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移籍禁止処分の背景にあった複雑な事情――バルセロナの場合

2014.04.07

子供の国際移籍が叶える夢と背負うリスク

 2014年4月2日、FIFAがバルセロナの今後1年間(14年夏と15年冬)の選手移籍禁止処分を発表した。制裁の理由は、FIFAが定める移籍条項第19条にある未成年者の国際移籍を禁止する規定に違反した、というものだ。バルセロナにとっては寝耳に水だったろうが、同時に覚悟の制裁でもあったはずだ。それはFIFAの発表を受けて同日に出されたバルセロナの声明を読めばよくわかる。彼らはこの中で“移籍条項に違反していない”とは一切主張していないのだ。

(以下の条項および声明の内容に関しては、すべてスペイン語の原文を筆者が日本語に訳したもの。逐語訳だけではなく抄訳も含む)

 声明の内容に触れる前に、まずはFIFAの移籍条項第19条の内容を整理しておこう(13年3月、こんなコラムも書いた。こちらも参照してほしい)。第19条の正式な名称は「未成年者の保護」。そこでは原則として18歳未満の子供の国際移籍を禁止し、例外的に認める場合として3つのケースを規定している。

①「両親がサッカー以外の理由で引っ越した場合」

②「16歳以上18歳未満でEU内、EEA(欧州経済領域)内での移籍の場合」

③「自宅が国境から50km以内にあり、隣国のクラブもまた国境から50km以内にあり、両国のサッカー連盟が合意した場合」

 今回バルセロナが疑われているのは、以上の3つのケースを満たさない子供たち(FIFAによると10人)が所属していたからだ。例外のうち②と③は違反のしようがないから、FIFAが目を付けたのは①だろう。つまり、子供がバルセロナでプレーするために両親が移住して来たケースがあった、ということではないか。

 昨年3月、スペインの高級紙『エル・パイス』に、「FIFAが6人の未成年者を登録禁止処分に」というニュースが載った。これはバルセロナの6人の外国籍の子供たちの選手ライセンスが、移籍条項違反で取り消されたというものだった。1年以上前からFIFAが調査を続け、くすぶっていた問題が今になって一気に燃え上がったというわけだ。

 守護神ビクトル・バルデスと主将プジョルが今夏で退団となり、補強が最も必要なタイミングでの移籍禁止処分。大騒動になるのも無理はない。ボージャン(アヤックス)やラフィーニャ(セルタ)、デウロフェウ(エバートン)らのレンタルバックには支障はないが、3月に契約書にサイン済みのハリロビッチの処遇は微妙。V.バルデスの代役テア・シュテーゲンとの今夏の契約は、制裁が解除されない限り無理だ。

“一理も二理もある”バルセロナの主張

 制裁措置発表の同日、バルセロナは14項目からなる以下のような声明を出した。

①スペインサッカー連盟も処分の対象となった

②移籍条項は未成年者の保護が目的だが、ラ・マシア(バルセロナの育成部門)は子供たちの育成の権利を満たしている

③ラ・マシアの育成モデルは教育、居住、扶養、医療などを含み、バルセロナはスポーツ選手の育成ではなく人の育成を優先している。その点をFIFAは考慮していない

④すべての選手は連盟のライセンスを所持している

⑤FIFAの調査対象となった子供たちの中にはカタルーニャ連盟からカタルーニャ代表に招集された者もいる

⑥FIFAの調査が始まってから調査対象の子供たちのライセンスは取り消され、公式戦には参加していない

⑦子供たちは合法的な居住者である

⑧FIFAによってライセンスが取り消された子供たちにもバルセロナはクラブに所属し続け教育の機会を受ける選択肢を与えている

⑨バルセロナの選手に違法者はいない

⑩バルセロナはFIFAに未成年者の保護についての規定を見直すよう何度も働きかけている

⑪バルセロナの育成モデルはFIFAの承認を受け、ラ・マシアは常に模範とされてきた

⑫我われのバロンドールの候補者たちはスポーツ育成の成果が FIFAに認められた証拠である

⑬バルセロナの育成モデルは選手の家族たちが社会に溶け込むことに貢献してきた

⑭FIFAの解釈では規定違反になるだろう外国生まれの子供たちが、カタルーニャ連盟だけで1万5000人所属している――。

 一読して明らかなように、「バルセロナは規定を守っている」とは言っていない。むしろ⑩でわかる通り、「規定の方に不備がある」、と主張している。

 まとめると、「ラ・マシアは未成年者保護の精神に反するどころか、彼らの育成に貢献しており、FIFA、スペインサッカー連盟、カタルーニャ連盟にも認められてきたのに、なぜ今さら制裁を与えられるのか?」がバルセロナ側の言い分になる。

