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PKを正面に蹴った男、「クロアチアサッカー界No.1の変人」ブロゾビッチの魅力

2022.12.09

日本戦で120分間フル出場し、「16.64km」を走ったブロゾビッチ。この記録はW杯史上、個人最長である(ちなみに、前記録保持者も彼)。PK戦でも、あのプレッシャーの中で真ん中に蹴る強心臓ぶりを発揮した「変人」の魅力を長束恭行氏に伝えてもらおう。

ブラジルメディアも要注意人物にフォーカス

 「サッカー王国」のブラジルにも知られてしまった。ヤツはヤバいって。

 ルカ・モドリッチと並ぶクロアチアの中盤の要といえば、やはりマルセロ・ブロゾビッチだ。「鉄人」のイメージが強い彼ではあるが、実はカタールW杯出場が危ぶまれていた。9月25日のネーションズリーグ「オーストリア対クロアチア」では太腿を押さえて18分に交代。筋断裂という予想以上のケガで1カ月以上の離脱を強いられた。11月6日のユベントス戦で復帰したものの、W杯開幕までインテルで出場した時間は3試合で47分間。今のクロアチアでは替えの利かない選手だけに「カタールでは大丈夫か?」と心配されていた。

 とはいえ、ブロゾはやはりブロゾ。グループステージは3試合すべてにフル出場し、第2戦のカナダ戦では「13.90km」を走破。決勝トーナメント1回戦の日本戦も120分フル出場して「16.64km」を走り切り、ロシア大会準決勝・対イングランド戦で打ち立てた「W杯史上最長の1試合における走行距離」の自己記録を4年ぶりに更新した(前記録は16.40km)。そしてPK戦ではど真ん中にシュートを叩き込む強心臓っぷり。ひたすら走る姿は名作映画にちなんで「フォレスト・ガンプ」と呼ばれたこともあるが、むしろ彼には「アサシン」(殺し屋)の方がよく似合う。

 ブラジル国内では準々決勝の相手、クロアチアについてあまり多く報じられていないようだが、『O Globo』は敵チームの要注意人物としてブロゾビッチを紹介した。

 「クロアチアのMFマルセロ・ブロゾビッチはW杯の走行距離記録を自己更新した。興味深いのはブロゾビッチが喫煙者であり、何度か喫煙する姿が発見されたことだ。コパ・イタリア決勝でユベントスに4-2で勝利した後、GKアレックス・コルダスと一緒に(ビール片手に)タバコを口に咥えた写真が本人のInstagramに公開された」

 さらに同メディアは続ける。

 「証言によると、(ヘビースモーカーの)ラジャ・ナインゴランに『タバコを吸うのか?』と尋ねられた彼は『時々』と答えていたそうだ。EURO2020のラウンド16でスペインに敗れた後、コンビニエンスストアでタバコを買う姿が撮られている。また、シーシャ(水タバコ)を吸う写真もSNSに出回っている」

ネーションズリーグで初めてフランスに勝利した後に葉巻を吸うブロゾビッチ

タバコだけじゃない!「ブロゾ伝説」の数々

 とはいえ、『O Globo』が取り上げた逸話はタバコのみ。「ブロゾ伝説」はこれだけじゃ物足らない!もしサッカー界で「奇人変人コンテスト」があったら、間違いなく優勝候補に挙がるだろう。アゴを手で支える彼の決めポーズ、通称「エピック・ブロゾ」はいつも無表情。本来、クロアチア人は表情豊かな国民性なのだが……。ここは百聞は一見にしかず。彼のInstagramを発掘しながら「ブロゾ伝説」のエピソードを紹介していこう。

……

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Profile

長束 恭行

1973年生まれ。1997年、現地観戦したディナモ・ザグレブの試合に感銘を受けて銀行を退職。2001年からは10年間のザグレブ生活を通して旧ユーゴ諸国のサッカーを追った。2011年から4年間はリトアニアを拠点に東欧諸国を取材。取材レポートを一冊にまとめた『東欧サッカークロニクル』(カンゼン)では2018年度ミズノスポーツライター優秀賞を受賞した。近著に『もえるバトレニ モドリッチと仲間たちの夢のカタール大冒険譚』(小社刊)。

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