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「日本のファルカオ」となれるか。上田綺世が考えるストライカーに必要な「エゴ」の捉え方

2023.03.31

南米勢を迎え撃ったカタールW杯後初の代表ウィークを1分1敗で終えた森保ジャパン。回帰した[4-2-3-1]の基本布陣で1トップに起用された3選手中、最大となる計74分の出場時間を得たのは上田綺世だった。ウルグアイ戦はニアへ潰れる動きで西村拓真の同点弾をお膳立て、コロンビア戦では驚異の跳躍力でゴールに迫るヘディング2発。無得点ながらも確かな存在感を発揮した24歳は、ストライカーに求められる「エゴ」をどう捉えているのか。サッカージャーナリストの舩木渉氏が直撃した。

 カタールW杯が終わり、次の4年間に向けた日本代表の新たな挑戦が始まった。カタール大会が冬開催、2026年の北中米大会は夏開催のため、次のW杯に向けた準備期間は実質3年3カ月となる。

 ウルグアイ代表と1-1の引き分け、コロンビア代表には1-2で敗れた3月シリーズは勝利なしに終わった。とはいえ第2次森保ジャパンが何もしていなかったわけではない。次なる世界の舞台で「優勝を目指す」ことを掲げ、新たな戦術の浸透などにトライし始めた。

 そうしたチームの取り組みや裏側の様子は、日本サッカー協会(JFA)の公式YouTubeチャンネルで配信されているドキュメンタリー『Team Cam』でもうかがい知ることができる。3月シリーズからはファン・サポーター向けの練習公開が再開したことも取り上げられていた。

 合宿初日の練習後に即席で見学に訪れた子どもたちと日本代表選手のハイタッチ会が行われた。その場面もウルグアイ代表戦に向けた合宿序盤の活動をまとめた『Team Cam vol.1』の中で見ることができる(12:35〜)。

 選手たちが列に並んだ子どもたち一人ひとりとハイタッチしていた最中、ある少年が「好きな選手は?」という質問をぶつけた。問われた上田綺世は「ファルカオ」と答えた。おそらくその場にいた子どもたちのほとんどは、この名前にピンとこなかったのではないか。

憧れのファルカオとの大きな差は…

 ラダメル・ファルカオ・ガルシア・サラテは、コロンビア代表のストライカーだ。今年で37歳になり、現在はスペイン1部のラジョ・バジェカーノに所属している。アルゼンチンの名門リーベル・プレートでプロデビューし、ポルトガル、スペイン、フランス、イングランド、トルコと欧州の主要リーグを渡り歩いてきた。コロンビア代表でのキャリアも15年を超え、100キャップ以上を刻んでいる。

 最も輝いていたのは、おそらく2011年から2013年まで在籍したアトレティコ・マドリー時代だろう。スペイン1部リーグで2シーズン連続20得点以上という驚異的な成績を残し、ワールドクラスのストライカーという評価を確立した。キャリアを通じて2年連続のEL得点王や、各国でのリーグ優勝など多くのタイトルを獲得している。

2011-12シーズンのEL決勝後、アトレティコ指揮官のディエゴ・シメオネと肩を組んで優勝を祝うファルカオ。この日もアスレティック・ビルバオとの同国対決(3-0)で殊勲の2得点を挙げ、計12ゴールで2季連続の大会得点王に輝いた

 ただ、マンチェスター・ユナイテッドやチェルシー、モナコといった強豪クラブでもプレーした実績はあれど、2020年代に入ってからは第一線で目立つ存在ではなくなっている。上田に質問をぶつけた小学校低学年くらいと見られる少年が「ファルカオ」を知らなくても不思議ではない。

 一方、コロンビアでは今もA代表のキープレーヤーの1人であり、子どもたちの憧れでもあり続けている。ネストル・ロレンソ監督は「まだまだ代表に貢献できる選手。北中米W杯でも活躍できる」と、同国歴代最多得点記録を持つレジェンドFWを称えた。

 「彼は仮に90分出られなくても、15分間、20分間、30分間といった時間でも結果を残せる。昨年のパラグアイ代表戦でも交代で入った途端にゴールを決めた(2022年11月20日、ファルカオは75分に途中出場し76分に得点。コロンビア代表が2-0で勝利)。あらゆる意味でチームに貢献できる選手だ」(ロレンソ監督)

 代表での経験が浅い若手FWジョン・アリアスが「人間としても素晴らしく、ピッチ内外で彼が手本になっている。サッカーだけでなく社会にも大きく貢献をしてきた。僕を含め、多くの選手にとって憧れの存在だ」と語ったように、ファルカオはコロンビアで多くの人々からリスペクトを集め、絶大な影響力を持つ選手であり続けている。

 上田にとってもファルカオは中学生の頃から特別な存在。コロンビア代表戦前日には「ゴール前での嗅覚、あとはアイディアですね。中学生の頃、僕はとにかく点を取る選手が好きでしたけど、アトレティコですごいテンポで取っていたし、コンスタントに点を取るところも好きなポイントでした」と、ファルカオに対する熱い思いを口にしていた。

 ストライカーという道を極めるべく突き進む上田だが、ファルカオと大きく違う点がある。それは代表チームでのゴール数だ。コロンビア代表で歴代最多36得点を挙げてきたレジェンドに対し、上田は日本代表で14試合に出場しながらいまだ無得点が続いている。

 初ゴールに近づきながら、なかなかゴールネットを揺らせないまま日本代表デビューから4年が経とうとしている。今回のコロンビア代表戦でも66分に2人の長身CBに挟まれながら、彼らのはるか頭上でボールを捉えたヘディングシュートが相手GKの好セーブに阻まれてしまった。

 上田に限らず、センターFWの得点力不足は日本代表にとって積年の課題と言える。特に大迫勇也が代表チームから遠ざかって以降は、より一層深刻になった。カタールW杯では主に前田大然が1トップで先発起用されたものの、期待されたのは得点よりも前線からの激しいチェイシングなど守備面での貢献だった。……

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コロンビア代表ラダメル・ファルカオ上田綺世日本代表

Profile

舩木 渉

1994年生まれ、神奈川県出身。早稲田大学スポーツ科学部卒業。大学1年次から取材・執筆を開始し、現在はフリーランスとして活動する。世界20カ国以上での取材を経験し、単なるスポーツにとどまらないサッカーの力を世間に伝えるべく、Jリーグや日本代表を中心に海外のマイナーリーグまで幅広くカバーする。

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