SPECIAL

【小野忠史社長インタビュー】「強い危機感を持っています」――新生ガンバ大阪の現在地(前編)

2022.05.31

「日本を代表するスポーツエクスペリエンスブランドになることを目指します」

クラブ創設30周年を機にガンバ大阪が新たに発表した目標である。クラブ公式HPにはその説明として「サッカーのフィールドに留まることなく、新たな体験を創出」と記載されている。エンブレムも刷新され、新体制で挑む2022シーズン。半年が過ぎた今、クラブはその目標に近づけているのか。クラブスタッフへのインタビューを通じて、改革の現在地を探る。

前編は代表取締役社長の小野忠史氏に経営状況も含めた形で現状考察と今後の展望を、後編では顧客創造部の奥永憲治氏と石丸広希氏に具体的な活動例として話題になった「新マスコット誕生」と、6月18日に開催される“サッカーと音楽をコラボレーションしたイベント”「GAMBA SONIC」について語ってもらった。

サッカー以外の部分でも存在価値を高めていきたい

――新たなクラブコンセプトを掲げてスタートした2022シーズンもまもなく折り返しです。ここまでの手応えはいかがですか?

 「まず、開幕前は社員や選手に対して『ガンバ大阪は変わる。新しい一歩を踏み出す』という意識を共有することに力点を置きました。その上で“ガンバ化”と呼んでいるのですが、新しいエンブレムがラッピングされた大阪モノレールや阪急バスがホームタウンを走ったり、スタジアムの装飾を新しいコンセプト仕様に変更したり、そうした活動の積み重ねによって少しずつ地域の皆さまにも認知いただいている手応えはあります。ブランディングは1日、2日で浸透するものではないので、地道にやっていくしかないですね」

新しいエンブレムがラッピングされた大阪モノレール

――新しいエンブレムは当初、ネガティブな意見も多かったですが、昨年11月に発表された「ユナイテッドアローズとのコラボアイテム」や、今年4月に受賞した「iFデザインアワード2022受賞」の影響もあり、風向きが変わりつつあるように感じます。

 「ユナイテッドアローズさんとのアパレルは新エンブレムを上手にデザインいただいたこともあり、非常に好評でした。特にパーカーは発売後すぐに完売しました。他にも箕面ビールさんやパナソニックとのコラボ商品など、関係者の皆さんのおかげで(新エンブレムの)露出が広がっています。おっしゃる通り、最初は賛否両論ありましたが、最近は少しずつ『カッコいい』という意見もいただく機会も増えてきました。まあ、私に気を遣ってくれているのかもしれませんが(笑)」

コミュニケーションデザインで、Jクラブ初の「iFデザインアワード2022」を受賞した

――コラボレーション相手にも表れていますが、「サッカーのフィールドに留まらない」という点は新コンセプトでの活動におけるポイントの1つです。

 「Jリーグ30年の歴史でファンの年齢層が高くなっているというデータがあります。それは(ファンの)固定化と捉えることもできます。そうした(コアファン)層を大切にしつつ、新たな顧客を開拓するためにも必要なことだと考えています」

――今年は試合日に開催されるイベントが「イースターエッグ作り」「ミニ動物園」「パトカー&消防車展示」など、“子供向け”が多いことも新規開拓を意識されてのことですよね?

 「サッカーはあまり詳しくない方にも『パナスタってこんなに楽しんだ』と感じてもらうことを重視していて、先行投資的な意味も込めてお子さまや女性を意識したイベントは増やしています。この後に(記事後編で)お話しする新マスコットの誕生もその一環です」

5月4日に発表された新マスコット。名前は一般公募で決定される予定

――そうした活動の積み重ねの先にあるのが、目指すゴール(目標)として公言されている「日本を代表するスポーツエクスペリエンスブランド」であると理解しています。存在意義や企業理念を前面に出して共感を集めるアプローチは近年のトレンドでもありますが、そうした定性的な価値をクラブはどのように測るのでしょうか?

 「現時点でブランドの価値を数値化して計測するのは難しく、指標も含めてこれから検討する予定です。質問の回答からは逸れるかもしれませんが、今、お伝えできるのは、ガンバ大阪は創立からサッカーを中心とした事業で夢や感動を創造してきましたが、今後はSDGsをはじめ、パートナー企業さんや行政も含めて、サッカー以外の部分でも存在価値を高めていきたいということです」

SDGsに関する活動も積極的に行われている

100億円という目標は変わっていない

――先日、2021年度クラブ経営情報の開示があり、ガンバ大阪の営業収益(売上高)は約51.8億円と発表されました。(※2022年度の営業収益は約44.9億円)

 「残念だったのは入場料収入です(※2019年度:約12.5億円、2020年度:約3.2億、2021年度:約2.5億)。2020年シーズンから引き続きの(スタジアム)入場者数制限に加えて、2021年シーズンは、大阪府が設定したイベント開催に関する感染防止対策で無観客開催が5試合もあった影響が大きかったですね」

