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薩摩が生んだ国内きっての智将・片野坂知宏が語るJ1リーグ・18人の監督像~中編~

2023.10.05

シーズンも佳境に入りつつある2023年シーズンのJ1リーグ。国内最高峰のステージでは、生き馬の目を抜くような厳しい戦いに身を投じた手練手管の指揮官たちが、あの手この手を駆使して勝ち点の獲得に奔走している。今回は自らも大分トリニータとガンバ大阪でJ1での指揮を経験し、現在は解説者としても丁寧な語り口に定評のある片野坂知宏に、今季のJ1を戦う18人の監督を独自の視点から分析してもらった。中編ではサンフレッチェ広島、鹿島アントラーズ、アビスパ福岡、川崎フロンターレ、ガンバ大阪、北海道コンサドーレ札幌の6チームを取り上げる。なお、聞き手は片野坂への取材経験も多い、おなじみのひぐらしひなつが務めている。

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「ちょっとエコロジカル・アプローチに似ているのかな」

サンフレッチェ広島・ミヒャエル スキッベ監督

――では、サンフレッチェ広島のミヒャエル・スキッベ監督です。

 「スキッベさんは本当にポジティブな方なんです。去年、ガンバでアウトになって広島に帰ったときにサンフレッチェの練習を見させてもらったりしていて、スキッベさんと2回くらい食事にも行って、いろいろ話を聞かせてもらっていて。本当に穏やかな人だし、トレーニング中も余計なことを言わない。選手が躍動するようなやり方で、ミスしたときにもまったく指摘をしないんです。

 『もっとこういうふうにしよう』とか『こうしたらいいよ』とか『こうすることが大事だ』とかいったことさえ言わない。ちょっとエコロジカル・アプローチに似ているのかなと思います。トレーニングも1週間の同じようなメニューがあったりするんですけど、多分仕組みの中で、ポゼッションやゲームをやりながら、同じことをやることによって選手のコンディションとか状態や反応の変化を見ることが出来る。そういうやり方をしているような感じがします。

 で、戦術は大枠で『守備は前からハメる。とにかく下がらずに前から奪うようにチャレンジしよう。そのための準備をして前からのプレスを早くしよう』、『攻撃に関しては奪ったらまずカウンターで速い攻撃。それがダメだったら動かす中で危険なところにボールを入れる』というくらいのことはあると思うんですけど、あまり細かくああしよう、こうしようというのはない。そして立ち位置についてはポジショナルプレーではなくて、ボールの保持状況によって周りの選手がどういうふうにポジションを取るかをやるようなかたちにしています」

昨季からサンフレッチェ広島を指揮するドイツ人監督ミヒャエル・スキッベ(Photo: Takahiro Fujii)

――局面ごとということですか。

 「ボールがどういうふうに回っているかというのと、どういう状況にあるかによって。たとえば寄る選手がいたり、離れる選手がいたり。前線は1トップ2シャドーで立ち位置を取りそうな選手構成でありながら、2トップ+トップ下になったり、3トップになったりとすごく流動的で、選手が相手のプレスによっての立ち位置を、ボール保持状況とどこにスペースがあるかを把握した中で取るようなかたちでやることが多いですね」

――それで全体のバランスが崩れたりすることはないんですか。

 「そんなに崩れないです。何故かというと、相手がどう来ているかということや保持状況に対して自分たちの関係を選手が見ることが出来る。で、攻撃は優先順位としてゴール方向に進んでいくんですね。そして失った瞬間にはダイレクトプレスで即時奪回ということは決まっているから、ボールを奪われた選手が行くし、そこのポジションに近い選手が連動して相手に対して強く行くということが決まっている。なので、バランス自体、前線の距離感とか中盤の距離感とかは、同じような感じなんですけど、相手陣地にボールがあるときにはダイレクトプレスに行くということが決まっているから反応も早いし、トレーニングからそういうサッカーを徹底しているので」

――大枠しか決めずに選手にやらせると言っても、どこを的確に決めておくかということが重要ですね。

 「そうですね。だからボールを取られたら取り返す、近い選手が行く、後ろが連動して前から奪う。攻撃も、立ち位置というよりもボールの保持状況を見た中で、まず優先はゴールを目指していくというところと、近い選手との関係を持ちながら、1トップ+2シャドー、2トップ+トップ下に関係なくゴールに向かって点を取るための立ち位置を取りながらゴールを目指そうという、多分それくらいの大枠だと思います。本当に細かいことを言わないし、選手もそういうところでは主体的に出来るようトレーニングからやっていますね」

