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元U-21代表コーチのミキッチに聞くクロアチア新世代分析とW杯展望

2022.12.13

サンフレッチェ広島で長くプレーしていた右サイドの職人ミハエル・ミキッチは、U-21クロアチア代表、古巣ディナモ・ザグレブのトップ(のちにセカンド)のアシスタントコーチとしてクロアチアの新世代を指導してきた。現在はマリボル(スロベニア)のアシスタントコーチを務める42歳に、現役時代から彼を知る長束恭行氏がクロアチア新世代分析とW杯展望を聞いた 『フットボリスタ第93号』 収録のインタビューを、今夜28時(日本時間)キックオフの準決勝アルゼンチン戦にあわせて特別公開!

グバルディオルは「クロアチア史上最高のCB」


──現役引退の翌年2019年10月からの1年8カ月、あなたはクロアチアU-21代表のアシスタントコーチとして数多くのクロアチアのタレントを見てきました。カタールW杯開幕が近づいていますが、現在のA代表はその世代が次々に加わっています。

 「そうだね。新たな世代の選手たちはとても優秀だよ」


──実際に彼らを指導してきた立場を踏まえ、1人ずつどんな選手かを教えていただけますか?

 「もちろん」

──まずはこの夏に大きな移籍話(チェルシーがDF史上最高額となる9000万ユーロを提示)が挙がったヨシュコ・グバルディオル(20歳/RBライプツィヒ)から始めましょう。昨年のEURO2020では左SBとしてA代表デビューを果たした彼ですが、今では誰もが「彼はトップクラスのCBになる」と言っています。

 「現時点で彼はトップクラスだ! 信じられないほどの冷静さとテクニックを持った子だよ。インテリジェンスが極めて高く、フィジカルもスピードもハイレベル。すでに世界最高クラスのCBと言える。クロアチアの歴史をさかのぼったところでも、彼を超えるほどのCBはいないと思う」

カタールW杯ラウンド16の日本戦では、抜群のスピードを誇る浅野拓磨を完封したグバルディオル。 20歳の若さに見合わぬ冷静沈着な守備対応で、その名を極東の地にまで轟かせた(Photo: Getty Images)


──つまり、20歳の時点でグバルディオルは「クロアチア史上最高のCB」と考えているんですね?

 「そう、彼こそ史上最高だ。あのようなタイプのCBがクロアチアに存在したことは過去に一度もなかった。あの年齢にして彼は『自分が誰であるか』を証明しているんだ」


──グバルディオルはU-21代表でもチーム最年少でしたよね?

 「そう、彼はまだ17歳だった」


──あなたがアシスタントコーチに就任した翌月、彼はU-21代表でデビューしました(2019年11月14日、リトアニア戦)。初めて指導した時の印象はどうでしたか?

 「コーチが誰であろうと、いきなり最初のトレーニングで彼の実力を目にするはずさ!ボールの蹴り方一つを取ってもそう。彼がどれほどの自信を持っているか、身体がどれだけ強いか、そしてどれだけサッカーを理解しているか……。彼は前方に大きくボールを蹴り出すようなCBじゃない。パスを貫くCBだ。とんでもない能力の持ち主だよ」

U-21クロアチア代表コーチ時代のミキッチ。左がグバルディオル、右がイバヌシェツ(Photo: Yasuyuki Nagatsuka)


──ディナモ・ザグレブのU-15チームで彼を指導したダリボール・ポルドルガチュ(ミキッチのディナモ時代のチームメイト)が、グバルディオルをMFからCBにコンバートしたと聞いています。

 「そう。MFをやっていた時点で、彼のサッカーに対する理解力やテクニックは傑出していた。そんな選手がDFのポジションに移動してきたんだから驚異になるよね」

次代を担う逸材マイェル、そしてシュタロ


──続いてはロブロ・マイェル(24歳/レンヌ)を取り上げましょう。デビューこそ2017年5月ですが、EURO2020の後にA代表へと定着したレフティのMFです。

 「マイェルも驚嘆に値するインテリジェンスの持ち主だ。スペースに対する感覚、ゴールに対する嗅覚があり、テクニックに精通している。ボールの操り方に優れた上で視野も広い。あれほどの“サッカーインテリジェンス”を持った選手は世界でも極めて少ないと言えるね」


──現在のクロアチア代表の中盤はルカ・モドリッチ、マテオ・コバチッチマルセロ・ブロゾビッチの3人が占めています。そんな中、マイェルは本来のポジションと異なる右ウイングを担当しますよね。

 「マイェルは右ウイングも左ウイングもやれるし、トップ下もインサイドハーフもやれる。リーグ1のレンヌの試合はよく見ているよ。彼はいとも簡単にフランスでプレーしている。あそこはフィジカルの要求度が高いリーグであることが知られているが、それでも彼は問題をあっさりと解決してしまうんだ。ボールを持たせれば優れたフェイントで相手をかわせるし、ドリブルで抜くことも可能。ポジショニング感覚も備わっている。リーグ1挑戦の1年目で早くも6得点8アシストを記録した。若いMFにとっては特筆すべき数字だ」


──U-21代表では10番を背負ってきたマイェルですが、彼はモドリッチの後継者になれると思いますか?
……

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Profile

長束 恭行

1973年生まれ。1997年、現地観戦したディナモ・ザグレブの試合に感銘を受けて銀行を退職。2001年からは10年間のザグレブ生活を通して旧ユーゴ諸国のサッカーを追った。2011年から4年間はリトアニアを拠点に東欧諸国を取材。取材レポートを一冊にまとめた『東欧サッカークロニクル』(カンゼン)では2018年度ミズノスポーツライター優秀賞を受賞した。近著に『もえるバトレニ モドリッチと仲間たちの夢のカタール大冒険譚』(小社刊)。

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