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RマドリーVSモウリーニョ「三年戦争」モウ最大の敵は彼自身だった

2014.02.28

モウリーニョ VS レアル・マドリー「三年戦争」著者インタビュー:前編

モウリーニョのレアル・マドリー監督時代の内幕を選手らの証言で明かし、スペインで大きな議論を呼んだ問題作『モウリーニョ VS レアル・マドリー「三年戦争」』が日本上陸。筆者は高級紙『エル・パイス』のRマドリー担当として、モウリーニョ時代に数々のスクープをものにしたディエゴ・トーレス。

メディアに対するクラブの影響力が強いスペインで、報道の自由を守る『エル・パイス』に所属する彼だからこそ書けた貴重な証言集。その発売を記念して、日本語版の訳者である『footballista』編集長の木村浩嗣が、ディエゴ・トーレス本人へのインタビューを敢行。筆者の口から語られた誕生秘話を3回に分けてお届けします。前編と中編は、WEBだけの限定公開!

前編では、本書執筆の動機や、執筆には不可欠だった秘密情報入手のプロセス、さらには「本には書けなかった」と言う衝撃の事実が明らかに。

――この本ではモウリーニョを監督としてだけ取り扱っているわけではなく、ビジネス論やリーダー論、シャーマンや宗教などにも言及していますよね。

 「レアル・マドリーがサッカーのことをあまり信じていない人間たちによって率いられていることを説明したかった。彼らは異端者であり、ある意味、斬新なやり方でクラブを運営している。彼らの決まり文句は『サッカークラブは今まで元選手の“フットボレーロ”(=教養のないサッカー人)で運営されてきた』だった。フロレンティーノ・ペレス会長はその状態にNOと言った。そして『今からはそれらサッカー人のことは忘れ、企業を率いる伝統的なやり方で運営したい』と言った。モウリーニョとの契約はそうしたアイディアから出てきたものだ。モウリーニョは元選手のサッカー人ではなく、サイエンティストであり人材管理者でありエンジニアだった。サッカービジネスはサッカー人に任せるには重要過ぎる、と考えたのだ。フロレンティーノは一般的な監督は嫌いだが、モウリーニョは好きだった。彼のことを単なる監督ではなく、技術官僚だと見ていた。ちょうどフロレンティーノが本業の建設会社ACSで相手にしているエンジニアのように。しかもモウリーニョのやり方は彼好みの権威的なやり方だった。一方、モウリーニョもサッカーのことを話すのにしばしば『サッカー産業』という言い方をした。彼にとっても単なるスポーツとか娯楽以上のものだった」

――なぜこの本を書こうと思ったのですか?

 「出版社に持ちかけられた。だが、最初は迷っていた。書く材料はあったが、モウリーニョ在任中に出すのは良いアイディアだとは思わなかった。彼の時代が終わりじっくり分析できるようにするには、過去のエピソードを集めた物語にするしかなかった。『モウリーニョがRマドリーを出て行ったら出版する』という条件だった」

――残留していたら出版していなかった?

 「出て行くまで待つつもりだった。彼の姿を追ううちに『成功者の挫折』というテーマが浮かんできていた。世界のサッカーで成功の象徴とも言える男、常に勝利し間違いないと思われた男が敗れ、失敗し、期待を裏切った。その原因を解明することが、この本の使命だと考えた。それに成功と失敗の分かれ目にはその人物の人生観や社会観まで反映されるものだからね」

――もし昨季CLで優勝していたら、成功物語になっていたのでしょうか?