――昨年実施させていただいたインタビューで、小野社長は2022シーズンのホームゲーム平均入場者数を2万2000人と見込まれていました。G.W.に開催されたヴィッセル神戸戦では久々に2万人を超える2万6490人の入場者数を記録しましたが、全体的には苦戦している印象です。

 「2万2000人という数は3万人超えの試合計画も含めた形での予想だったのですが、コロナがこのまま終息したとしても下方修正しなければいけない状況で、強い危機感を持っています。サッカーの応援スタイルとして、声を出せない影響もあるのかもしれないですね。仮に今シーズン、声出し応援が解禁されたとしても、入場者数制限がセットになる可能性が高いでしょうし、コロナ前の水準に入場者が戻るのはもう少し先なのかなと考えています」

――先ほど新規開拓を意識した先行投資の話がありましたが、年間パス保有者をはじめ、コロナ禍前までは観戦していたファン層の来場率向上も課題です。優先順位をどのように考えられていますか?

 「まずは後者ですね。データは取れているので、年間パス保有者でスタジアムに来場いただけていない方などへのアプローチは様々な方法で強化していきます。その上で、魅力的なサッカーを披露することが必要。勝ち負けも大切ですが、内容も大切です。私も試合を観て、まだまだ上位を目指せるチームだと思っています。私はサッカーに関しては素人なので戦術的なことは言いませんが、片野坂(知宏)監督とは定期的にコミュニケーションをとっています」

2022シーズンからガンバ大阪の監督に就任した片野坂知宏

――スタジアムへの集客以外で検討されている施策があれば教えてください。

 「最優先がそれ(集客)であることは間違いありません。社内では様々なプロジェクトが進行しており、集客に関しては私がオーナーになった全社プロジェクトという位置付けです。その次に重視しているのは『グッズ』ですね。ユナイテッドアローズさんとのアパレルが好評ですが、『サッカーグッズを売る』という発想にとらわれることなく、異業種とのコラボレーションを積極的に行っていく予定です。決まり次第また発表させてもらいます」

――やはり「サッカーのフィールドに留まらない」活動を重視されているのですね。

 「試合日以外も地域の皆さまの役に立ちたいと思っています。例えば、北摂エリア(大阪府北部)はホテルが少ないんですよ。(スタジアムの近くで営業していた)ホテル阪急エキスポパークが閉館して、ランチやディナーの場所に困っている人がいるという話も聞きます。パナスタ(パナソニックスタジアム吹田)ではVIPフロアにレストランを設置していて、今年からリーガロイヤルホテルさんにサービスを提供していただいているのですが、ここを試合日以外も営業することを検討しています。これも私がオーナーのプロジェクトの1つです」

今後は披露宴や懇親会など様々なシーンでスタジアムの利用をPRしていく予定

――取材終了時間も迫ってきたので、最後に聞かせてください。「営業収益100億円クラブを目指す」という考えは、今も変わっていませんか?

 「コロナ禍で難しい状況ではありますが、100億円という目標は私の中では変わっていません。事業の取り組みはチーム成績と連動するところがあるので、まずはチームを強くして、勝つことを追求します。その上で目標としている100億円をしっかりと追いかけていきます」

Tadashi ONO
小野忠史

1961年7月22日、大阪・河内長野市生まれ。60歳。PL学園高野球部では2年夏にベンチ入り(出場はなし)し、1学年上の木戸克彦(元阪神)らとともに夏の甲子園で優勝。3年時はレギュラーとして、同学年の小早川毅彦(元広島→ヤクルト)らとともにセンバツで4強入りした。東洋大を経て松下電器野球部に進み、都市対抗にも出場。27歳で現役引退し、指導者を経て社業に専念。19年4月にG大阪の副社長に就任し、20年4月、代表取締役社長に昇任。21年10月、クラブ創立30周年記念マッチで新エンブレムを発表した。

※後編はこちら

明治安田生命Jリーグを見るならDAZN
DAZN Jリーグ推進委員会「Jリーグ月間表彰」特設ページはこちら

Photos:©️GAMBA OSAKA , Getty Images

footballista MEMBERSHIP

TAG

ガンバ大阪小野忠史

Profile

玉利 剛一

1984年生まれ、大阪府出身。関西学院大学卒業後、スカパーJSAT株式会社入社。コンテンツプロモーションやJリーグオンデマンドアプリの開発・運用等を担当。その後、筑波大学大学院でスポーツ社会学領域の修士号を取得。2019年よりフットボリスタ編集部所属。ビジネス関連のテーマを中心に取材・執筆を行っている。サポーター目線をコンセプトとしたブログ「ロスタイムは7分です。」も運営。ツイッターID:@7additinaltime

関連記事

RANKING

関連記事