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フレームワークによる整理とプレーの言語化が、試合観戦の景色を変える

2023.01.30

『モダンサッカーの教科書Ⅳ イタリア新世代コーチと読み解く最先端の戦術キーワード』書評

好評発売中の『モダンサッカーの教科書Ⅳ イタリア新世代コーチと読み解く最先端の戦術キーワード』は、『footballista』で圧倒的人気の元セリエAコーチ、レナート・バルディが、最先端の現場で磨き上げた「チーム分析のフレームワーク」と戦術キーワードを用い、欧州サッカーで現在起こっている戦術トレンドの全体像を整理する一冊だ。

かねてからレナート・バルディの仕事にリスペクトを示していた指導者のらいかーると氏は、欧州サッカーの現場で実際に起こっている知見の共有化に何を感じたのだろうか。

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指導者視点で見る『モダンサッカーの教科書』の衝撃

 時代は00年代半ば。ドイツW杯の敗退後に日本のサッカー人気はゆっくりと停滞の道を歩んでいきました。

 そんな歩みに逆らうように、賛否両論のあったオシムの日本代表への抜擢は多くの指導者のサッカー観に影響を与えることになりました。オシムと日本代表の挑戦は志半ばで終えることになりましたが、後を引き継いだ岡田武史の土壇場の決断力によって、南アフリカW杯でベスト16にたどり着くことになった日本代表。その後の香川真司の欧州でのブレイクを筆頭に、第二次黄金世代の海外組大量進出と相まって、ザッケローニに率いられた日本代表が日本中にブームを巻き起こすことに繋がっていきます。

 ジーコに率いられた第一次黄金世代の瞬間最大風力こそ歴代でも有数なものだったかもしれません。トルシエに率いられた機械的なサッカーから、中田英寿、中村俊輔、小野伸二、稲本潤一を並べる黄金の中盤への期待値が高かったことは昨日のように覚えています。一方でドイツW杯での絶望は、サッカーを学ぶことをやめてはいけないという有名な標語を出すまでもなく、多くの指導者に学ぶことに対する飢餓感を生んでいたのではないでしょうか。

 2006年の惨敗から生まれたサッカーを学ぶことに対する飢餓感に対して、海外で学んでいる日本人指導者が最初の解となりました。オランダの教科書を翻訳した林雅人さんや、バルセロナサッカースクールで実際に指導もしていた村松尚登さんの発信が、多くの指導者にとって海外から学ぶことの入り口になりました。

 それまでのサッカー本やサッカー記事は、サッカーライターの情報発信がメインとなっていました。海外で学んでいる日本人指導者の登場をきっかけとして、日本にいるサッカー指導者、海外のサッカー指導者と広がりを見せていきました。SNSの流行はこの流れをさらに加速させ、職業が何であろうと自分の考えや想いを、世界中の人から受け取れ、発信できる時代になってきています。

 サッカーに対する海外の考え方が日本に入ってくる中で、大きく話題になった本は、『世界が指摘する岡田ジャパンの決定的戦術ミス~イタリア人監督5人が日本代表の7試合を徹底分析~』です。現役のイタリア人監督による日本代表の分析は刺激的なものでした。イタリアの守備の原理原則と照らし合わせた時の日本代表の拙さが延々と書かれている本は世界との距離をそのまま表している一方で、そんな拙さを抱えた日本代表が南アフリカで結果を残したことは、サッカーの奥深さを表しています。

 乱暴に振り返ってみると、2006年の惨敗から始まったサッカーを学ぶことへの飢餓感は、ネットでのサッカー論壇の成立やSNSの流行、そして海外に進出した勇気ある先駆者たちによって、満たされていきます。

 そして進化と変化を続ける欧州サッカーで起きていることを様々な人が翻訳していく中で決定的な存在となったコンビが、レナート・バルディと片野道郎です。様々な背景を持つ人がサッカーの書き手になっている世界で、このコンビは初手から抜群の存在感を示していました。

 ミハイロビッチとともに現場の最前線に立つレナート・バルディは現代サッカーに通じた語り部として突然にフットボリスタに登場します。片野道郎さんとの対談は多くの指導者とサッカーライターを震撼させたことでしょう。海外の指導者が本気で話した時に、我々は勝てないのか、驚かされ続けるのかと実感したことは私もよく覚えています。海外で行われているサッカーの整理の緻密さに舌を巻いた回数は数え切れません。この対談の素晴らしさは戦術を語っているけれど、机上の空論感はゼロなところでしょうか。実際に現代サッカーに触れていればいるほど、彼らの対談の正しさ、的確な表現にぶん殴られている日々を過ごすことになります。……

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イビチャ・オシムレナート・バルディ南アフリカW杯岡田武史日本代表片野道郎

Profile

らいかーると

昭和生まれ平成育ちの浦和出身。サッカー戦術分析ブログ『サッカーの面白い戦術分析を心がけます』の主宰で、そのユニークな語り口から指導者にもかかわらず『footballista』や『フットボール批評』など様々な媒体で記事を寄稿するようになった人気ブロガー。書くことは非常に勉強になるので、「他の監督やコーチも参加してくれないかな」と心のどこかで願っている。好きなバンドは、マンチェスター出身のNew Order。 著書に『アナリシス・アイ サッカーの面白い戦術分析の方法、教えます』(小学館)。

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