――サッカーIQの高い選手が揃っていないと難しいのでは……。

 「強化の方に話を聞くと、能力はあるけどまだ戦術理解は高くなくて、たとえば守備の対応がちょっと遅かったり悪かったりする選手もいるようなことは言っていましたけどね。そこは強化の方が、こういうところがまだまだ成長すべきところだなとか、足りないところがあるなというのは見ていると思うんですけど。

 スキッベさんはそういう足りないところを見るというよりも、その選手の何が強みでどう生かすか、この選手がこのポジションに入ったときは攻撃と守備のところでどう上回れるかという、その組み合わせをするのが上手いんだろうなと思います。それだけ選手を見て特長を把握しているのと、その把握している中で、それならこのポジションが出来るだろうといった具合にポジティブに考えています。

 このあいだびっくりしたのは、満田誠が川村拓夢とボランチを組んでいて『えっ、満田、ボランチ出来るのかな』と思ったんですが、結構よかったんですよ。ハードワークできるし前にも行けるし、パスも出来る。で、それについてスキッベさんに聞いたんですけど、『以前にもちょっとやったことがあるんだ。マコ(満田)も全然問題ないよ、やれるよ』って。スキッベさんはもうちょっと潰せるボランチが欲しいみたいなんですね。ハードワークできて守備のところでもセカンドボールを拾えるボランチが欲しいなと言っているのは聞きました」

愛媛FCへのレンタルを経て、サンフレッチェ広島に戻ってきた川村拓夢(Photo: Takahiro Fujii)

――いまの現代サッカーにおけるボランチは潰せるタイプでないと難しいんでしょうか。

 「いかに前から行って、真ん中の相手アンカーのところを取ればビッグチャンスになるとか、頭上を越えたボールに帰ってセカンドボールをマイボールに出来るかとか。神戸やF・マリノスがいま好調なのも、ボランチの運動量と球際の強さが際立っているからですね。(齊藤)未月は怪我しちゃったんですけど、神戸の山口蛍、F・マリノスなら渡辺皓太、喜田拓也、あと20歳の山根陸もいい選手です。グランパスにも稲垣や内田宅哉がいますし。サンフレッチェは川村拓夢と満田。川村はボールを持つのは上手いですし、守備のところはハードワークできるんですが、球際での強さはもうちょっと欲しいということもあるようです」

「『これが鹿島のサッカーだよね』という自信が、いま表現されている」

鹿島アントラーズ・岩政大樹監督

――鹿島アントラーズ、岩政大樹監督をお願いします。

 「アントラーズも今季これまで本当に苦しんだと思います。今季最初も岩政監督の色を出してやろうとしたんだけど、なかなか結果が出なくて、ちょっと勝てない時期が続いて。そういう中でも我慢して、おそらく岩政監督も選手とコミュニケーションを取ったり、どういうサッカーをするのがアントラーズらしさということになるのかを考えた中で、いまいる選手をどう生かすかということも考えられたんじゃないかと思うんですよね。で、これまで伝統としているアントラーズらしさの、本当に強度の高い、激しい、厳しい、そういうサッカーを体現している。そうやって勝つことによって選手がまた『これが鹿島のサッカーだよね』という自信になって、それがいま表現されていると思います」

クラブOBで、昨季から鹿島アントラーズを率いる岩政大樹監督(Photo: Takahiro Fujii)

――岩政監督のインテリジェンスを落とし込もうとすると強度が落ちるということなんでしょうか。頭で考えすぎてしまう……?

 「当事者でないからわからないところもあるんですけど、やろうとしているサッカーや、岩政監督が志向しているサッカーというものを、選手は理解できてやろうとすると思うんです。ただ、一番は結果で、勝ったらそれが自信になって『これでやっていこう』という感じになるんですけど、いくらいいサッカーをしていても勝てなければ、どうしても選手は『これ大丈夫なの……?』となったり、不協和音が出たり、『これじゃないんじゃないか……』というふうになってしまうこともある。そうやって迷いが生じてくると強度も出ず反応も遅くなるし、いいプレーが出来ないので、やっぱり選手が主体的にやって躍動するほうが、選手のパワーは出やすいと思います。岩政監督自身もそういう方向に少し路線を変えてトライして、結果を出している部分もあるかもしれないですね」

――アントラーズの伝統を背負うエリートでもありますし、苦しんだでしょうね。

 「いや、本当に。いろいろ考えたんじゃないでしょうか。いろんなクラブの伝統に根づくカラーがある中で、アントラーズはやっぱりジーコ・スピリット。それを守りながら新しいサッカーをやっていくバランスは、難易度の高いチャレンジかもしれません。そういう中でまた勝って上位に食い込んでくるところは、やっぱりタイトルを獲るクラブなんだと感じますね。

