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40歳になったイブラヒモビッチが明かす「アドレナリンとバランス」とは?

2022.07.29

『アドレナリン』PROLOGUE特別公開

7月29日に刊行した『アドレナリン ズラタン・イブラヒモビッチ自伝 40歳の俺が語る、もう一つの物語』は、ベストセラー『I AM ZLATAN』から10年の時を経て世に出されたイブラヒモビッチ2冊目の自伝だ。「わかったぜ。認めるよ。俺は40歳だ。俺は神ではあるが、ちょいと老いぼれた神だ」。40歳になった人間イブラは「アドレナリン」と「バランス」の両方が大事だと明かす。本書のタイトルの由来を解説するPROLOGUEを特別公開!

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試合前(アドレナリンとバランス)

「この本は神の福音書ではない。40歳の男の物語だ」

2021年10月4日(月)イタリア・ミラノ

 わかったぜ。認めるよ。俺は40歳だ。俺は神ではあるが、ちょいと老いぼれた神だ。以前とはフィジカルが違うってことを受け入れることにしたよ。送られてきたシグナルはずっと無視していたが、体の声に耳を傾けることにした。若いころから続けてきた反復ダッシュはもうごめんだ。疲労や打撲から回復するにも時間がかかるようになってきたしな。俺は老体に合わせたプレーをすることにした。鉄砲玉みたいなボールが弾き飛ぶペナルティエリア内には近寄らないぜ。外側からプレーを組み立てるのが最近の俺だ。自分のゴールより、仲間のゴールのために働くことが多いんだ。今さら自分をアピールしたってしょうがないだろう。勝つべき試合にはこれまでさんざん勝ってきたからな。今は若いチームメイトを鼓舞して成長させる方が楽しいんだよ。

 40歳。すでにお子様とは言えない息子が2人いる。この年齢は人生の一区切り。自分の人生に線を引いて収支計算する時期だ。バランスを見極めないといけない。この本を出す意味はそこにある。

 近づきつつある誕生日については気にしないふりをしてきた。40という数字について考えることを避けてきたんだな。だが昨日、突然その数字が目の前に現れたんだよ。ホテルの正面全体に赤く巨大な文字が浮かび上がっていた。窓の照明がついた部屋と真っ暗な部屋とで40という文字が描かれていたんだ。

 ミラノにあるそのホテルで、妻のヘレナがサプライズパーティーを仕組んでいた。そりゃ感激したよ。最愛なる家族、世界中からやってきた多くの友人、俺の人生にとって大切な人々がその場にいた。サッカー界のレジェンド、監督、さらには試合中に俺が一発食らわせてやった選手たちまでいたぞ。ホテルのテラスで彼らに再会するとは思ってもいなかった。

 リーノ・ガットゥーゾはこう説明した。

 「おまえは殴るときでさえ素の自分を見せつける。だからあいつらもこうしてパーティーにやって来るんだよ」

2010-12のミラン在籍時にイブラヒモビッチのチームメイトだったガットゥーゾ

 それにしてもヘレナはうまくやった。すべて隠して準備してきたんだ。そりゃ最高のプレゼントだったぜ。家族へのプレゼントを用意するのはいつも俺の役割だったんだがな。

 俺のサッカー人生がローゼンゴードの街から始まったことは、これまで何度も話してきた。俺は擦り減ったセレクト社製のボールとともに育ってきたんだ。前に立ちはだかるやつが誰であろうとドリブルで抜いてきた。そのころプレーしていたチームは言ってみればさまざまな人種の移民が集う巣窟だった。火種があればすぐに頭突きが始まる。そのちっぽけな場所が俺のサッカーの実践場だったわけだ。そこがトリッキーなプレーを得意とするイブラ様を作り上げた学校だったんだな。

 両親は俺が幼いころに離婚した。卓上の皿に食べ物を載せるために働き詰めだった母の家と、いつも冷蔵庫が空っぽだった親父の家を、行ったり来たりしながら生きていた。必要なものは自力で何とか手に入れた。学校でからかわれるのが嫌だったから、自転車や服を盗んだ。当時プレーしていたマルメのロッカールームで手に入れたジャージとサッカーソックスをいつも身に着けていたんだ。

 ボールのおかげで俺はゲットーから抜け出すことができた。そして別の人生を歩むことになった。俺はアムステルダムに到着した。そこで初のポルシェを買い、代理人であるミーノ・ライオラと知り合った。あいつと妻のヘレナは、今もそしてこれからもずっと、俺の人生にとってかけがえのない存在だ。

 ミーノと俺は代理人と選手以上の関係だな。友人であり、兄貴であり、父親でもある。俺のキャリアや数々の勝利はあいつがもたらしてくれた。苦境から救い出し、困難を解決してくれた。負傷中は普段よりさらに身近にいてくれたよ。俺はミーノの手腕でオランダからイタリアに移籍した。その後はスペイン、フランス、イングランド、アメリカだ。そしてまた、イタリアに戻った。

イブラヒモビッチ以外にもパベル・ネドベド、ポール・ポグバ、ジャンルイジ・ドンナルンマ、アーリング・ホーランドらスター選手をクライアントに抱えていた大物代理人ライオラ。4月30日に病気のため、54歳という若さでこの世を去った

 ヘレナは分別があり、信頼できる女だ。彼女のおかげで俺は反省できるようになった。常識、センスってものを教えてくれたのも彼女だ。判断力と物事をうまく進める能力を備えているし、エレガントさにおいては特に秀でている。それが彼女の仕事であり、俺が引退したあともその役割は続くだろう。彼女は長年にわたって俺の野蛮な性格のトゲを抜いてくれた。だがそんなことよりもっと重要なのは、彼女が世界で最も価値あるプレゼントを俺にくれたことだ。それは息子たちだ。

 選手としてのイブラは当然誰でも知っているだろう。だが、人間イブラについてはみんなよくわかってないんじゃないか?

