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【現地レポート】1カ月半で激変した街の反応。「MITOMA」の人気と成長

2021.11.10

11月7日、三笘薫がスタメンに定着したロイヤル・ユニオン・サン・ジロワーズが、森岡亮太を擁するシャルルロワをホームに迎えた。「スタッド・ジョセフ・マリアン」を訪れた中田徹氏が感じたのは、予想以上の「MITOMA」フィーバー。新しいスター候補の日本代表での活躍を望んでいるのは、どうやら日本人だけではなさそうだ。

 ロイヤル・ユニオン・サン・ジロワーズ(以下ユニオン)のホームスタジアム「スタッド・ジョセフ・マリアン」のメインスタンドは、ブリュッセルの南部に位置している。このスタジアムのメインスタンドは、1920年にアントワープ五輪を開催した頃の姿と変わらぬ由緒正しきものだ。私はここに来ると、畏敬の念を込めてスタジアムを眺めながらコーヒーを1、2杯ほど飲んでから入場することにしている。

もはや快進撃ユニオンの「顔」の一人

 11月7日のユニオン対シャルルロワ戦のキックオフ前のことだった。メインスタンド前の路上でコーヒーを飲む私に、ベルギー人から「君はミトマを見に来たんだろう? 日本代表に初めて選ばれたね。おめでとう」と声をかけられた。しばらくすると、今度は老人が私を抱き寄せ、フランス語で「ミトマ、ミトマ、○×△□」と道行く人たちに向かって演説を始め、最後に私の頭にキスをした。

 今から1カ月半前、私は同じ場所でコーヒーを飲んでいたのだが、誰からも声をかけられることはなかった。

 当時の三笘薫は試合の終盤に途中交代でピッチに入ってプレーするだけだった。一番短い時で7分、長くても17分という出場時間に過ぎなかった。与えられた時間の中で三笘は非凡なプレーを披露し、ファンは一刻も早く彼がスタメンの座を勝ち取るのを期待していた。しかし、センセーションはまだ始まってなかった。

 10月16日のセラン戦で三笘の名前は一気にベルギー中に広まった。ユニオンは前半、0-2のビハインドを負った上、退場者が出てしまって数的不利に陥った。起死回生の策として、マッズ監督は後半開始のピッチに三笘を送り出した。ここから三笘のワンマンショーが始まった。

 三笘は55分、76分、90分のゴールでハットトリックを完成させ、4-2の大逆転勝利の立役者になった。中でも最後のゴールは、自陣左サイドから長駆ドリブルで右ハーフスペースまでボールを運んで決めたゴラッソだった。

 三笘のハットトリックを、全国紙の『ヘット・ニーウスブラット』は「ビッグ・ミトマ・ショー」という大見出しをつけて報じた。三笘の採点はチーム内最高の9だった。報道の内容を、意訳を交えて抜粋する。

 「それまでの好プレーで、三笘はすでにファンのお気に入りの選手の一人になっていた。彼がハーフタイムにアップを始めると、ファンが三笘の名前を叫び出した。マッズ監督は言う。

 『誰もが、三笘にはもっと早く出場時間を多く与えられると期待していた。しかし、ユニオンは1年半に渡って機能してきたチーム。三笘はまったく違うカルチャーから来た選手だった。私たちは、チーム状況が厳しくなるまで待とうと決めた』

 次のオイペン戦で三笘は初めて先発するだろうか? 

 『三笘は確実に左サイドで進歩している。最近の練習試合で彼は85分間、そこでプレーした。スラン戦で彼はそこで活躍できることを示した。ウンダフ、ファンゼイル(の2トップ)との共存は可能だ』

 三笘の活躍はさらにいいニュースをもたらした。この試合を森保一日本代表監督が視察に訪れていたのだ。

 『この日の活躍によって三笘が日本代表に選ばれるといいですね』とマッズ監督。するとスランのコンドム監督がジョークを飛ばした。『三笘は代表に選ばれないといけない。さもなければ、私が森保監督に個人的に電話をかける』」

 公共放送『カンバス』のサッカートーク番組『エキストラ・タイム』では、以下のようなやりとりがあった。……

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ユニオン・サン・ジロワーズ三笘薫文化

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中田 徹

メキシコW杯のブラジル対フランスを超える試合を見たい、ボンボネーラの興奮を超える現場へ行きたい……。その気持ちが観戦、取材のモチベーション。どんな試合でも楽しそうにサッカーを見るオランダ人の姿に啓発され、中小クラブの取材にも力を注いでいる。

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