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FIFAの収入はUEFAの約4割に過ぎない。W杯隔年開催構想をめぐる思惑と攻防

2021.11.01

CALCIOおもてうらWEB版

ホットなニュースを題材に、イタリア在住ジャーナリストの片野道郎が複雑怪奇なカルチョの背景を読み解く本誌人気連載「CALCIOおもてうら」のWEB出張版。今回は、サッカー界を騒然とさせたW杯隔年開催構想をめぐって対立する賛成派と反対派の思惑と、両者が繰り広げる攻防に迫っていく。

 FIFAの「チーフ・オブ・グローバル・フットボール・デベロップメント」という肩書きを持つかのアーセン・ベンゲルが、9月3日付の仏『レキップ』に掲載されたインタビューでぶち上げた「W杯隔年開催案」。

 それから2カ月近くに渡って各方面で賛否両論が展開されてきたわけだが、実のところ当のステークホルダーの間でも、UEFAを筆頭に「賛」よりも「否」の意見の方がずっと強く、構想は勢いを得るどころか、逆に実現困難という見通しが日に日に強まる展開になった。

 当初は「90%以上の国々がこの案を支持している」と意気軒高で、12月21日にオンラインで行われる「グローバルサミット」で賛否を問う採決を行うと息巻いていたFIFAのジャンニ・インファンティーノ会長も、高まる反対論を受ける形で採決の断念を表明するところに追い込まれている。

 しかし、これですべてが立ち消えになったというわけではない。そもそもは去る5月にチューリッヒで行われた第71回FIFA総会でサウジアラビアサッカー協会によって「実現可能性の調査」が提案されたこの構想は、W杯という大会をめぐる単独のプロジェクトではないからだ。

第71回FIFA総会の様子

見直される「フットボールカレンダー」の延長線

 前提にあるのは、代表だけでなくクラブも含めた全世界におけるトーナメント開催日程の大枠を定める「フットボールカレンダー」(通称:正式名称はインターナショナルマッチカレンダー)全体の見直しという、FIFAが進めているより大きなプロジェクト。

 2024年がその節目となることから筆者は以前から「2024年問題」と言い習わしてきたのだが、W杯や各大陸選手権という代表のビッグトーナメントはもちろん、クラブW杯や欧州カップ戦などクラブレベルの国際大会、そして間接的には各国リーグまで、すべての日程的な枠組みを再検討し調整しようという、フットボールの未来を左右する重要極まりない案件である。

 カレンダーの大枠は、来年3月22日にカタールのドーハで行われる第72回FIFA総会で最終的に決定される予定。今はそれを見据えて水面下でさまざまなネゴシエーションが進んでおり、それぞれのステークホルダーがさまざまな観測気球を上げては各方面の反応をうかがっている状況だ。

2022年W杯開催地のカタールで、「フットボールカレンダー」をめぐる綱引きに決着がつく見込みだ

 FIFAのクラブW杯改革案(24チーム制。当初は今夏中国で開催予定だったがコロナ禍で来年カタール開催へ変更)、今年4月に発表されたUEFAのCLフォーマット大幅見直し(スイス方式)は、それに先手を打って自分たちの利権を確保しカレンダーに制約をはめようという動きだったと解釈できるだろう。

 今回のW杯隔年開催案も結局のところそれと同じ性格を持つ観測気球だったわけだが、関係各方面の反応はまったく芳しいものではなかった。とはいえ、言い出しっぺのFIFAはもちろん、UEFAをはじめとする各大陸連盟、欧州リーグ協会やFIFPro(世界プロサッカー選手協会連盟)、さらにはEUや各国政府、IOCなど関係各方面の立場や利害が改めてあぶり出されたという意味で、意義はあったと言える。

 ベンゲルが打ち出したW杯隔年開催案も、その議論の根幹はフットボールという大枠の中にW杯をどのように位置づけるかという点にあり、主張そのものは以下に見るようにそれなりに筋が通ったものだ。

 基本的なアプローチは、現時点におけるクラブコンペティションと代表コンペティションの比率(8:2)を維持することを前提に、両者の日程的な割り当て、そして各コンペティションの仕様を「モダナイズ」するというもの。

 議論の中心となった代表コンペティションに関しては、選手の長距離移動の頻度を下げ、代表チームが集中的に強化に取り組む期間を確保するという大義名分の下に、現在4つのウインドウ(9月-10月-11月-3月)に分割されている予選のための国際Aマッチウィークを2つ(10月と3月)または1つ(10月)に集約するというのが提案の大枠。

 それよって毎年6月に国際的な代表コンペティションを開催できる日程的な余裕を生み出し、同時に選手が7月に最低25日間のバカンスを取れるようにする。そうすれば、W杯と大陸選手権をそれぞれ隔年で(つまり毎年交互に)開催することだって可能になる――という筋道である。

収入の約72%がW杯開催年…FIFAの歪な収益構造

 W杯の隔年開催というアイディアそのものをどう受け止め評価するかは、立場によって大きく異なる。その判断基準となるのは、一つはスポーツとしてのサッカーの繁栄という視点であり、もう一つはビジネスとしてのサッカーをめぐる視点である。ベンゲルの議論は前者にフォーカスしたものだが、ことの本質はむしろ後者にある。……

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Profile

片野 道郎

1962年仙台市生まれ。95年から北イタリア・アレッサンドリア在住。ジャーナリスト・翻訳家として、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。主な著書に『チャンピオンズリーグ・クロニクル』、『それでも世界はサッカーとともに回り続ける』『モウリーニョの流儀』。共著に『モダンサッカーの教科書』などがある。