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PK失敗に隠れた三重苦。 欧州王者イタリア、W杯予選での誤算

2021.11.19

華麗なモデルチェンジを披露して頂点に輝いたEURO2020を境に、イタリア代表はカタールW杯予選でまさかの大失速。3戦3勝の好発進から一転、5戦4分と低迷した結果、格下スイスに首位の座を明け渡してロシアW杯予選と同様プレーオフへ回っている。欧州王者に生じた誤算を、イタリア在住ジャーナリストの片野道郎氏に分析してもらった。

 予選1位突破を逃した直接の敗因は、同勝ち点で臨んだスイスとの直接対決(11月12日)で終了直前に得たPKを決められなかったこと。勝てば1位抜けの確率が大きく高まるという状況の下、1-1で迎えた89分に値千金のPK(微妙なVAR判定だった)を得ながら、キッカーのジョルジーニョがゴールの枠すら捉えられず、試合はそのまま引き分けで終了。ほぼつかんでいたカタール行きの切符は宙に浮かんだままになった。

スイス戦でPKを外した直後、チームメイトから励ましを受けるジョルジーニョ

 3日後に組まれた最終戦を前にした時点では、同勝ち点ながらイタリアが得失点差で+2という微妙なリードを保ってはいた。1位抜けの条件は、スイスを勝ち点で上回るか、勝ち点で並んだ上で得失点差で上回ることだった(得失点差でも並んだ場合は直接対決のアウェイゴールで下回るため)。対戦相手はイタリアが北アイルランド(アウェイ)、スイスはブルガリア(ホーム)。

 結果はご承知の通り、イタリアが1点も奪えないまま0-0の引き分けに終わったのに対し、スイスは4ゴール(+VARに取り消された2ゴール)を叩き込んでの大勝。イタリアを蹴落として堂々の1位突破を果たした。

  ロベルト・マンチーニ監督はこの北アイルランド戦後、いささか言い訳がましい口調でこう語っている。

 「本来なら2試合前、そうでなくても先週金曜日(スイス戦)にはW杯出場が決まっているべきだった。そのチャンスはあったのに生かせなかった。ブルガリアとの引き分けは、シーズン開幕からセリエAを2試合しか戦っていない9月初めで、その後のスイスとの2試合はどちらもPK失敗があった。このところゴールを決めるのに苦しんでいるのは確かだけれど、試合は常に支配している。今日も前半に決定機があった。落ち着いて戦うためにはすぐにゴールを決めておくべき試合だった。相手はベタ引きだったから、早めにリードできないとこちらは苦しくなってしまう」

北アイルランド戦で戦況を見つめるマンチーニ監督

 そのブルガリア戦はシュート17本を打ちながら1得点止まり。敵地で0-0、ホームで1-1だったスイスとの2試合はどちらもジョルジーニョのPK失敗が響いたわけだが、これは責めても仕方がないところ。問題はむしろ、9月以降の予選後半5試合中4試合で引き分け、しかもそのうち流れからのゴールはブルガリア戦の1点だけ(スイス戦はCKから)という深刻な得点力不足にある。プレーオフに回った理由を一つ特定するとしたら、これを挙げないわけにはいかないだろう。

 同じ強豪国のポルトガルが出場権を逃したのは、3月にベオグラードで行われたアウェイのセルビア戦で93分にロナウドが決めた決勝ゴールが不当にも取り消されて(この時点で欧州予選にはVARもゴールラインテクノロジーも導入されていなかった)、気の毒なことに勝ち試合を引き分けにされたためだが、イタリアの場合は単純にPKでもCKでもオープンプレーでもゴールそのものを決められなかったせいだ。スイス×2、ブルガリア、北アイルランドとの4試合で2得点は言い訳がきかない。

継続するスタイル、断絶されるパターンとルート

 その背景には何があったのか。

 優勝という望外の結果で終わったEUROでの戦いを通して浮き彫りになったイタリアの強みと弱みは、次のようにまとめることができるだろう。

<強み>

・安定したビルドアップとボールポゼッションによるゲーム支配と主導権の確保
・ボールロスト直後の素早い「ゲーゲンプレッシング」による即時奪回
・堅固なブロック守備と強力なGKの存在

<弱み>

・ハイプレス/ミドルプレスでビルドアップを分断された時の逃げ道となる戦術オプションの不在
・得点力不足:作り出す決定機の数に比べて得点が少なく、独力で試合を決められるCFも不在

 これらがEURO明けのW杯予選後半(9月以降の5試合)ではどうだったか、攻撃に視点を絞ってチェックしてみよう。

 後方からのビルドアップを主体に、ポゼッションでボールと地域を支配し主導権を握って戦うという基本的なスタイルに変化はない。しかしその質ということになると、EUROでのピークパフォーマンスと比較して、いくつかの点で明らかに見劣りしていた。

 目立ったのは、ジョルジーニョを経由した最終ラインと中盤でのシンプルなパス交換で相手の中盤ラインを動かし、前線へのパスコースを作り出すというプロセスが分断され、ビルドアップが自陣内で行き詰まるケースが多かったこと。

 ブルガリア、北アイルランド、そして最終ラインへのハイプレスも併用してきたスイスも含めて対戦相手の守備は、CBにボールを持たせた上で中央ルートのパスコースを封じるミドルプレスが基本だった。とりわけジョルジーニョは敵MFからほぼマンツーマンに近い形で密着マークを受けることが多く、ボヌッチを中心とする最終ラインはジョルジーニョを使わず、サイドに展開しての組み立てを強いられた。

スイス戦ではシャキリから徹底に監視されていたジョルジーニョ

 EUROでは、ジョルジーニョがマークされている時には、左インサイドハーフのベラッティが下がって来たり、左CBのキエッリーニが強引に持ち上がったりという形で左サイドに基点を確保し、そこに左SBスピナッツォーラ、左WGインシーニェが絡み、さらにはアンカーのジョルジーニョが二次的に加わって数的優位を作り出して、左から崩していくパターンが機能していた。

 とりわけベラッティは、ワンタッチ、ツータッチでシンプルにさばくジョルジーニョとは対象的に、自らボールを持ったり運んだりすることで複数の相手を引きつけると、そこから独力で抜け出して数的優位を作り出し、局面を前に進める貴重かつ重要な存在だった。その代役に入った若いロカテッリやトナーリに同じ仕事を期待するのは無理な相談である。彼らは最終ラインからのパスを受けても、相手の素早い寄せに前を向くことができず、横に逃げるか後ろに戻すか以外の選択肢を選ぶことは稀。さらに左CBのアチェルビや左右のSB(ディ・ロレンツォ、エメルソン)もリスク回避指向の強い慎重なプレーに終始したことで、敵中盤ラインを越えて2ライン間にボールを供給するルートを切り開く糸口がなかなかつかめなかった。

EURO決勝イングランド戦でボールを運ぶベラッティ。ケガが相次ぎW杯予選最終盤のリトアニア戦、スイス戦、北アイルランド戦では未招集に

不在で現れたインモービレの本質

……

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イタリア代表戦術

Profile

片野 道郎

1962年仙台市生まれ。95年から北イタリア・アレッサンドリア在住。ジャーナリスト・翻訳家として、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。主な著書に『チャンピオンズリーグ・クロニクル』、『それでも世界はサッカーとともに回り続ける』『モウリーニョの流儀』。共著に『モダンサッカーの教科書』などがある。

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