ゲオルグ・パングル(元欧州リーグ協会事務局長)インタビュー後編
4月18日、バルセロナ、レアル・マドリー、アトレティコ・マドリー、ユベントス、インテル、ミラン、マンチェスター・ユナイテッド、リバプール、マンチェスター・シティ、チェルシー、アーセナル、トッテナムという12のビッグクラブ合意の下、「欧州スーパーリーグ」創設が発表された。
しかしCLを主催するUEFA、さらにスペイン、イタリア、イングランドの各国リーグ協会を中心とした「残された側」が徹底抗戦。何より「創設クラブの降格がない」というクローズドな仕組みが、参加表明クラブを含むファン・サポーターから強烈な反発を受け、わずか2日でプレミアリーグのビッグ6が脱退を表明。アトレティコ・マドリー、インテル、ミランもこれに続き、事実上構想は潰えた。
『フットボリスタ第85号』では今回の騒動で生まれた5つの論点から、欧州サッカーの未来の在り方を考えているが、その番外編として元欧州リーグ協会事務局長、ゲオルグ・パングル氏のインタビューを特別公開!後編では内部の実情を知る当事者が、UEFA内部の意思決定プロセスと欧州サッカーの持続可能性を見つめ直す。
新たな格差を生み得るCL新フォーマット
「UEFA主催大会の意思決定権を握っているのは事実上ビッグクラブ」
――ESL発表の翌日にUEFAが公表したCL新フォーマットについても、ご見解をうかがえますか?
「24-25シーズンから導入が予定されているCL新フォーマットの大きな変更点は、約2倍となる試合数です。旧フォーマットでは年間125試合でしたが、100試合増の年間225試合が行われます。その分の放映権料による年間10億~20億ユーロの増収が見込まれていますが、問題は収入の分配先となる出場クラブ数です。新フォーマットのCL本戦出場クラブ数に目を向けると、旧フォーマットの32チームから36チームへと増加しており、以前より多くのクラブがCLの分配金を受け取れるように見えます。しかし、その内訳を見ると5枠を45にも上る中小国リーグ王者同士で争わなくてはいけない一方、ビッグクラブに新たに3枠が用意されているのです」
――CL予選から本戦に出場できるクラブ数を1つ増やす一方、 UEFAカントリーランキング5位の1部リーグ3位クラブと、出場を逃したチームの中からUEFA主催大会における過去成績上位2クラブに本戦出場権を与える方針ですからね。
「さらにUEFA主催大会全体では、一足先に21-22シーズンからCL、ELに次ぐ新たな欧州カップ戦、ECL(ヨーロッパカンファレンスリーグ)が導入されます。参考までに18-19シーズンから20-21シーズンまでの期間中は計81クラブがCL本戦出場、計158クラブがEL本戦出場を果たしていました。同条件でECLが実施されていたと仮定すると、UEFAカントリーランキング16位以下の中小国の1部リーグや国内カップから予選を勝ち抜いてEL本戦への切符をつかんでいた138クラブが不出場になります。彼らには今後EL予選出場権の代わりに、ECL予選出場権が割り当てられるからです。割合で言えば、本来EL本戦に出場していたクラブのうち87%がECLに回ることになる。CLも合わせた従来のUEFA主催大会出場クラブ全体で考えても、60%が追い出される計算です。つまり新形式や新大会というのは建前で、より増える分配金をより大きなリーグのより大きなクラブが手にする仕組みがすでに導入されつつあります」
――欧州リーグ協会はUEFAと交渉の場を持っているというお話もありましたが、CLフォーマット変更やECL新設を阻止することはできなかったのでしょうか?……
Profile
足立 真俊
1996年生まれ。米ウィスコンシン大学でコミュニケーション学を専攻。卒業後は外資系OTAで働く傍ら、『フットボリスタ』を中心としたサッカーメディアで執筆・翻訳・編集経験を積む。2019年5月より同誌編集部の一員に。プロフィール写真は本人。Twitter:@fantaglandista