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シティが直面したオープン化の代償。グアルディオラの計算が違った要因を分析する【Rマドリー 1-1 マンチェスターC】

2023.05.12

昨シーズンに続き再びCL準決勝の舞台で顔を合わせることになったレアル・マドリーとマンチェスター・シティ。欧州最高レベルのチーム同士の激突で、ピッチ上ではいかな戦術的攻防が繰り広げられたのか。らいかーると氏が紐解く。

 昨年の大会覇者レアル・マドリーはリーグ戦でどこか不安定な試合を続けているが、カップ戦では相変わらず強さを維持している。彼らの恐ろしさは全方位に対応できる戦術の幅にある一方で、撤退守備からのカウンターはどこかハイリスクハイリターンを受け入れている節もある。セルヒオ・ラモス、ぺぺ時代から続くCBの質的優位大作戦やGKティボ・クルトワがとにかく止めまくる“再現性のない再現性”が機能しないと、あれよあれよとリスクが大きくなっていくのかもしれない。

 対するは、過去5シーズンで4度プレミアリーグを制しているリーグ戦の鬼ことマンチェスター・シティ。悲願のCL優勝に向けて、ボール保持?なにそれ?状態にとうとう突入したシティは、まさになりふりかまってられない!と叫んでいるように感じる。

 バルセロナ時代から続く、ボールを保持することにある意味”呪われた”グアルディオラが、その呪縛が解けた末に対峙するのが、バルセロナ時代に何度も名試合を繰り広げてきた相手であり、そもそもなりふりとは……といった禅問答に答えをとっくに出しているかのようなレアル・マドリーというめぐり合わせは、良くできたストーリーと言えるのではないだろうか。

徐々にはまらなくなっていくプレッシング

 CL優勝への飽くなき渇望を示すような立ち上がりを見せたのはシティだった。ボールを失ってもすぐにロドリが奪い返し、クルトワの出番が増える。非常にシティらしい展開を序盤から敵地サンティアゴ・ベルナベウで披露することに成功した。

 3分に言葉で説明することが難しいようなプレッシング回避を見せるも、シティの圧力の前にボールを逃がすことができない展開となったレアル・マドリーだが、そんな状況でも意地でも自陣からボールを繋ごうとする姿勢は、まさにレアル・マドリーらしさを象徴しているようだった。普通のチームだったら、ロングボールでお茶を濁すところである。

 シティのキックオフに対して、レアル・マドリーはラインを上げずに対応していた。アーリング・ホーランドへの警戒心は最大だった。ノルウェー代表FWに対して、アントニオ・リュディガーとダビド・アラバはマンマークを決めずに対応。位置的にリュディガーとのマッチアップの機会が多かったが、それはマヌエル・アカンジのサイドからボールが展開されることが多かったからに見えた。一方のホーランドも高さでより優位に立てるアラバを狙い撃ちにする素振りはまったく見せなかったので、お互いに特に意識したマッチアップだったではないだろう。

 シティがボールを持つ展開で、レアル・マドリーは撤退守備を行う場面が増えてくる。ビニシウス・ジュニオールが攻め残ることで有名だが、この日のビニシウスは不安定ながらも後方に下がる場面が多かった。ボールを持つベルナルド・シルバをカイル・ウォーカーが追い越す場面はビニシウスが守備に加勢しないことを狙い撃ちにしたシティの策だったのかもしれないが、ルカ・モドリッチ、アラバのサポートを得た左SBエドゥアルド・カマビンガが圧倒的なパフォーマンスで立ちふさがったのは、ペップ・グアルディオラにとって計算違いだった可能性は高い。

左SBで先発したカマビンガ。シティの攻撃陣を封じ込んでみせた

 レアル・マドリーにボールを保持されることをシティがどう考えるかが、この試合のポイントの1つだった。結論から言えば、シティはクルトワまではプレッシングにあまり行かないものの、高い位置から[4-4-2]でプレッシングをかけた。前からボールを奪いに行けば、相手はロングボールで回避するかもしれない。そうなれば、試合がオープンになることもあるだろう。しかし、そのためのジョン・ストーンズ、アカンジ、ルベン・ディアス、ウォ-カーである。レアル・マドリーにボールを持たれることはボールを奪い返すコストを考えると、あまり得策ではないと考えたのだろう。というわけで、シティはハイプレッシングを基本的には採用した。

 しかし、そのプレッシングがなかなかはまらなかった。平然とボールを回すことで定評のあるレアル・マドリーは、トニ・クロースが立ち位置でケビン・デ・ブルイネとハーランドを牽制し、クルトワ、アラバ、リュディガーで延々とボールを回しながら前進のチャンスを狙う。シティのロドリ、イルカイ・ギュンドアンはさすがにクロースまで出張る勇気はないようで、同数になる気配のないプレッシングにレアル・マドリーが驚くことはもちろんなかった。

 11分にシティはプレッシングを[4-4-1-1]に変更する。これによりデ・ブルイネにクロースをつける形になったのだが、ボールを持つ状況こそ時間限定ながらアラバが生き生きするようになった。ここからレアル・マドリーの時間が始まる……かと思いきや、レアル・マドリーは突然ロングボールを連発し始めるから面白い。……

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UEFAチャンピオンズリーグマンチェスター・シティレアル・マドリー

Profile

らいかーると

昭和生まれ平成育ちの浦和出身。サッカー戦術分析ブログ『サッカーの面白い戦術分析を心がけます』の主宰で、そのユニークな語り口から指導者にもかかわらず『footballista』や『フットボール批評』など様々な媒体で記事を寄稿するようになった人気ブロガー。書くことは非常に勉強になるので、「他の監督やコーチも参加してくれないかな」と心のどこかで願っている。好きなバンドは、マンチェスター出身のNew Order。 著書に『アナリシス・アイ サッカーの面白い戦術分析の方法、教えます』(小学館)。

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