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チームを変えるスペシャリスト。過大評価と過小評価の狭間で…FC東京の変革者、アルベルという男

2022.12.20

名将か愚将かと極論で評価されがちなサッカー監督の市場にあって、アルベル監督の評価が定まらない。Jリーグにやってくるスペイン人指導者たるもの、みな腕利きでなければならぬという思い込みが強すぎるのか、肯定的に見る人々はやたらと称賛を飛ばし、否定的に見る人々は力量が足りていないではないかと酷評する。

世間の評判もどこ吹く風、アルベルはマイペースだ。そして自らの功績を訴えることはあっても、自分を名将だと吹聴したことは、実は一度もない。よくよく彼の言動を追えば、自身については意外なほど正直に語っている。

100点満点の名将かと言えば、決してそうではない。ただ、仮にアルベルが60点や70点の監督だとして、アルビレックス新潟にとり悪い監督だったのか、FC東京を担うには荷が重い監督なのかと言えば、そういうわけでもない。アルベルの個性を認め、長所を発揮させるなら、クラブの、そしてチームの方向性を変える仕事に関しては80点や90点の結果を残せるのだろうし、東京でもなんとか一年目を乗り切った。よくも悪くもこの男は風雲児であり、革命家なのだ。

台風のような

 今年1月の始動日、小平の練習場に姿を現したアルベル監督は、日向ぼっこを楽しむことに腐心していた。本格的なトレーニングはキャンプ地の沖縄に行ってから始まるのであり、この時点でフットボール的な側面について語れることはあまりない。「ワインを持ってきてもらえれば……」と、暗に情報提供への見返りとして賄賂を要求する一幕もあったが、これはもちろん冗談だ。取材なりチームのミーティングなり、セッションごとに必ず入る与太話をいちいち本気にしていたら混乱する。まず我々番記者は、アルベルは“冗談好きのおっさん”であることを理解する必要があった。これは安間貴義ヘッドコーチの「明るくていいね(笑)」というアルベル評に合致する。まあ、肩の力を抜けよ。取材の質問に対するコメントに現れない真のメッセージはそう受け取れた。

 カタルーニャから新潟経由でやってきたポジショナルプレーの伝道師は、沖縄のキャンプでは時折、非常に厳格な表情を見せ、怒声を響かせていた。選手たちに対して緊張感を持たせるための演技の側面もあったのかもしれない。ピッチ外では脱力し、ピッチ内では集中する。この切り替えに慣れることも必要だった。

 シーズン中のアルベルは百面相。テンション高くご機嫌か、ダウナー状態か、厳しく威厳を保っているか、何かにおどおどしているかは、その日になってみないとわからない。取材に対しては熱心に応じようとしていた。コロナの感染が拡大している時期でもオンラインではなく対面での取材を好み、対面取材回数は週二回と決まっている時期にはその二回とも記者と喋りたがった。記者の質問に対してストレートに答えることは少ないが、そのとき彼の中でテーマになっていることに関しては長い時間を費やして説明をしようと試みる。長くなったコメントは公式サイトと言えど全録の状態では掲載されないし、もちろんメディアの記事でも引用されるのは一部だが、自身の言葉をSNSのみならずクラブまたは報道機関から発信することにこだわった。公式戦を控えた取材の場で「選手の誰それはどこそこのけがで今節は欠場する」と堂々と言い放ち、自身の契約についてもクラブが発表する前にバラしてしまう。台風のように暴れるアルベルに巻き込まれ、瞬く間に一年が過ぎていった。リーグ関係者は「後藤さん、よく一年間もこれに付き合っていましたね」と驚き、言いたい放題のアルベルに目を丸くしていた。

2022シーズンのJ1第1節川崎フロンターレ戦でスタッフと話し合うアルベル監督(Photo: Takahiro Fujii)

外の人間

 11月4日、J1最終節前日の監督囲み取材は40分間にも及んだ。公式サイトに掲載されたコメントは全発語量の半分にも満たない。分量を考えれば当然だが、割愛された箇所にこそ本音が潜んでいた。そしてそこだけは、膝を叩いて同意出来た。

 「日本人のスタッフはいい方向に成長しているし、あと1年経てば、さらに私が期待する形で選手たちだけでなくクラブもスタッフも成長を遂げてくれると、十分イメージできます。

 これは日本だけではないですけれども、どの国でもどの場所でも、概して何かを変える時には、外から来て既存のものを壊してくれるような外の人間を必要とするものではないでしょうか。

 新潟での1シーズン目、我々は11位でシーズンを終えました。それが決して満足できる順位ではないというのは誰の目にも明らかでした。もし私が日本人監督であれば、1シーズン目に新潟の経営規模を踏まえた上で11位の順位であったとしたら、クビになっていた可能性は十分高かったと思います。2020年の新潟では飲酒運転にまつわる出来事があり、社長とGMがクラブを離れるという特殊な状況もありました。

 新潟は危機的な状況でした。そういう時に舵取りをするには、外からやってきた人間が必要になるのではないでしょうか。そして、そういう変化をする時期にはコミュニケーションを大切にすることも重要だと思います。私は東京でもみなさん(メディア)やSNSを通じてコミュニケーションをとるよう心がけています。……

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FC東京アルベル・プッチ・オルトネダ

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後藤 勝

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