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“現代サッカーのアンチテーゼ”の前に敗北。リバプールの誤算と向かう先

2022.05.30

2021-22CL決勝レビュー:リバプール視点

5月28日、2021-22シーズンの欧州クラブサッカーシーンのクライマックスとなったCL決勝は、レアル・マドリーがリバプールを1-0で下し14度目の欧州制覇を遂げた。 世界中の視線が注がれた一戦を、レアル・マドリー、リバプールそれぞれの視点で振り返るリバプール編。

レアル・マドリー編はこちら

 近年のプレミアリーグで覇権を争っているチームはマンチェスター・シティとリバプールだ。マンチェスター・シティがボールを保持する局面を志向しているのに対して、リバプールは速攻やカウンター、トランジションを志向していた。両チームのキャラの差は思想の対決とも表現され、世界中から今でも注目を集めている。

 両チームが対決を繰り返していく中で興味深い現象が起こった。両チームのサッカーが収斂(しゅうれん)していったことだろう。なぜなら、ボール保持、トランジション、ボール非保持の局面において、苦手な局面を作ってしまうことが結果を手に入れるうえで命取りになってしまうからだ。マンチェスター・シティはボール保持を基盤としながら、ボール非保持の局面でも強度を手に入れたことでカウンターという新たな武器を手に入れた。一方のリバプールはチアゴ・アルカンタラを中心とするボールプレーヤーを起用することで、ボール保持局面での強さを手に入れることに成功している。

 現代サッカーの権化のような両チームに共通する点は、ボール保持によるリスクマネージメントと11人によるハードワークといったところだろう。文字にすると、至極当たり前のことだ。ボールを保持していれば相手の攻撃機会を削ることができるし、相手からボールを奪うためには11人全員でプレッシングを行う必要がある。スペシャルな選手がプレッシングを熱心に行ってくれないがゆえに、苦労している強豪がいることは周知の事実だ。しかしこの両チームに限って言えば、モハメド・サラー、ケビン・デ・ブルイネといったスペシャルな選手ですら自分たちのサッカーを実現するために、試合で結果を出すために熱心にプレッシングに参加することが当たり前となっている。

 “ちゃんとやる”ことで現代サッカーを牽引しているマンチェスター・シティとリバプールだが、レアル・マドリーの前にCLで仲良く敗れ去ってしまった。レアル・マドリーは現代サッカーのアンチテーゼのような存在だ。カリム・ベンゼマとビニシウス・ジュニオールは、よっぽどの状況にならない限りは撤退守備に参加することはない。計算された配置によるビルドアップが常識の昨今において、無茶振りの連続でボールを運んでいくレアル・マドリーは異質である。さらに、相手にボールを渡して1対1、フィニッシュの局面を作られることもあまり気にしていないように映る。レアル・マドリーもボール保持を好んではいるが、ボール保持によって試合をリスクマネージメントするつもりはほとんどないのではないだろうか。

 よって、現代サッカーの価値観から照らし合わせると、レアル・マドリーの試合内容は常に危険に満ちあふれている。今回のCLファイナルでもボールを保持し、シュートまでたどり着いた回数はリバプールに圧倒的に軍配が上がる。つまり、現代サッカーを基準とした試合内容の評価ではレアル・マドリーは負けてしまうことが多いはずなのだが、結果としてレアル・マドリーは今季のCLで勝ち続けている。この差異が、リバプールの未来にどのような影響を与えていくだろうか。かつてのスペイン代表はボールを保持して相手を圧倒するが、カウンターで破れることをまったく気にしていなかったらしい。その結果、EURO2008以降の素晴らしい結果に繋がったことは言うまでもないだろう。しかし、時代は変化し進化している。CL決勝でレアル・マドリーにボールを持たされて敗れ去ったアトレティコ・マドリーが根性でボールを保持できる姿を目指しているように、レアル・マドリーは相手に様々な示唆を与える稀有なチームとなっていることもまた事実だ。

 CLファイナルの試合内容を振り返りながら、リバプールの未来予想図について考えていきたい。

最初の誤算は、折れないレアル・マドリーのビルドアップだった

 リバプールの代名詞はハイプレッシングだ。ファイナルでもその姿勢は変わらず、サディオ・マネを出発点とするプレッシングはレアル・マドリー陣地のペナルティエリア付近から何度も繰り返された。スピードの速さと判断の早さによって相手から時間を奪っていくリバプールのプレッシングに対して、レアル・マドリーは正面衝突を繰り返していった。

 ビルドアップの逃げ場としてSBへの浮き球、ウイングへのロングボールを準備していたレアル・マドリーだが、ビニシウスにイブラヒマ・コナテを当てたリバプールの策によって、左サイドを起点とする前進の精度を落とすことになった。右サイドのフェデリコ・バルベルデとアンドリュー・ロバートソンの争いは若干優位に立っているようにも見えたが、レアル・マドリーの振る舞いを観ていると、真の狙いはロングボールからのセカンドボール争いにあるように感じた。しかし、そのセカンドボール争いではそもそものヘディングの精度、チアゴ・アルカンタラとファビーニョの献身によって後手に回ることとなってしまう。

 レアル・マドリーはミスパスやロングボールを繰り返しながらも、即失点に繋がるような致命的なボールの失い方は避けているようだった。このような状況になれば、ゴールキックを蹴っ飛ばす選択も大いにあるだろう。しかし、レアル・マドリーはまったくブレなかった。リバプールのハイプレッシングに対して、ショートパス主体による前進からロングボールを中心とする前進へ切り替えることはよくある話だ。端的に言えばリバプールのプレッシングにびびり、目の前の失敗=即失点を避けるためにロングボールを選択することは、理にかなっているように感じる。

 しかし、レアル・マドリーは切り替えない。そして時間の経過とともに、個々の能力が高いレアル・マドリーに対し、リバプールからすれば本来は奪える位置で奪えない場面が出てくる。ボールを奪えなければ、プレッシングで後手に回るようになる。心が折れたわけではないものの、いつもと違う雰囲気を感じていたのはリバプールの方だったのかもしれない。実際に、レアル・マドリーのゴール場面は自陣のスローインから無理矢理に繋いだ、折れない心によって生まれている。

59分、ビニシウスにネットを揺らされたリバプール。この1点が重くのしかかることになった

 だとすれば、レアル・マドリーの心を折るくらいの強度をリバプールが見せれば良かったのかもしれない。しかし、ティボ・クルトワまで襲いかかるプレッシングをかければ、レアル・マドリーにスペースを与えることになる。スペースを与えれば、ベンゼマとビニシウスのコンビに躍動するチャンスを与えるかもしれない。リスクマネージメントを考慮すれば、リバプールはギリギリの攻撃的なプレッシングは行ったと言えるだろう。ただし、ビニシウスに負けなかったコナテとファン・ダイクならば、レアル・マドリーのカウンターに耐え切れたかもしれない。だが、そのようなリスクを受け入れる考え方は、現代サッカーの文脈からは遠いものとなっている。

次の誤算は、ボール保持から効果的に崩せなかったこと

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Profile

らいかーると

昭和生まれ平成育ち。サッカー指導者にもかかわらず、様々な媒体で記事を寄稿するようになってしまった。ただ、書くことは非常に勉強になるので、他の指導者も参加してくれないかなと心のどこかで願っている。好きなバンドは、マンチェスター出身のNew Order。 著書に『アナリシス・アイ サッカーの面白い戦術分析の方法、教えます』