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「ギラコイン」とは何か?ギラヴァンツ北九州がコロナ禍で目指す「地域との連携」

2021.08.27

福岡県ではアビスパ福岡に次ぐ、2つ目のJリーグ加盟クラブとして知られるギラヴァンツ北九州。北九州市の市花としても知られる『ひまわり』“Girasole”と『前進する』という意味の“Avanzare” を融合させた彼らは、大胆な施策で九州地区に新しい風を吹かせようとしている。今回はサッカーライターの結城康平氏が、ギラヴァンツ北九州の事業本部長である石田氏、ウイングアーク1st株式会社の浅田氏、canow株式会社の大坂氏の3人に話をうかがい、「ギラコイン」という斬新なプロジェクトの意図を探った。


――お忙しいところお時間をいただき、ありがとうございます。最初に、お二人の自己紹介をお願いしてもよろしいでしょうか。

石田「それでは、簡単に自己紹介させていただきます。J2のサッカークラブであるギラヴァンツ北九州に所属しております、石田と申します。現在クラブでは、事業本部の本部長を務めさせていただいております。昨年チームはJ2で5位という成績を収めることができましたが、今年は少し苦しんでいる状況です。我々の特徴としては、市民クラブというところです。北九州の様々な企業様に支えていただきながらも、市民クラブとしてのアイデンティティも大切にしていきたいと考えております。そんな中、地域通貨の導入ということで地域を一緒に盛り上げていきたいという思いで今回、プロジェクトを進めさせていただくことになりました」

浅田「ウイングアーク1stの浅田と申します。肩書きは社長室室長、グローバル事業、ビジネスアライアンスという3つの部署に関わっております。ウイングアーク1stという企業は、2004年に前身の企業から帳票ソフトウェアで独立した企業となり、帳票やデータ活用に強みを持っております。昨今話題になっておりますDX(デジタルトランスフォーメーション)というものがありますが、アナログからデジタルに切り替えるところでドキュメントをデジタルに管理することや、データをダッシュボードでの見える化を支援している企業となります。今年の3月に東証一部に上場しまして、今後はパブリックな企業として自分たちの利益を出すだけではなく、地域に貢献しながら関連する企業の皆様と成長していきたいと考えています。ギラヴァンツ北九州さんと北九州市とは今年から協業しており、スポーツテックの領域で練習場にカメラを設置し、パフォーマンスを評価するなどの取り組みを進めております。そして、今回はギラコインというトークンでの協業をスタートさせていただくことになりました」

大坂「canow株式会社のCOO、大坂と申します。我々はWEBサービスやアプリの開発をメインにする企業ですが、開発だけでなく『新しい技術をより早く世に出す』というところに重きを置いております。自社でオリジナルのブロックチェーンなども開発しており、複数のプロダクトを並行で扱っております」


――今回ギラヴァンツ北九州で、本プロジェクトをスタートさせるきっかけを教えていただけますでしょうか?

石田「ウイングアーク1st様が、トップパートナーとしてクラブに協賛いただいたことが1つのきっかけとなりました。先般、スポーツテックという分野でウイングアーク1st様、北九州市と3者連携の協定を結びましたが、今回はこれに次ぐ第二弾の取り組みとしてリリースに至りました」

大坂「ウイングアーク1st様の代表である田中さんと共通の知り合いがいたことが、弊社とウイングアーク1st様が協業するきっかけです。個人的にもともとサッカーが好きでして、クラブとのお仕事を是非やらせていただきたいなと知り合いに相談していたところ、田中さんが興味を持っていただきまして。その流れで開発のお話をいただいたようなイメージとなります」

浅田「弊社といたしましても社会貢献とCSRの一貫として、ギラヴァンツ北九州様とのトップパートナー契約を締結致しました。当然やるからにはクラブのお役に立ちたいと考える中で、『サッカーのプロではない弊社が、チームの強化に貢献する方法がないか』と考えておりました。その中で強くするということをもう少し細かく考えていくと、選手のメンタル・フィジカル両面のパフォーマンスを改善するというのが1つかと思います。また、別の側面では財政的な基盤を強化するということもあるかと考えています。ギラコインのような新しい仕組みを導入することで、チームに好循環をもたらしていくことを目指しています」


――私も含めて、サッカーファンもまだ「トークン」にピンときていないのが現状かと思います。今回のトークンについて、可能な限り簡単にご説明いただいてもよろしいでしょうか。

