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ズラタンは「愛」を見つけたのか?『アドレナリン』訳者が綴る、引退する“神”への想い 

2023.06.09

6月4日、セリエA最終節ミラン対ベローナ戦で偉大なフットボーラーの引退が発表された。ズラタン・イブラヒモビッチ、41歳。『I AM ZLATAN』(東邦出版)、『アドレナリン』(小社刊)という2冊の自伝を翻訳してきた沖山ナオミさんに、引退する“神”への想いを綴ってもらった。

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ついにこの日が来てしまった。

 近い将来、ズラタンがスパイクを脱ぐ日が来ることはわかっていたし、たとえその時が来ても、軽い気持ちで事実を受け止められると思っていた。

 それが何なんだ、この感情は……。ここ数日、ズラタンがずっと頭の中を支配し、あれこれ考え出すと止まらなくなる。さまざまなシーンが巡り巡っては、寂しさ、悲しみ、あるいは歓び、満足など、形を変えた感情があふれ出てくるのだ。さらには底知れぬ不安も押し寄せてくる。「なんて大袈裟な!」と自分でも思うが、訳者というのは作業を通して主人公の人生を相当な時間かけて追体験するので、ズラタン引退をとても他人事とは思えないのだ。

最終節で見せた、あまりに柔和な「目」

 とにかくあの目がいけなかった。セリエA最終節ミラン対ベローナ戦、引退を表明したあの日の試合前、ズラタンは観客席に妻ヘレナと並んで座っていた。彼らはコレオで描かれた「GOOD BYE」という巨大な赤黒の文字を眺め、サンシーロを包んでいたミラニスタの深い愛を受け止め、感慨深く感じていたと想像する。TVカメラがかなり長い時間、ズラタンの表情を映し出した。その目は少し愁いを帯びていたが、あまりに柔和だった。刃、棘、すべての武器、防具が取り外され、イブラの素の優しさがさらされていた。こんな目を見たのは初めて! その時点で“ミラン退団”は明らかだったものの、“サッカー引退”が本人の口から公表されたのは試合後のこと。だがその時のイブラはすでに戦士ではなく、どこか悟りを開いた別人(神?)のようだった。……

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『アドレナリン』ズラタン・イブラヒモビッチ

Profile

沖山 ナオミ

横浜生まれ。慶應義塾大学文学部卒。翻訳者。ライター。リサーチャー。当初、IT、通信関連の雑誌記事、ウェブサイト等の英日翻訳を行っていたが、イタリア在住時ASローマの魅力に取り憑かれ、帰国後はサッカー関連の仕事にシフトした。サッカーテレビ番組および実況中継のリサーチャー、雑誌記事の翻訳等を行いながら、サッカー書籍の翻訳を始めた。主な訳書に、『キャプテン魂 トッティ自伝』(2020年)、『我思う、ゆえに我蹴る アンドレア・ピルロ自伝』(2014年)、『I AM ZLATAN ズラタン・イブラヒモビッチ自伝』(2012年)、『サッカーが消える日』(2011年)などがある(いずれも東邦出版)。

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