 この言い分には一理も二理もある。

 ラ・マシアの育成組織がハード、ソフト面とも素晴らしいのは事実だ。私はかつて教育図書の制作に関わっており、サッカー関係のジャーナリストには公開されない旧ラ・マシアで、子供たちと一緒に1日過ごしたことがある。バルセロナは市内でも有数の小中学校と提携関係を結び、子供たちをバスで送り迎えしていた。学校での態度や成績は毎日クラブ側へ報告され、ラ・マシアには補習のための教室と講師が用意されていた。栄養管理がなされた食事を年少者から順番に摂る子供たちの行儀の良さが、特に印象に残っている。一般の小中学校の給食時間の耳を塞ぎたくなるような大騒ぎを経験していたからだ。子供たちと話をすると礼儀正しく受け答えもしっかりしている。インタビューのやり方も学び、当時在籍していたエトーが人種差別について子供たちの前で話をする機会もあったという。バルセロナが③で主張する人間育成優先の言葉には嘘がないと感じた。

 今さら制裁、というのもその通りだ。

 規定違反なら審査機関であるFIFA以下の連盟がライセンスの発給をストップしていれば済んだことだ。一度ライセンスを出しておきながら、いきなりこの重い処分はない。しかも、制裁と声明の翌日に開かれたバルトメウ会長の会見では、制裁処分は昨年11月に確定していたはずなのに発表が4カ月も後に行われた、ということも明らかになった。

 ただ、同じ会見でバルトメウ会長は「ラ・マシアには例外を認めてほしい」とFIFAに要請したという意味のことを何度も繰り返した。バルセロナが規定違反を犯したことは認めなかったが、FIFAの規定を守っているとも言わなかった。第19条を条文通りに厳密に適用されれば違反すると自覚していたからこその例外要請であり、規定見直しの働きかけだったのだろう。

 ラ・マシアには例外を認めるべきなのか? 第19条は改定されるべきなのだろうか? その是非を検討するために、もう一度第19条の規定に戻ろう。

メッシになれない大多数

 そもそも、なぜ両親の引っ越しの理由が「サッカー以外」でなければいけないのかというと、サッカーを理由に、つまりクラブや代理人の都合で子供がやり取りされると、人身売買のまがいの国際移籍が横行しかねないからだ。むろんバルセロナの育成環境には「人身売買」なんて言葉はそぐわない。彼らはスペインの平均的な子供たちよりもはるかに高い教育・育成・扶養レベルを用意して子供たちを受け入れており、そこに情状酌量の余地は大いにあるのだが、ただ、それでもバルセロナのやり方を認めることは未成年の保護に反することだ、と私は思う。

 彼らの言う通り、バロンドールの最終候補に何度も選出されているシャビ、メッシ、イニエスタがラ・マシアの育成力の成果であることは疑いない。もし成長障害だった13歳のメッシにFIFAの規定が適用されアルゼンチンに残っていれば今、彼のスーパープレーを楽しむことはなかったかもしれない。

 だが、彼ら大成した選手はいいのだ。問題は、彼らの後ろにいる、膨大な数の挫折していく子供たちである。

 サッカーをしたいからと生まれた国を後にしてバルセロナに入った子供が大成しなかったらどうなるのか? ケガをしたり伸びなかったりして夢を諦める羽目になったらどうなるのか? 所属中はバルセロナの手厚いサポートを受けられるだろうが、退団後は誰が彼ら、社会的・文化的なハンディを負う外国生まれの子供たちの面倒を見るのか? 祖国に送り返すのか? 「両親と本人の自己責任」「リスクは十分に説明した」ということでクラブ側は責任を免れて、それで済むのか?

