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ラングニックが試みるSD機能アウトソーシングは、 欧州サッカー界に何をもたらす?

2021.08.15

CALCIOおもてうらWEB版

ホットなニュースを題材に、イタリア在住ジャーナリストの片野道郎が複雑怪奇なカルチョの背景を読み解く本誌人気連載「CALCIOおもてうら」のWEB出張版。 今回は、ラルフ・ラングニックが推し進める「コンサルティング会社」の可能性と、それがクラブにもたらす副反応について考えてみたい。

 本サイトに7月19日にアップされたcologne_noteさんの記事「なぜミランとの交渉が決裂した?コンサルティング会社設立のラングニックが抱えた葛藤」に触発されて、『フットボリスタ第86号』の連載コラムに「ラングニックが「コンサル会社」を設立した意味。SD機能アウトソーシングの時代が来る?」という記事を書いた――のだけれど、そこで掘り下げ切れなかった視点があるので、こちらで改めて取り上げることにしたい。

トレーネージャーvsクラブ・アイデンティティ

 話の発端は、10年を費やしてレッドブル・グループを実質ゼロからCLに2クラブを送り込む一大グループにまで成長させたラルフ・ラングニックが、次なる活躍の場を5大リーグのビッグクラブに見出すことができず、監督・SD業を引退してコンサル会社を立ち上げたというニュース。

 自らを「トレーネージャー」(トレーナー+マネジャー)と規定するラングニックの手法は、サッカー哲学、プレーコンセプト/スタイルというクラブのアイデンティティを規定し経営の根幹に関わる部分に自らの理念を注入し、それを基盤としてチームを編成し選手を育成する体制を総合的に整備するというもの。

 しかし、彼が売り物にするメソッド、そしてその土台となるサッカー哲学やプレーコンセプト/スタイルは、それが革新的なものであるがゆえに、長い歴史の中ですでに確立されてしまっているビッグクラブのアイデンティティやカルチャーに抵触しないわけにはいかない。ミランとの話がまとまらなかったのも、他の名門クラブから引き合いがなかったのも、おそらくそれが最大の理由だったはずだ。

 「トレーネージャー」として1つのクラブに長期的に関わる道を断念し、コンサルティング会社を設立したのは、長年かけて積み上げてきたリソースとノウハウをシステム化、パッケージ化して複数の顧客に提供するという、これまでにない新しいアプローチを選んだことを意味する。そうなると個人営業では限界があるので企業化したというのは、当然の道筋だろう。

 このコンサル会社が顧客となるクラブに提供するのは、「スポーツ部門と育成部門の責任者」として「クラブの構造や戦略に対する提案」を行い「スポーツディレクター=SDの機能を担う」というもの。ラングニックは、クラブが成功するためには3つのC(Concept=コンセプト、Competence=能力、Capital=資本)が必要だとしており、そのうち前者の2つを提供するとされる。

RBグループ時代にはRBライプツィヒ指揮官として、再び指導現場にも立っていたラングニック。監督としてもSDとしても実績十分のトレーネージャーが、今後貴重なノウハウを他クラブに注入していく

 これを顧客であるクラブの側から見ると「SD機能のアウトソーシング」ということになる。そう言えば聞こえはいいが、結局のところチームの強化と育成という、クラブのアイデンティティの根幹となる部分を外注先に丸投げするに等しいわけで、そこには可能性と同時に様々なリスクもあるはずだ。

「RBクローン」か?新しいスタイル構築か?

 ――というのが連載コラムに寄せた記事の概要である。それでは、その可能性とリスクは具体的にどのようなものなのか。……

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ラルフ・ラングニック移籍経営

Profile

片野 道郎

1962年仙台市生まれ。95年から北イタリア・アレッサンドリア在住。ジャーナリスト・翻訳家として、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。主な著書に『チャンピオンズリーグ・クロニクル』、『それでも世界はサッカーとともに回り続ける』『モウリーニョの流儀』。共著に『モダンサッカーの教科書』などがある。