 強度の高い選手が怪我から復帰してきて選手層が厚くなってきたりもしましたしね。仲間隼斗が戻ってきたり、松村優太がいたり。もちろん前線は鈴木優磨が大黒柱ではありますけど、垣田裕暉や知念慶がいたり、アルトゥール・カイキたち外国籍選手も能力が高いですしね。タレントは揃っていて、土居聖真もいるし樋口雄太とディエゴ・ピトゥカのボランチもすごく効いている。2人ともハードワークできるし、全体に強度を持っている選手がいる中で、SBにも能力の高い選手がいますし」

――アントラーズは毎年、序盤は苦労するけど絶対に帳尻を合わせてくる印象があります。

 「そうなんですよ。タイトルを獲るときなども終盤に向けて尻上がりに良くなってくるので、地力があるクラブですよね。勝負強くて、勝者のメンタリティが植えつけられている。そういう選手、昌子源とか植田直通とかを呼び戻して、また柴崎岳が帰ってきた。アントラーズのスピリットを持った選手をもう一度呼び込んで、ここからさらによくなる可能性があると思います」

ベルギー、フランスでのプレーを経験し、今季から鹿島アントラーズでプレーする植田直通(Photo: Takahiro Fujii)

「これだけ徹底して結果を出すのは簡単ではない」

アビスパ福岡・長谷部茂利監督

――では、アビスパ福岡の長谷部茂利監督を。

 「すごいと思います。アビスパのサッカーを作り上げた人ですし、これだけ徹底して結果を出すのは簡単ではないですからね。

 堅守とハードワークですね。やっぱり山岸祐也が本当に効いています。点を取れるところにいるし、いいところで起点を作れるし、決定力がある。あとルキアンとか紺野和也の加入も大きいですね。左利きで右のワイド、シャドー。あの前線のタレントは脅威だし、紺野の左足のカットインからのクロスやシュートはアビスパの攻撃のストロングになっています。守備だけでなく攻撃のところでもアクセントを作れるのは紺野だし、決定力のところはルキアンや山岸。そこが勝点を取っていける要因かなと。ボランチの前寛之のコントロールと。ボランチのもう一人には、加入の内定している福岡大の重見柾斗が出たりしているんですよね」

過去にはジェフ千葉、水戸ホーリーホックを指揮し、2020年からアビスパ福岡を率いる長谷部茂利監督(Photo: Getty Images)

――大分高校出身で選手権にも出場した選手ですね。

 「はい。U-22にも選出された、そういう特別指定選手を起用したり。とにかくハードワークして緩めないことを徹底しているので、それほど崩れることがなく、勝点を取れるサッカーをしていますよね。

 クラブも人件費のところでお金をかけていると思います。紺野を獲って、ルキアンを獲って、左には金森健志がいるし。DFに奈良竜樹がいるのも大きいですね。宮大樹はいま怪我しているのかな。ドウグラス・グローリもいるし三國ケネディエブスもいて、豪華ですよね。さらにサガン鳥栖から田代雅也も獲りました。セットプレーで点を取れるし、守れますからね。左サイドは小田逸稀と、(田中)達也もちょっと出てきていて。それに前嶋洋太と……、あ、(井手口)陽介もいた(笑)。彼のハードワークもボランチのところで効きますよね。

 的確に費用をかけてポジションごとに能力の高い選手を獲れたことが大きいです。ジョルディ・クルークスがセレッソに移籍してしまったので、右サイドの左利きがいなくなったところに紺野。そういう戦力を、長谷部監督も適材適所で使って躍動させているし、守備のところの緩みがまったくないほど徹底されているので、大敗することなく勝負強さを発揮した中で勝点を積み上げていますね」

「若い選手がチャンスをもらって、試合経験とともに成長してきた」

川崎フロンターレ・鬼木達監督

――川崎フロンターレの鬼木達監督。長期政権です。……

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Profile

ひぐらしひなつ

大分県中津市生まれの大分を拠点とするサッカーライター。大分トリニータ公式コンテンツ「トリテン」などに執筆、エルゴラッソ大分担当。著書『大分から世界へ 大分トリニータユースの挑戦』『サッカーで一番大切な「あたりまえ」のこと』『監督の異常な愛情-または私は如何にしてこの稼業を・愛する・ようになったか』『救世主監督 片野坂知宏』『カタノサッカー・クロニクル』。最新刊は2023年3月『サッカー監督の決断と采配-傷だらけの名将たち-』。 note:https://note.com/windegg

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