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ファンがクラブ運営に参画する 「サポーターズトラスト」とは何か?

2021.09.29

今からでも知っておくべきESL構想の論点#4

当初発表された枠組みでの実現はなくなったが、残留したレアル・マドリー、バルセロナ、ユベントスの3クラブによる次なる一手の可能性が報じられるなどいまだに“絶滅”はしていない欧州スーパーリーグ(ESL)構想。それ自体の是非はともかく、この構想が持ち上がるに至った背景に欧州サッカー界が直面するビジネス的な課題があることは知っておくべきであろう。そのいくつかの論点にスポットライトを当てる。

論点の4つ目は「ファン」。ESLがとん挫した要因の一つは、イングランドから創設クラブとして名を連ねた「ビッグ6 」の早期離脱だ。瞬く間にファンによる抗議のうねりが全土へ広がりプレミアリーグのビッグクラブが次々と撤退へ追い込まれたサッカーの母国では、オーナーやクラブが二度と同じ過ちを繰り返さないよう様々な予防策の議論が進んでいる。そのうちの一つ「サポーターズトラスト」について、現地ファンと交流が深い田丸由美子氏に紹介してもらった。

※『フットボリスタ第85号』より掲載。

 イングランドのいわゆる「ビッグ6」が欧州スーパーリーグ(ESL )撤
退を表明してから2週間後の5月4日、チェルシーは7月1日から年に4回、サポーター代表3人を取締役会に出席させることを発表した。また同11日には、トッテナムがサポーター代表1人をクラブの取締役に任命すると公表。同20 日になると、リバプールがクラブの取締役会とは別にサポーター代表で構成されるサポーター取締役会を設置し、その代表が前者に出席できるようにすると表明した。プレミアリーグのビッグクラブがESL騒動を機に画期的な試みを始めたと世界中のメディアで報じられたが、イングランドの場合、ファンが取締役会に議席を得て運営に関与しているクラブは、チャンピオンシップ(英2部)以下のリーグでは決して珍しくない。

サポーターズトラスト誕生のきっかけ

 多くのクラブがファンをクラブ運営に参加させる契機となったのは、ノーサンプトン・タウンが2人のサポーターを取締役に任命した1992 年。当時イングランド4部でプレーしていた同クラブは、160万ポンド(当時のレートで約3億5千万円)の負債を抱え、破産寸前に追い込まれた。愛するクラブの消滅を阻止すべく一堂に会した600人のファンたちは、クラブを救うために知恵を出し合っていく。そのうちの1人、ブライアン・ローマックスはファンマガジンで当時をこう振り返る。

 「クラブの金融危機の深刻化と時間が進むにつれて、私たちを救ってくれる白馬の騎士は現れないことがわかりました。これを受けて何人かのファンが、何かできることはないかと集まって相談した時、クラブに投資するファン所有のトラスト(信託)を設立するというアイディアが浮上したんです。資金調達ができる組織を作る必要性は明らかでした。しかし私たちは投資の見返りを得つつ、ファンが集めた資金を管理できる団体であるべきだと考えたのです」

 せっかく多くのファンが身銭を切っても、再びクラブが財政危機に陥っては意味がない。そこで彼らが導き出したのが、ファンが協力し集めた資金でクラブの株式の一部を取得し、経営に自ら参入するという答えだった。こうしてノーサンプトン・タウンのファンはノーサンプトン・タウン・サポーターズトラスト( NTST) と呼ばれる組織を結成。創設者に任命されたローマックスは、NTSTを「産業共済組合法」という法律に基づいて法人登録し、会員たちが共同でクラブの株式を購入し保有できる非営利法人となった。NTSTは試合日にスタジアムで募金箱代わりのバケツを手にファンや地域の人から寄付を募り、メディアも巻き込んでクラブを救うキャンペーンを開始。こうしてノーサンプトン・タウンの株式の8% を購入し、ついにはクラブの取締役会で2議席を得るに至る。そのうちの一席についたローマックスは、英国で初めてのフットボールクラブの取締役に就任したファンとなった。

 NTSTの成功は、経営が立ち行かなくなっていた他のクラブのファンに希望の光を与え、各地でサポーターズトラスト(ST)設立の動きが活発化する。さらに2000年、相次ぐクラブ消滅に危機感を感じた英政府が「サポーターズ・ダイレクト」(SD)という組織を設立。ローマックスを最高責任者に任命し、ST結成を希望するファンに法人登録のための法的アドバイスと財政支援を開始した。こうして英国では、2017年までにおよそ200の法人格を持つSTが誕生。うち約40 がクラブの株式の一部または全部を保有するようになった。株式保有や取締役会での議席獲得に至らない場合でも英政府公認の組織として存在するSTは、他のサポーター団体とは異なりクラブと会談の場を持ってファンの意見を正式に伝えることができる。SDは、2018年にフットボールサポーター連合と合併し、2019 年にはフットボールサポーター協会(FSA)として生まれ変わった。

リバプールとSOSは共存の手本となるか

 STはプレミアリーグのクラブにも浸透し、株式を保有するサポーターも現れたが、2000年代から始まり2018年時点でも12クラブにまで及んでいた外国人オーナーの登場もあって運営参画には至らなかった。……

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イングランドサポーターズ・トラスト文化

Profile

田丸 由美子

ライター、フォトグラファー、大学講師、リバプール・サポーターズクラブ日本支部代表。年に2、3回のペースでヨーロッパを訪れ、リバプールの試合を中心に観戦するかたわら現地のファンを取材。イングランドのファンカルチャーやファンアクティビストたちの活動を紹介する記事を執筆中。ライフワークとして、ヨーロッパのフットボールスタジアムの写真を撮り続けている。スタジアムでウェディングフォトの撮影をしたことも。