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履正社の名願斗哉、J王者・川崎Fへ。負けず嫌いの泣き虫ドリブラーが選ばれた理由

2022.09.09

高校サッカー界を代表するドリブラーがJ1王者の門を叩くこととなった。かつてまだ無名だった大島僚太を見出した目利きとして知られる向島建スカウトが惚れ込んだのは、履正社高校のU-18日本代表MF名願斗哉。しなやかで鋭いドリブルを特長とするテクニシャンは、いかにして川崎F入りを決めたのか。

名スカウトが履正社に通う理由

 今年に入ってから履正社高校の試合へ足を運ぶたびに、川崎フロンターレの向島建スカウトと田坂祐介スカウトを見かけていた。誰を追っているかは直接聞かずともわかる。履正社が戦うピッチを見ていれば、MF名願斗哉が気にならないはずもない。高いテクニックとしなやかな身のこなしを生かしたドリブルは、川崎Fのニーズにピッタリと一致するものでもあった。

 この5年で川崎Fが4度のJ1優勝を果たした原動力の一つとなっていたのは、[4-3-3]の両ウイングを軸に繰り出す縦への推進力と打開力だ。右ウイングには川崎Fが2度目のタイトルをつかんだ2018年に、リーグMVPを受賞したMF家長昭博が君臨。左サイドはドリブルと力強いドリブルとシュートが売りのMF阿部浩之(現・湘南ベルマーレ)がメインで起用されていた。2019年に阿部がチームを離れてからは、アカデミー出身のMF三笘薫(現・ブライトン)が主力を務めたが、A代表まで一気に駆け上がる活躍を見せ、わずか1年半ほどで海を渡ることとなった。

筑波大学を経て下部組織時代を過ごした川崎Fに入団し、プロ1年目でJ1新人初となる2桁ゴール2桁アシストを記録した三笘。Jリーグベストイレブンにも選出されるほどの大ブレイクを遂げ、翌季途中に欧州へと羽ばたいた(Photo: Takahiro Fujii)

 今季も家長はチームを牽引しているが、年齢は36歳。左サイドのFWマルシーニョも、すでに9ゴールを奪う活躍ぶりを考えれば、いつ海外から話が来ても不思議ではない。向島スカウトが「うちにとってはサイドや前の攻撃でボールを持って変化を作れる選手、そういうタレントが数年後に必要になってくるんじゃないかと思っている」と口にするのも当然だ。

 数年後を見据えたドリブラーの獲得&育成計画は昨年からすでに進行している。今年からチームに加わった興國高校出身のMF永長鷹虎が第一弾だ。永長もスピードとドリブルを売りにするサイドアタッカーで、ゴール前では精度の高いシュートを打てるのも強み。獲得にあたって、竹内弘明強化本部長が「能力を全般的に見た時に、高校生レベルではかなり高いレベルにあると感じた」と評した逸材だった。

リーグ戦を通じて急成長

 実は川崎Fと名願との出会いも、永長がきっかけだった。10チーム近いJクラブが獲得に動いた俊英を口説き落とすために大阪へと足しげく通っていた向島スカウトは、自然と同じ大阪の履正社の試合を見る機会も増えていたからだ。……

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名願斗哉川崎フロンターレ

Profile

森田 将義

1985年、京都府生まれ。19歳から関西のテレビ局でリサーチ、放送作家として活動。サッカー好きが高じて、2011年からサッカーライターとしての活動を始める。現在は高校、大学など育成年代を中心に取材を行い、各種媒体に寄稿。

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