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30年来の「9番の呪い」を解くために。 チェルシー新経営陣に求む、名より実を取る補強戦略

2022.07.14

昨夏に約149億円とも言われるクラブ史上最高額の移籍金でチェルシー復帰を果たして約1年。ロメル・ルカクはケガにコロナ感染、さらには不満暴露も響き不振に喘いだ2021-22シーズンを終え、6月29日に前所属インテルへとレンタル放出された。フェルナンド・トーレス、ゴンサロ・イグアインらに続き、再び9番を背負ったストライカーが期待外れに終わったことからチェルシーに潜む「呪い」の存在があらためて囁かれているが、長年の呪縛から解き放たれるには何が必要なのか?地元ロンドン在住の山中忍氏に考察してもらった。

16人中、成功者3人の9番“凡人伝”

 「またか」――ロメル・ルカクのインテル・ミラノUターンに対する西ロンドン界隈の反応は、この一言に要約できる。2度目のチェルシー移籍も期待外れだったからというだけではない。まだ駆け出しの10代だった2011年の移籍が3年間で計15試合出場に終わっていたCFは、「完成品」として再購入された昨季もプレミアリーグで26試合出場8得点と冴えなかったわけだが、それは、過去30年間で13度目となるチェルシー新9番の不発でもあったのだ。

 イングランド国内では、ルカク本人が約9億8000万円もの減俸まで覚悟してインテルへのレンタル移籍を望んだこともあり、2度目のチェルシー加入は失敗に終わる運命にあったのだとして「9番の呪い」という言葉がメディアで用いられた。背番号にまつわる縁起の善し悪しは、今日のようにデータの分析と活用が当たり前になる以前から人々が興味を持っていた数字の世界。国内トップリーグにおいて、背中の番号がポジションではなく選手個人を意味するようになった1993年以降、スカッドナンバー絡みの伝説を持つクラブは複数あるが、チェルシーで9番を背負った者の“凡人伝”は特に有名だ。

 一般的には主砲としてのプライドを示す人気ナンバーであるはずが、チェルシーでは9番が空いていることも珍しくない。だからこそ、控えDFだったハリド・ブーラルズ(2006-08)、獲得自体が疑問だったMFのスティーブ・シドウェル(07-08)、トップレベルで実績のない18歳のFWだったフランコ・ディ・サント(08-09)でも加入時に選ぶことができた。

チェルシーでは公式戦16試合に出場したものの、ピッチに立った時間はわずか276分にとどまり不発に終わったディ・サント。33歳を迎えた現在はメキシコ1部のティフアナでプレーしている

 何しろ、自分のナンバーとした第1号のトニー・カスカリーノ(1992-94)からして、2年間でリーグ戦8得点という有り様。2度と国内でプレーすることのなかったイングランド人に続いた9番15名のうち、移籍直後から期待に違わぬ活躍を見せたストライカーは3人しかいない。リーグ戦7試合連続ゴールの当時新記録を樹立したマーク・ステイン(94-96)、計78試合出場で40得点をあげたジャンルカ・ビアリ(96-99)、在籍中にプレミア得点王にも輝いたジミー・フロイド・ハッセルバインク(2000-04)という、非優勝候補時代の3選手だ。

在籍通算177試合87得点を叩き出したチェルシーの伝説的FWハッセルバインク。01-02シーズンには、23ゴールで自身2度目となるプレミアトップスコアラーに

 2003年のクラブ買収を機にビッグクラブ化が進み、翌年のジョゼ・モウリーニョ招へいで強豪の仲間入りを果たしてからは錚々たる顔ぶれが「呪われた」ことになる。エルナン・クレスポ(03-04、05-06)、フェルナンド・トーレス(11-15)、アルバロ・モラタ(17-19)、ゴンサロ・イグアイン(19)という名前だけを見れば、どれだけ多くの得点がもたらされたのかと考えたくなるが、実際には4人合わせても7シーズン半でリーグ戦61ゴールにとどまっている。

“オイルマネー”の副作用として

 度重なるCF補強失敗を「呪い」の一言で片づけるのは簡単だが、その様子を目の当たりにしてきた地元サポーターたちは、それが成り上がり成功の副作用であることに気づいていたはずだ。値の張るストライカーの獲得に際しても“オイルマネー”に物を言わせることができたロマン・アブラモビッチ前オーナー時代のクラブには、リーグとチームへの適性よりも「名前」で手を出す傾向があり、買われる選手の側にも、移籍先での環境より契約に惹かれたと思える節があった。……

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Profile

山中 忍

1966年生まれ。青山学院大学卒。在住も20年を超えた西ロンドンが第二の故郷。地元クラブのチェルシーをはじめ、イングランドのサッカー界を舞台に執筆・翻訳・通訳に勤しむ。著書に『勝ち続ける男 モウリーニョ』、訳書に『夢と失望のスリー・ライオンズ』『ペップ・シティ』など。英国「スポーツ記者協会」及び「フットボールライター協会」会員。