 だから今、それを語る。これはフェイドアウトしつつある選手の独白だ。待ち構えている未来について、人生半ばまで歩いたところで、不確定なこのタイミングで話してみようじゃないか。この本は2つの世界を軸に俺自身を語る構成にしている。すべての章はピッチ上の話題から始まり、日常生活の振り返りで終わる。ゴールの話から始めて、幸せについて語る。審判の話から、公正さにまで考えを及ぼす。アシストから友情。負傷から死へと……。

 何も隠さないし、演じない。ガットゥーゾが言ったとおり、俺は常に自分をさらして生きてきた。例えば、引退を考えるだけで不安でしょうがないってことも告白する。サッカーから離れるべき瞬間が近づけば近づくほど、将来への恐怖心が増していくって事実も隠さない。そりゃそうだろう。引退したら、ジョルジョ・キエッリーニと対決するときに感じるアドレナリンをどこで感じられるんだよ? この本のタイトル、「アドレナリン」という言葉は俺の人生のキーワードだ。

キエッリーニと競り合うイブラヒモビッチ

 何をするにも俺には挑戦心と最高レベルの情熱が必要だ。すべてに全身全霊で取り組まねばならない。ずっとそうやってきたし、これからもそうだろう。アドレナリンが血管内を駆け巡っている感覚が必要なんだ。

 とはいえ、40歳ですでに大きい息子2人の父である俺は、これまでとは違う形で体内の血液を流さなければならない。求められていることも変わってきたからな。かつては審判を攻撃していたが、今は手助けしている。かつては自分のチームだけのために奮闘し、バンディエラ(旗頭)でいることを好んでいたが、今は多くのイタリア人の愛情とリスペクトを感じるためにサンレモ音楽祭に足を運んでいる。だがな、人々に囲まれると息苦しくなることも事実なんだよ。そんなときはガレージに行き、数ある俺の宝石の一台に乗り込み、高速道路を突っ走る。アクセルを踏み込み孤立を感じる。あるいは自由を求めて森に逃げ込む。人を求めているが、人を避けてもいる。

 それは矛盾したことではない。俺は常に2つの側面を持っている。どちらも俺の性格の一部なんだ。40歳になって、それらを調整できるようになった。反発心をコントロールできるようになったんだな。敵ディフェンダーが俺を挑発したところで、かつてのようにうまくはいかないぜ。本能を捨てたわけではないが、分別ある男になったんだ。時が俺を変えたのかもしれないし、ヘレナやミーノのおかげかもしれない。あらゆることで均衡を保つことを考えるようになった。息子たちの教育についても同様だ。厳しくすると同時にかわいがることも忘れない。

イブラヒモビッチと妻ヘレナ

 「均衡」という言葉は、簡単に言えば英語の「バランス」だ。最近の俺の頭の中には、常にこのバランスという言葉がある。以前はアドレナリンのことしか考えていなかったが、今はアドレナリンとバランスの両方が大事だと思っている。

 この本は神の福音書ではない。40歳の男の物語だ。過去を総括すると同時に、無数の敵が待ち受けている未来を見据えて、ここに綴る。

<書籍情報>

アドレナリン ズラタン・イブラヒモビッチ自伝 40歳の俺が語る、もう一つの物語

訳者まえがき
試合前(アドレナリンとバランス)
1 オーバーヘッドキック(あるいは変革)
2 ドリブル(あるいは自由) 
3 敵(あるいは戦争) 
4 ボール(あるいは愛) 
5 代理人(あるいは金)
6 記者(あるいはコミュニケーション) 
7 ゴール(あるいは幸福) 
8 審判(あるいは規律) 
9 負傷(あるいは痛み) 
10 パス(あるいは友情) 
延長戦(あるいは未来) 


Translation: Naomi Okiyama
Photos: Getty Images

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『アドレナリン』ズラタン・イブラヒモビッチ

Profile

ズラタン イブラヒモビッチ

1981年10月3日、スウェーデンのマルメで生まれる。13歳でマルメFFに加入し、本格的にサッカーを始める。その後、世界各地のビッグクラブで、主役として国際的なキャリアを積み重ねる。所属したクラブは、アヤックス、ユベントス、インテル、バルセロナ、ミラン、パリ・サンジェルマン、マンチェスター・ユナイテッド、ロサンゼルス・ギャラクシー、そして再びミランで、合計30以上のトロフィーを手にしている。2013年FIFAプスカシュ賞(年間最優秀ゴール賞)、リーグ1では年間最優秀選手賞および得点王を3シーズン獲得した。スウェーデン代表では歴代最多得点を記録。イタリア国内の2クラブ(インテル、ミラン)で得点王を獲得した唯一の外国人選手である。イタリア年間最優秀外国人選手賞、セリエA最優秀選手賞など多数獲得。