大坂「トークンやブロックチェーンというと横文字が多くなってしまうんですが、我々が考えている仕組みはシンプルなものです。クラブチームと居住者の方々、地元企業がより連携するシステムを考えた時、そこに最適なツールとしてトークンやブロックチェーンを使っています。簡単に言えば、ファンや居住者の皆様が地域通貨としてトークンを扱って、それで普段のお買い物をしていただきます。そこで発生する手数料などの一部が、地元のクラブチームに還元されていきます。チームが盛り上がれば、近隣の店舗への集客にも役立っていくと思います。そうなれば、ブロックチェーンの特性としてデータが記録されていき、地域とファンの繋がりが今まで以上に可視化されていきます。最終的にはそれをデータとして分析することで、マーケティングにも活かしていけるかなと。海外ではトークンの価値自体が上下動することもありますが、ギラコインでは『情報の伝達というコミュニケーションを重視している』こともあり、変動制にはしておりません」


――クラブのミッションとして、地域への貢献というのは大きいと考えております。その一方、海外のクラブではトークンを発行することで「グローバルなファンの獲得」という目標を掲げているケースもあると思います。それに比べると今回のプロジェクトはもう少し、「ローカルなサポーター」との連携を目指すものだと認識してよろしいでしょうか?

石田「ご認識の通りです。メインとしては、ホームタウンの北九州市とフレンドリータウン(17市町)のサポーターを中心に考えております。もちろん北九州市は地理的に東アジアに近いこともあり、多くのパートナー企業様も海外に展開されています。そういう意味では、グローバルな展開も視野に入れたいというのは長期的な目標ですが。観光という目線では、多くのアウェイサポーターの皆様も北九州に訪れることになります。そこで試合を楽しんでもらうことに加えて、地元で飲食・観光などで消費いただくこともあると思います。その際にお客様にとって、1つのツールとしてギラコインを使っていただきたいと考えております。また、他の地域でも同じような地域通貨が広がっていけば連携も増えていくかなと期待しています」


――「ギラコインを使ってみたい」という時は、具体的にどのようなプロセスになるのでしょうか?

大坂「サービスにログインしていただき、クレジットカードからチャージしてもらうイメージになります。導入されている店舗やスタジアムにはQRコードがあり、それを読み込めば決済可能になるシステムです。他にはお得なクーポンを発行していくので、それを事前に購入して使用してもらうことも可能です。最初は実店舗さんで使うことから、スタートしていく予定です。主に、飲食店さんが多いですね」

石田「他にも連携していただく店舗様を増やしたいと考えておりますが、現在約470の店舗様がサポートショップとしてクラブをサポートしてくれています。そういったお店にはPOPを飾っていただいたり、観戦チケットを持っていくと割引をしてくれたり、ユニフォームを着ていくと一品ついてきます、というようないろいろなサービスを展開していただいております。今回のプロジェクトでも、まずは20程度のサポートショップが賛同していただきまして、試験的にスタートする予定です。スタジアムグルメと呼ばれるようなお店もスタジアム内に入っておりまして、サービスのローンチタイミングではスタジアム内でもギラコインを使えるようになる予定です」


――スタジアム内の飲食店は、ファンのエンゲージメントが最も高まる場所だと思いますし、いろいろと貴重なデータが集まりそうですね。

石田「その通りです。収益源の確保に加え、ファンと関わる機会が増えることをポジティブに感じています」


――お得なクーポンが発行されると、アウェイのサポーターとしても魅力的ですよね。

大坂「アウェイから観戦に来るタイミングでチームの名前を冠した地域通貨を使ってもらうことがホーム&アウェイの両方で発生するようになると、地域間でお互いのサポーターが消費し合うようなコミュニケーションが発生するんじゃないかと考えています。これがヨーロッパだと難しいのかもしれないですが、日本だとお互いのサポーターが良好な関係を築いていくようなケースも多々あるのかなと」


――海外ではトークンの売買が発生しており、その結果として多くのトークンを保有することでクラブの経営判断に関与することが可能になっています。ただ、ヨーロッパでは「株式の代替品」として仮想通貨が使われている現状を疑問視するサポーターも増えています。そういった施策は、日本でも見据えていくのでしょうか?

大坂「日本だと法的な規制もあり、トークンを価格変動させることは考えておりません。ただ、ファンの皆様に喜んでもらえる企画・仕掛けはアイディアを出していきたいなと思っています。例えば『チームが連勝を重ねると、ディスカウント率が向上する』ようなクーポンというのは今までありそうでなかったアプローチかと」


――ファントークンという取り組み自体は、他のクラブでも存在しているとは思うのですが、「ギラコインだけの特異性」というものはございますか?

