保持者の選択肢を消していくことでボールを奪い切る。ライン間や相手の隙間でボールを受けようとする選手に対して、3センターや5バックから選手を加勢させることもインテルの特徴として挙げられる。その時にさっとスライドすることでスペースを消すことも忘れないところは、さすがイタリアのチームといったところだろうか。

 [5-4-1]はほとんど見たことがなく[5-3]で守り切る場面が多く、隙は存在する。ゆえに相手にフィニッシュまでたどり着かれることもあるのだが、そこはアンドレ・オナナが立ちはだかる。それなりに人数をかけて守っても、シュートを打たれる時はあると割り切っているように見える。ボールを保持することで守備をする“完璧主義”に染まり過ぎないことも大切なことなのかもしれないと、イタリアのチームは教えてくれる。

準決勝ミラン戦第2レグのハイライト動画。決勝ラウンドではポルト、ベンフィカ、宿敵ミランを下し13シーズンぶりの決勝進出を遂げた

3バックか4バックか、シティの2つの選択肢

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UEFAチャンピオンズリーグインテルマンチェスター・シティ

Profile

らいかーると

昭和生まれ平成育ちの浦和出身。サッカー戦術分析ブログ『サッカーの面白い戦術分析を心がけます』の主宰で、そのユニークな語り口から指導者にもかかわらず『footballista』や『フットボール批評』など様々な媒体で記事を寄稿するようになった人気ブロガー。書くことは非常に勉強になるので、「他の監督やコーチも参加してくれないかな」と心のどこかで願っている。好きなバンドは、マンチェスター出身のNew Order。 著書に『アナリシス・アイ サッカーの面白い戦術分析の方法、教えます』(小学館)。

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