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Si Senor!ボビー・フィルミーノを愛さずにはいられない【リバプール退団によせて】

2023.05.31

ロベルト・フィルミーノがリバプールでの8年間のキャリアに幕を下ろした。「クラブ史上最強」とも言われるチームで、チーム戦術の要となるポジションでプレーし、リバプールに7つのタイトル(CL、PL、FAカップ、リーグカップ、クラブW杯、UEFAスーパーカップ、コミュニティシールド)をもたらした輝かしい8年間だった。「誰もがボビー・フィルミーノを愛さずにはいられない」と語ったのは指揮官ユルゲン・クロップだが、「ボビー」と呼ばれて親しまれた“オレたちの9番”は、世界中のファンから熱烈に愛され、崇拝された選手だった。実際、クラブ史上、最も愛された非英国系の選手と言っていい。アンフィールドを去った功労者への敬意と感謝の印として、ファンが彼を愛さずにはいられなかった理由を紐解いてみたい。 

 母国のフィゲイレンセでプロ選手としてのキャリアを歩み始めたブラジル人FWは、2015年6月にホッフェンハイムからリバプールに加入した。7年間ドルトムントを率いた後、同年10月にまるでフィルミーノの後を追うかのようにドイツからリバプールにやってきたユルゲン・クロップ監督は、同じブンデスリーガでプレーしていたフィルミーノが前線ならどこでもプレーできる選手であることを知っていた。そこで、彼の高いユーティリティ性を生かした“偽9番”戦術の採用を決め、彼のパスに合わせられる高速ウインガーの獲得に動いた。

 2016年にサディオ・マネ(現バイエルン)、2017年にモハメド・サラーをチームに加えると、破壊力抜群の3トップが完成し、17-18シーズンからの5年間に3人で合計338ゴールをマーク(サラー156ゴール、マネ107ゴール、フィルミーノ75ゴール)。同期間にフルアムがチームとして記録したゴール数(337)より1ゴール多く、ウェストハムの同ゴール数(339)より1ゴール少ないだけという驚異的な数字を残した。この間、リバプールはCL決勝に3度進出し、2019年には優勝。同年12月にカタールで開催されたクラブW杯決勝では、フィルミーノが母国ブラジルのチーム、フラメンゴから決勝点を挙げ、リバプールに初の世界王者のタイトルをもたらした。そのシーズンのフィルミーノは、3トップの中で唯一リーグ戦全38試合に出場し、9ゴール8アシストを記録して、30年ぶりのプレミアリーグ優勝に大きく貢献した。

111ゴール72アシスト、以上の貢献

 フィルミーノは、「リバプールの歴代得点ランキング」の16位にランクインしている。

リバプールの歴代得点ランキング

※1960年以降にデビューした選手のみ掲載
※数字は左から「得点数」「出場試合数」「1得点に要した試合数」

1.  イアン・ラッシュ     346 660 1.91
5.  モハメド・サラー     186 305 1.64
6.  スティーブン・ジェラード 186 710 3.82
7.  ロビー・ファウラー    183 369 2.02
8.  ケニー・ダルグリッシュ  172 515 2.99
9.  マイケル・オーウェン   158 297 1.88
14. サディオ・マネ      120 269 2.24
15. イアン・セント・ジョン  118 425 3.6
16. ロベルト・フィルミーノ  111 362 3.26
18. ジョン・バーンズ     108 407 3.77
19. ケビン・キーガン     100 323 3.23
20. ジョン・トシャック     96 247 2.57
22. ルイス・スアレス      82 133 1.62
23. フェルナンド・トーレス   81 142 1.75

 362試合に出場して111ゴールという記録は、マネ(269試合120ゴール)やサラー(305試合186ゴール)のそれと比べると、やや見劣りするかもしれない。実際、「フィルミーノは点が取れない」という批判もあった。だが、そうした批判が出るたびに、「ボビーはオーケストラで12の異なる楽器を1人で演奏しているようなものだ」とクロップは語り、1人で多くのタスクをこなし、得点数には表れない形でチームに大きく貢献しているフィルミーノを称賛し続けた。

 「彼(フィルミーノ)は我われにとってすごく重要な選手だ。コネクターであると同時に、私が知っている中で最高の攻撃的DF(the best offensive defender)だ。ボールホルダーを追い回してくれる。そして複雑なことを実にうまくやってくれる。テクニックも最高レベルだ。すごく狭いタイトなスペースでプレーすることができ、瞬時に素晴らしい判断をする。その上、ゴールまで決めてしまう……正確な数字は忘れたが、先日のアトレティコ・マドリー戦(2021年10月19日)で走行距離が最も長かった攻撃の選手はボビーだった」

 ドイツ人指揮官は、マネとサラーがゴールを量産している陰には、フィルミーノの自己犠牲があることを強調することも忘れない。

 「みんなボビーのことが大好きだ。好きにならずにはいられない。仮にボビーが良い人じゃなかったとしても、ウチの選手たちはみんなボビーのことが大好きだろうね。自分たちのために仕事をしてくれるからだ。モー(サラー)とサディオ(マネ)はボビーのことが大好きだよ。彼らを前に走らせてくれるし、ラストパスやその1つ前のパスをくれるからだ。中盤の選手たちもボビーのことが大好き。相手の選手を彼らが捕まえやすいところまで追い込んでくれるからだ。最終ラインの選手たちも同じ理由でボビーのことが大好きだよ。アリ(アリソン)とボビーはそもそも大親友だが、誰もがボビー・フィルミーノを愛さずにはいられない。すごく良いヤツなんだ。フィルミーノは点が取れないなんて言う人がいるから、彼が点を取るとすごくうれしいよ。チーム内にはそんなことを言う人はいないんだがね」

 実際、歴代得点ランキング16位のフィルミーノは、アシストランキングでは順位を上げ、7位にランクインしている。……

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イングランドフィルミーノプレミアリーグユルゲン・クロップリバプールロベルト・フィルミーノ文化

Profile

田丸 由美子

ライター、フォトグラファー、大学講師、リバプール・サポーターズクラブ日本支部代表。年に2、3回のペースでヨーロッパを訪れ、リバプールの試合を中心に観戦するかたわら現地のファンを取材。イングランドのファンカルチャーやファンアクティビストたちの活動を紹介する記事を執筆中。ライフワークとして、ヨーロッパのフットボールスタジアムの写真を撮り続けている。スタジアムでウェディングフォトの撮影をしたことも。

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