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統計モデルを学んだベナムの壮大な野望。独自指標で「埋もれた才能」を発掘するスカウト部門

2022.02.04

マシュー・ベナムがブレントフォードとミッティランの経営に携わるようになって以来、セットプレー専門コーチなどユニークなスタッフの雇用、アカデミーを廃止しBチームで選手の価値を高める等、従来の常識にとらわれない斬新なクラブ運営を行ってきた。今回はこの戦略の本丸とも言える統計モデルに基づいたスカウト部門のアプローチを解説する。

※『フットボリスタ第87号』より掲載

 悲願のプレミアリーグ昇格を果たしたブレントフォードFCと、デンマークの強豪FCミッティラン。2つのクラブで「革命」の旗手となったのが、マシュー・ベナムだ。英国の名門オックスフォード大学で物理学を専攻した青年は、若くしてバンク・オブ・アメリカの副社長の地位を得る。バンク・アメリカへの就職から12年間のキャリアを捧げると、2001年にプレミアム・ベットに入社。そこで求められたのは、ギャンブルにおける統計的な予測モデルの構築だった。

 興味深いのが、当時ベナムが師事していたのが「英国最高のギャンブラー」トニー・ブルームだったという事実だろう。スポーツベッティングの世界で財を成した男は、今やベナムと同じくプレミアリーグのクラブを保有している。彼はプレミアリーグのブライトン&ホーブ・アルビオンを2009年に買収し、2018年にベルギーのロイヤル・ユニオン・サン・ジロワーズも買収。川崎フロンターレからブライトンに移籍した三笘薫は、現在ユニオンSGで武者修行を続けている。

 しかし、明確な理由は明らかになっていないが、ブルームとベナムの関係は悪化。プレミアム・ベットを退職してからスポーツベッティングで大金を稼ぐだけでは満足できなかったベナムは、2004年に自らのビジネスをスタートする。それが、スマートオッドだった。彼は自らの経験からアルゴリズムと統計データをベースにしつつ、クライアントにスポーツベッティングで勝利する方法をコンサルティングする会社を起業。そのビジネスは大成功し、ベナムはスポーツベッティング業界の成功者となった。

愛するブレントフォードの危機を救う

 同時に彼は、11歳の頃からスタジアムに通うブレントフォードの大ファンでもあった。財政的に問題を抱えて苦しんでいた愛するクラブに、7000万円を貸し出すことを決断する。結果的に2012年にブレントフォードのオーナーに就任すると、2014年にはミッティランを買収。そして、彼はミッティランをイングランドでの成功を再現する実験場に定めた。ミッティランに大金を投資し、彼の統計モデルが実際にどこまで機能するかを確認しながら、ベナムは競争の激しいイングランドで成功する方法を探していたのだ。

 最初にベナムが注目したのは、チームを強化するスタッフだ。彼は従来のメンバーを解雇し、分析データの扱いに長けた人員を補充。そこで、ブレントフォードの革命をサポートするメンバーがチームに加わっていくことになる。特に重要な役割を果たしたのが、クリス・ブラッドリーだ。ベナムが設立したスマートオッドで5年間アナリストを務めた男は、2018年にスカウトとしてクラブに加入。そこから経験を積み、2020年には「ブレントフォードとミッティランのスカウト部門統轄」に就任している。また、デンマークに拠点を持つ優位性を生かして彼らが北欧方面のタレントに注目していくことで、ミッティランのスカウトだったクリスティアン・キアルが2020年に「ブレントフォードとミッティランの北欧部門スカウト統括」に任命されている。

別々に運営していたスカウト部門を一元化

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ブレントフォードマシュー・ベナムミッティラン

Profile

結城 康平

1990年生まれ、宮崎県出身。ライターとして複数の媒体に記事を寄稿しつつ、サッカー観戦を面白くするためのアイディアを練りながら日々を過ごしている。好きなバンドは、エジンバラ出身のBlue Rose Code。