 これらの問いに未成年保護の観点から回答ができない限り、FIFAは移籍規定第19条を緩和するべきではない、と思う。バルセロナのようなたとえ世界一の育成環境を備えたクラブに対しても、その他の膨大な数の“人身売買予備軍”のクラブに対しても。

 FIFAの現在の規定は、退団した者の教育・育成・扶養義務は両親にありクラブにはないことを前提としている。移住にも入団にもクラブ側からの働きかけは一切ないのだから当たり前だろう。

 しかし、もし「サッカー以外」の規定をなくすなどしてクラブが外国から子供を連れて来ることを許可すれば、その義務の一端は外国の子供をスカウトし誘ったクラブも負うべきだ、という議論は当然出て来る。

処分軽減の可能性は?

 バルセロナはFIFAの制裁を不服とし、まずはFIFAの調停委員会へ申し立てをし、それが認められなければ、CAS(スポーツ仲裁裁判所)へと訴え出ることを決めた。いずれにせよ、バルセロナ自身が規定違反かどうかを争点としていない(というか、会長は半ば不正を認めている)から違反認定は覆らないだろうが、連盟側の不備による被害者という面もあるし未成年者を手厚く扱ってきたという事実もあるので、制裁は軽減ざれるかもしれない。

 過去にチェルシーが、16歳のフランス人選手の国際移籍の際に不正があったとして1年間の移籍禁止処分を受けた後、CASがこれを無効としたことがある(※)が、この時は第19条違反が争点ではなかった。この少年はEU国籍保持者で16歳以上18歳未満だから第19条の例外規定②に該当し、国際移籍自体は認められていた。適用規定が異なるし今回のバルセロナは違反者が10人もいるから、チェルシーの例は参考にならない。

(※)07年夏のカクタ(現ラツィオ)獲得に際し違反があったとして、前所属クラブのランスがFIFAに訴えを起こす。09年9月、FIFAの調停委員会はチェルシーに対し、1年間の選手獲得禁止と罰金処分を科すと発表。チェルシーはこれを不服としてCASに提訴。10年2月、CASはチェルシーの主張を支持し処分は解除された。

 ただ、FIFAの制裁には「クラブは90日以内に違反者の状況を合法化せよ」という一文がある。これこそ未成年者保護の観点から弾力的に適用すべきだろう。

 声明の⑧で、バルセロナが違反者に対しても教育を受ける選択肢を与えた、というのは人道的な判断だ。彼らを国へ返すのか、それとも……。バルトメウ会長によると、選手ライセンスを持たない練習生扱いでチームに残すという選択があるのだという。チームの日々の練習にそのまま参加させ、連盟主催の公式戦には出場できないが、連盟管轄外の親善試合でプレーさせながら18歳になるのを待つ。これは抜け道的なやり方ではあるが、完全に合法である。

 バルセロナの一部地元メディアの反応にはヒステリックなものも少なくない。

 「他のクラブもやっている」という主張に対しては、そうであればそれらのクラブ(メディアにはレアル・マドリーとアトレティコ・マドリーの名が出ている)も制裁対象にすべき、と言うのみ。“だから許される”とはならない。

 また、制裁を決めたFIFAの関係機関のメンバーにRマドリーの副会長の名があることから、先日のクラシコでのジャッジをめぐる騒動に続き、またもや陰謀説も出ている。中でも最悪だったのは未成年者の顔写真を掲載し「トラブルの源」と題したスポーツ紙。規定違反とされた外国人少年たちこそ今回の最大の被害者である。見解は異なりこそすれ、FIFAもラ・マシアも未成年者保護の精神を尊重している点では一致しているのだが、こんな報道ではバルセロナの立場を正当化することには決してならないだろう。

Photo: Reuters/AFLO

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Profile

木村 浩嗣

編集者を経て94年にスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟の監督ライセンスを取得し少年チームを指導。06年の創刊時から務めた『footballista』編集長を15年7月に辞し、フリーに。17年にユース指導を休止する一方、映画関連の執筆に進出。グアルディオラ、イエロ、リージョ、パコ・へメス、ブトラゲーニョ、メンディリバル、セティエン、アベラルド、マルセリーノ、モンチ、エウセビオら一家言ある人へインタビュー経験多数。