 「違うストーリーになっていただろう。ただ、構成は変わったかもしれないが、自己崩壊のプロセスを追う、同じく興味深い本になったと思う。Rマドリーでの末期、モウリーニョの最大の敵はモウリーニョだった。モウリーニョは、人格が暴走する格好で半ば意識的に自分自身と自分のチームを破壊した。そもそも彼はすべてを管理下に置きたい人間だが、自分をコントロールし切れないところがあった。チームや選手のコントロールを失ったことに暴力的に反応し、自身のプロジェクトを破壊した。CLで優勝していたら彼にはRマドリーを堂々と出て行く道もあったが、残留の道を選んでいたらその優勝チームを解体していたのは間違いない。一度リセットして新たなスタートを切るために。フロレンティーノもクラブを設立し直すためのチャンスだと考えていたはずだ。それはチームの半数を入れ替えるほどの大規模なものになっていただろう。カシージャス、セルヒオ・ラモス、アルビオル、エジル、イグアイン、カカーの放出は決定事項だった。もっとも、モウリーニョ自身は、選手との関係が悪過ぎたから、欧州制覇は不可能だと悟っていたのだが……」

――内部情報や証言がなければこの本は成立しなかったわけですが、情報はどういう形であなたに届くのですか?

 「電話かSMSかメール。何も特別なことはないよ」

――その秘密情報の真偽はどうやって判断したのですか?

 「複数の情報源に当たったし、現実が証明してくれたこともあった。月日が流れてみると、以前聞いたことがその通り現実になる。それで証言の正しさがわかる」

――ということは、もらった情報をその場で流さず様子見していることもあったのですね。

 「特にこの本ではそうだ。取材ノートを見返すと、例えば2010年に『モウリーニョは~するつもりだ』と言われたことが、2012年には確かにその通りになっている。それであの秘密情報が事実だったことがわかる。だからこそ、今回のようにモウリーニョのRマドリー時代についての本を執筆する場合には、月日が経ち一つの物語が終わっている必要があった。継続中では無理なのだ。実際、執筆時には事実かどうかわからず書けなかったことが、今なら書ける」

――例えば……。

「例えばカシージャスが今でも第2GKなのはフロレンティーノの意向だということだ。彼はずっとカシージャスが気に入らなかった。南アフリカW杯でトロフィーを掲げようが何をしようが」

――どうしてですか?

「人間の心理とは複雑なものだ。部下でも友人でもなく、フロレンティーノ自身が契約を結んだ選手でもない。そりが合わず、親近感もない。カシージャスの方が自分よりもカリスマがあり人を惹きつける。嫉妬も見栄もある。フロレンティーノの願いはRマドリーで最も重要な人物になることだから、他の人間の影に隠れるのは耐えられないのだ」

――本にはそこまで書けなかった……。

「言い切る自信がなかった。チーム内でモウリーニョと最も対立した選手はカシージャスだった。カシージャスが立ち向かったというよりも、フロレンティーノの意を汲んだモウリーニョの方から仕掛けたのだ。モウリーニョには『反逆者』というイメージがある。それが、彼のエロティックで謎めいた魅力作りに一役買っている。人は彼を愛し、女性は彼を欲し、若者は彼に憧れる。ウルトラスがそうだったように。まさにエロティックな関係だ。その反逆者のイメージはモウリーニョ自身が作り出したもので、その反権力像の裏側には権力側と取引をするもう一人のモウリーニョがいる。サッカー界を牛耳る権力と同盟関係を結ぶモウリーニョだ。彼の成功の秘密は、その内と外の二重性にもあると思う」

<中編に続く>

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Photo: MutsuKAWAMORI/MutsuFOTOGRAFIA

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ジョゼ・モウリーニョリーガエスパニョーラレアル・マドリー

Profile

木村 浩嗣

編集者を経て94年にスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟の監督ライセンスを取得し少年チームを指導。06年の創刊時から務めた『footballista』編集長を15年7月に辞し、フリーに。17年にユース指導を休止する一方、映画関連の執筆に進出。グアルディオラ、イエロ、リージョ、パコ・へメス、ブトラゲーニョ、メンディリバル、セティエン、アベラルド、マルセリーノ、モンチ、エウセビオら一家言ある人へインタビュー経験多数。