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クリストファー・エンクンク(フランス):プロを諦めかけた男がブンデスMVP&王者の切り札になるまで【W杯注目の新星②】

2022.07.19

7月11日に発売され、現在プレゼントキャンペーンも実施中の『footballista 2022 QATAR WORLD CUP GUIDEBOOK』。出場32カ国確定のタイミングでどこよりも早く、全チームの有力メンバーを網羅した選手名鑑と戦術分析をお届けするカタールW杯観戦ガイドだ。その連動企画として、WEBでは各国の担当ライターがそれぞれ、本大会でブレイク期待の“ライジングスター”を紹介。第2回は前回王者「フランス代表」から、今年3月にデビューして6試合で評価を確立した24歳のFWエンクンク(RBライプツィヒ)を取り上げる。

 カタールW杯でも優勝候補の一角と言われるフランス代表で注目したい選手が、クリストファー・エンクンクだ。

 ドイツのRBライプツィヒに所属して丸3年。21-22シーズンは全コンペティション合わせて35得点20アシスト(52試合)を記録し、ブンデスリーガの年間最優秀選手に選ばれた。W杯開幕直前に25歳になるエンクンクは、レ・ブルーのディディエ・デシャン監督の構想にもしっかり組み込まれている。

 というと、順調にキャリアを進んできたように聞こえるが、パリ・サンジェルマン(PSG)のアカデミー出身である彼の、これまでのキャリアは決して順風満帆というわけではなかった。

「降格」続きの少年をブラン監督が抜擢

 パリ近郊出身のエンクンクは、地元のアマチュアクラブでサッカーを始め、フランスの国立養成所クレールフォンテーヌでプレフォルマシオン(前期育成13~15歳)を受けた。それと同時にPSGにも籍を置き、15歳でクレールフォンテーヌを卒業した後はPSGの育成所に入所した。

 U-17チームに入ったが、当時の身長は160cmそこそこ。周りはガタイの良い選手ばかりで、エンクンクはたびたびU-16チームに降格させられた。少年プレーヤーにとってはショックな出来事だが、そんな「降格」は年齢が上がっても続いた。

 歴代の指導者はそろって「フットボールIQに関しては、常に他の子供たちよりも頭一つ出ていた」と彼のインテリジェンスを評価しているが、とりわけティーンエイジャーの頃は頭脳よりもサイズが重要視されがちだ。

 アカデミー卒業が近づいても、それを理由にトゥールーズやRCランスなど、複数のクラブからプロ契約を断られた。そんなエンクンクの素質を見抜いてプロ入りのチャンスを与えたのが、13-14から3シーズン、PSGの指揮を執ったローラン・ブラン監督だった。

 「彼はまだ育成途中で、すぐにリーグ1でフルシーズンというわけにはいかないが、非常に面白いものを持っている。それに彼はこのクラブで育った。生え抜き選手を育てるのはPSGの務めだからね」

1997年11月14日生まれの24歳。写真は2015年7月、当時17歳で出場したPSGファーストチームのプレシーズンマッチで

 そうして18歳になってまもない2015年12月、エンクンクは晴れてPSGのプロ選手となった。彼が以前『フランス・フットボール』誌に語っていた、初めてファーストチームの練習に呼ばれた時のエピソードが微笑ましい。

 「寮の部屋で寝っ転がってたら、携帯が鳴ったんだ。出ないで放っておいたら、もう1回鳴った。これは急用かなと思って出たらU-19チームのコーチからで、ファーストチームにケガ人が続出してメンバーが欠けているから、ユースチームから1人加えたいと。慌てて飛び起きて、ロッカールームまですっ飛んでいった。誰か他の選手を見つけちゃったら大変だ!と焦って、あんなに速く走ったことはないってくらいだったよ!(笑)」

  ところが、そのシーズンの終わりにブランは離職。彼の後任ウナイ・エメリ(現ビジャレアル監督)は、エンクンクの起用に消極的だった。

 それでも、負傷者が続出したこともありシーズン途中からファーストチームのメンバー入りすると、2017年1月のフランスカップ、バスティア戦ではプロ初ゴールも経験した。しかし、そのシーズンオフにネイマールやキリアン・ムバッペが入団してくると、プレータイムを稼ぎたい盛りの彼にとって、出場機会を増やすことはますます難しくなった。

ライプツィヒ&ナーゲルスマンとの幸せな出会い

 そうして2019年夏、エンクンクはPSGを去り、ドイツへ向かう決意をする。RBライプツィヒにはすでにダヨ・ウパメカノ(現バイエルン)、イブラヒマ・コナテ(現リバプール)、ノルディ・ムキエレというフランス人選手がいたことも助けになった。

 「彼らはこのクラブのことについていろいろ教えてくれた。昨シーズンはどうだったか、今シーズン目指しているのは何か、といったようなことをね」

 65分から出場したデビュー戦でさっそくゴールを挙げると、ウィンターブレイクまでに3得点9アシスト。エンクンクは同シーズンに加入した新戦力の中で唯一、開幕時からレギュラーメンバーに定着した選手だった。

 当時の指揮官だったユリアン・ナーゲルスマン(現バイエルン監督)にとって、複数のポジションをこなせるエンクンクの才能は大きな魅力だったようだ。……

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RBライプツィヒカタールW杯クリストファー・エンクンクフランス代表

Profile

小川 由紀子

ブリティッシュロックに浸りたくて92年に渡英。96年より取材活動を始める。その年のEUROでイングランドが敗退したウェンブリーでの瞬間はいまだに胸が痛い思い出。その後パリに引っ越し、F1、自転車、バスケなどにも幅を広げつつ、フェロー諸島やブルネイ、マルタといった小国を中心に43カ国でサッカーを見て歩く。地味な話題に興味をそそられがちで、超遅咲きのジャズピアニストを志しているが、万年ビギナー。

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