「アジアを勝ち獲ろう」。横浜FMがACLアウェイの苦闘で手にしつつある宝物
コロナ禍によって変則方式の集中開催で行われている今季のAFCチャンピオンズリーグは、グループステージの佳境を迎えている。日本から参戦した横浜F・マリノスは、アジアのアウェイ特有の問題に苦しんで本来の力を発揮し切れていない印象もある。だが、そこにあるのは、単なる「苦戦」ではない。現地で取材を重ねる舩木渉記者に、その模様を伝えてもらった。
「中2日で自分たちのサッカーは難しい」
「自分たちのサッカーを曲げず、とにかく自分たち自身を信じてやっていくことが大事だ。常にクラブのプライドをかけて戦っているので、スタイルを試合ごとに変えることはまずない」
横浜F・マリノスを率いるケビン・マスカット監督は、27日に行われた記者会見でそう言い切った。
翌日にはACLグループステージ第5節のホアンアイン・ザライ戦が控えており、前日記者会見も5回目。その席上、マスカット監督は「とにかく自分たちのサッカーをやり続ける」という主旨の発言を一貫して繰り返し続けてきた。
同時に、「中2日で自分たちのサッカーをやっていくのは難しい」とも率直に語っている。
例えばグループステージ第3節のシドニーFC戦に向けた記者会見で「我われのサッカーは決して簡単ではない。本当に難しいサッカーを求めているし、日本とは違う地でやるにあたり、コンディションや気候にも違いがあるのだから、より難しさはあると思う」と話していた。
だが、その後に続くのは「まず自分たちのサッカーをどれだけ表現していくかが本当に大事になる」という言葉である。この指揮官のジレンマこそ、今大会の横浜FMが直面している最大の問題である。
暑さ、ボール、芝……
今回のACLグループステージは新型コロナウイルスの影響を受け、集中開催となっている。横浜FMが入ったグループHはベトナム南部の中核都市・ホーチミンが戦いの舞台だ。
執筆時点では、第4節を終えて3勝1敗でグループHの首位に立っている。グループ1位のみが自動的に決勝トーナメントへ進める難しいレギュレーションの中で、自力突破も見えている状況だ。
数字だけを見れば楽観できる流れだが、内実が順風満帆だったとは言いがたい。指揮官が言及してきたように、慣れない気候やピッチ、ボールなどありとあらゆる問題に苦しめられながらも、「自分たちのサッカー」を表現するべく戦ってきているのである。
ホーチミン入りして初めての練習から2日連続でスコールに見舞われ、まともに練習できたのは前日のみという状態で初戦を迎えた。それでも試合会場となるスタジアムで前日練習はできず、環境に慣れる間もないまま地元ベトナム屈指の人気クラブ、ホアンアイン・ザライとの一戦に臨むことになる。
2-1で勝利することができたものの、想像以上の蒸し暑さに選手たちは疲労困ぱい。暑さに強いと思われたブラジル人FWレオ・セアラでさえ「暑くて、湿気があって、風がなく、すごく難しい。この環境の中でやらなければいけない厳しさは、今日やってみてすごく感じた。自分はそんなに足をつることはないけど、後半が始まって10分くらいで足をつり始めていた感覚があった」と音を上げるほどだった。
まだ涼しい日本から移動してきたチームにとって、この蒸し暑さがとにかく厄介だ。日中は気温35度前後まで上がることもあるが、試合が始まる夕方18時頃でも30度前後までしか下がらない。なおかつ湿度も非常に高く、空気が重く体にまとわりつくような感覚がある。記者席に座っていても汗が止まらず、いくら水を飲んでも全て汗で体の外に出ていってしまうようで、屋外にいるとトイレに行きたくなるようなこともないほどだ。
ACL初挑戦となるMF藤田譲瑠チマも「ずっとジメジメしているので、息が上がったらなかなか戻らない」と、ホーチミンの蒸し暑さに参っているようだった。横浜FMの試合日にはあまり降っていないが、もし夕方にスコールが降るようだと、湿度はさらにグッと上がって、よりキツい気候になる。
横浜FMのサッカーはパスがよく回り、ボールがよく動くのが特徴だが、それに加えて人もよく動くのも確かだ。ホーチミンの蒸し暑さによってエネルギー消費が激しくなり、運動量が制限され、相手よりも走って高い強度で戦えるという本来持っていた強みを活かせなくなってしまっていた。
Jリーグとは違うボールやピッチにも苦しめられている。ACLで使用されているボールの特徴について、DF岩田智輝は「タッチの感覚が全然違う。ちょっとしたトラップでもバインッて跳ねちゃうし、跳ね返りがすごい」と述べ、DF小池龍太は「強いボールを蹴ろうとしても、ボールが結構軽いイメージで、スピードが出にくい」と話していた。
そして試合会場になっているトンニャット・スタジアムの芝である。映像だと短く刈りそろえられていて綺麗なように見えるが、近づいてみると印象が変わる。確かに短いが密度が濃く、ところどころに穴や段差が目立つのだ。
おそらくパスを蹴ってもボールが芝の上を思ったよりも走らず、なおかつ軽くて力が伝わらないので、自分が想定した以上に短いパスになりがちになってしまう。グループステージ序盤からJリーグでは考えられないようなパスミスが多く見られたのは、こうしたボールやピッチの問題が大きく関係していた。
問われた適応力と確かな変化
……
Profile
舩木 渉
1994年生まれ、神奈川県出身。早稲田大学スポーツ科学部卒業。大学1年次から取材・執筆を開始し、現在はフリーランスとして活動する。世界20カ国以上での取材を経験し、単なるスポーツにとどまらないサッカーの力を世間に伝えるべく、Jリーグや日本代表を中心に海外のマイナーリーグまで幅広くカバーする。