大坂「世界中を見渡してみても、ブロックチェーンで発行したトークンを地域通貨として流通させるという仕組みは珍しいと思っています。まずは地域通貨を使ってもらって、新しい体験を創出していきたいなと。他には地域を巻き込んで、多くの店舗で連携したキャンペーンなども進めていきたいですね」


――かなり店舗・クラブの両方にとって、自由度の高いツールになるのでしょうか?

大坂「どんどんとニーズがあるところをトークンに反映させていくことを目指しており、実際の声を開発チームにシェアしていくことを考えています」

石田「技術的なところには疎いんですが、出口の自由度が高いという認識をしています。クラブとしても、今まで実現できなかったことを成し遂げるツールとして期待しています」


――ギラヴァンツ北九州自体、新しい技術や施策を柔軟に取り入れられているイメージがあります。そこは北九州の地域性もあるのでしょうか?

石田「北九州は炭鉱の町だった時代から、様々な役割を果たしてきました。今はSDGs未来都市に選ばれており、洋上風力発電のような環境に優しい産業も盛んになってきています。そういうイノベーションへの姿勢というところは、土地柄としてもあるのかもしれません。公害にも悩まされた町なんですが、それを工夫して克服してきたこともクラブのDNAに刻まれているのではないかと思っています」


――コロナ禍が続いており、サッカー業界への打撃も大きいと思います。そこで地域通貨が示す役割について、教えていただけますでしょうか?

大坂「私自身サッカーがとても好きなので、コロナ禍で開発を進めていく時には『試合がなくなってしまう状況で、どうやってチーム自体の魅力をファンの方々に知ってしまえるのか』『チケット収入を失ってしまった時に、どのようにチームを存続させていくのか』というのを勝手に自分で考えておりました。そういった意味では、『地域がクラブを支え、クラブが地域を支えていく』ということを目指していくのがベストなのかなと」

石田「我々は市民クラブということで、市民の皆様に支えていただいているクラブです。サポートショップの方々は飲食業が多く、コロナ禍ではダメージの大きい業種の1つだと思っています。そんな状況でもクラブを支えてくれている皆様を微力でもサポートしたいということもあり、地域通貨というものは重要な取り組みになると考えております」


――「世界で初めて実店舗での使用に至った」要因としては、やはりギラヴァンツ北九州とサポートショップに、強固な関係性があったということもあるのでしょうか?

大坂「その通りだと思います。今後プロダクトの発展・開発を目指していく中で、弊社も積極的に店舗に足を運ぶことでフィードバックを集めていきたいと思っています」


――最後に、皆様から読者の方々へのメッセージがあれば是非ともお願いいたします。

大坂「今はコロナ禍ということもありますが、これが落ち着いてくればGo to Eat, Go to Travelのような施策に加え、海外の観光客も戻ってくると思っています。そうなった時に地域とクラブが一体となり、『消費行動のおもてなし』を実現していくのが理想だと思っています。賑わいが戻る前に、その準備をしっかりと進めていきたいです」

浅田「ギラコインを使う人々が増えることで、週末しか試合がなくてもチームと関われるというようなところには期待していきたいと考えております。また弊社はIT企業として協業相手が多いこともあり、そういった皆様の力を借りながらクラブに貢献していきたいところです。やはり最も得意とするところは集約したデータの分析になりますので、そこで加盟店さんや街、クラブをサポートしていきたいです」

石田「サッカークラブの持つ、大きな役割としてハブ機能があると思っています。人と人だけでなく、人と企業、企業と企業が繋がる場を提供するクラブであることが理想だなと。これまでは試合を観戦していただくことがメインでしたが、今後はファン同士や、ファンとクラブがより深く繋がるツールとしてギラコインに期待したいと考えています。そのような施策を進めていく中で、今後ファンの方々からもクラブにいろいろとやってみたいことなどがあれば是非我々に投げかけていただければ嬉しいです」


Photo: Giravanz Kitakyushu, ©2009 GVK

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ギラヴァンツ北九州ファントークン文化経営

Profile

結城 康平

1990年生まれ、宮崎県出身。ライターとして複数の媒体に記事を寄稿しつつ、サッカー観戦を面白くするためのアイディアを練りながら日々を過ごしている。好きなバンドは、エジンバラ出身のBlue Rose Code。

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