SPECIAL

橋岡大樹が語るDFとしての欧州挑戦。ベルギーで感じる「間合い」の差

2021.09.29

橋岡大樹(シント=トロイデンVV/日本代表)インタビュー

シント=トロイデンVVで2季目を迎えている日本代表DF橋岡大樹。初年度の2020-21シーズンは、冬の加入直後から6試合に出場すると3アシストを記録してチームの残留に貢献。右ウイングバックや右サイドバックとして攻撃面で存在感を発揮した一方、22歳の若武者は初挑戦のベルギーリーグで「守備の違い」を感じ取ったという。新鮮な感覚を言語化してもらうべく昨季終了直後(取材日:5月21日)に敢行したインタビュー全文を、守備戦術を大特集した『フットボリスタ第85号』より掲載する。

「寄せ方」にみる日本とベルギーの違い

「ボールが動いている間にどれくらい寄せられるか」

──今号では守備戦術特集ということで、迫力ある攻撃参加に注目されがちな橋岡選手ですが、守備について詳しくお話をうかがいたいです。まず今冬から挑戦されているベルギーリーグで、(20-21シーズンは)右ウイングバック(WB)や右サイドバック(SB)として6試合に出場されましたよね。そこで守備を行ってみて、昨年までプレーされていたJリーグと違いを感じることはありましたか?

 「僕は欧州に来るまで対人守備を武器にしていたんですけど、初めてベルギーリーグで先発出場したシャルルロワ戦で、ベルギー代表にも選ばれている左SB の(ヨリス・)カイエンベ選手と対峙した時に衝撃を受けたんです。自分が『ボールを取れる!』と思ったタイミングで足を出しても全然奪えなくて」

──試合前に相手選手のプレー映像を確認したりはしていないのでしょうか?

 「もちろん次の試合で対峙する相手選手のプレーはいつも見ていて、どういうタイプか、右利きなのか左利きなのかを確認して、対応方法を研究しています。カイエンベ選手は左利きだとわかっていたので、少しだけ彼の左を切って中に行かせてボールをさらしたところを狙っていたんですけど、あっさりかわされてしまって。そういう選手がベルギーリーグにはたくさんいるので、一人ひとりの個の能力がものすごく高い、1対1が強いというのが僕の率直な感想です」

「衝撃を受けた」というカイエンベとマッチアップする橋岡選手。今後も個々の能力が高いベルギーリーグのサイドプレーヤーを相手に経験を重ね、DFとしての成長に繋げられるか

──その試合後には「最初は少し間合いをうかがっていて、自分の間合いに持っていこうとしたんですけど、抜かれるシーンもあったので。後半からは徐々に自分が取るべき間合いもわかってきて、少しずつ慣れてきてはいました」とお話されていましたね。

  「そうですね。やっぱり間合い、特に相手選手がボールを受けるまでの寄せ方を変えなければいけないなと。日本ではある程度の距離まで寄せていればよかったんですけど、ベルギーだともっと距離を詰めないとドリブルでやられてしまいます。だから、相手のセンターバック(CB)やボランチから斜めのボールがサイドハーフ、ウイングに入る時は速めの予測をする必要がある。もちろんまずはパスカットを狙うんですけど、ボールが通るとしてもなるべく相手にいい状態で持たれないように意識しています。ボールが動いている間にどれくらい寄せられるかで、その後の守備がかなり変わってくるので。そこで背中を向かせられなければパスだけではなくドリブルもされてしまいますし、寄せが一歩でも甘ければクロス、さらにはシュートまで許してしまう。そういうプレーの選択肢をできるだけ奪っていくのが重要です。そこはまだまだベルギーで学んでいかないといけないところだと感じています」

──もっと相手選手の近くに寄せる必要があると。ただ、そうすると背後のスペースが空くことになります。

 「だから、より周りの選手の位置関係を正確に把握しなければいけないです。後ろの選手や横の選手がどういう立ち位置にいるか、自分が出ていっても速くスライドしてくれるか。そこで『こっちに来てくれ!』とCB のチームメイトに声をかけて出ていったのはいいんですけど、スライドできなくて1人で2人を守らなければならなくなってしまった時も何回かあって、逆にボールを持った相手選手に寄せられなくなってしまったこともありましたね。後ろを気にし過ぎて遅れても結局は失点に繋がってしまうので、特にコミュニケーションはすごく大事。DF としてはものすごくいい訓練になっています」

対人守備では「相手の胸を見る」

「足の動きについていくと逆を取られてしまう」


──そのようにうまく寄せられなくて相手がドリブルを仕掛けてきた時、橋岡選手は頭の中でどんなことを考えているのでしょうか?

 「そういう対人守備で意識しているのは、相手の胸を見ることですね。足下を見ているとフェイントに引っかかってしまう。本当にうまい選手はステップ1つでもフェイクを入れてくるので、足の動きについていくと引っかかって逆を取られてしまいます。でも胸は足のように自由には動かせないので、それを見ながらついていけばいいという考え方です」


──胸を見るというのはあまり聞いたことがないですね。ほとんどの選手が足下かボールを中心に見ているイメージです。

 「でもボールだけが前に行っても相手選手は何もできないんですよ。ボールはいろんな方向に動くかもしれませんけど、胸は進む方向にしか動かない。だからそこに注意を向けて相手選手より先に体を入れるようにすれば、より簡単に守備ができるなと。もちろんゴール前でシュートを撃たれそうになった時はボールを見ますけど、基本的に対人守備では胸を見ています」


──それは誰かから教わったのでしょうか?

 「いや、誰に教わるわけでもなく自分で胸を見るようになりましたね。中学3年生の時からなんですけど、当時から身長が170cmくらいあったんですね。五分五分でスタートできれば必ず競り勝てる体だったので、自然と相手の後手に回らないような見方を身につけたんだと思います。今でも身体能力には自信があるので、それはベルギーでも変わっていないですね」


── お話を周囲との連係に戻すと、2020-21シーズンのシント=トロイデンVVは5バックと4バックを使い分けていました。DFラインの枚数によって、スライドの仕方も変わってきたりするのでしょうか?

 「1人が前に出たら後ろの選手がついていくという基本は変わらないんですけど、5バックよりも4 バックの方が意思統一が難しい。やっぱり1枚少ない分スライドが遅れてしまうことが多くて、そこをよく狙われて失点が増えてしまいましたね。でも、そもそもチームであまり4バックの守備戦術を練習する時間がなかったので、純粋に慣れていなかっただけかもしれません。僕が試合に出るようになってから4バックで入った試合は2試合しかなかったので」

20-21シーズンの橋岡選手。少年時代に身につけたコツ「相手の胸を見ること」は、ベルギーに渡った現在も対人守備で生かされている


──シント=トロイデンVVの基本陣形[5-3-2]だと、橋岡選手が務める右WBではウイングあるいはサイドハーフとSBを同時に相手にするような1対2の状況も生まれやすいですが、そういう時はどのように対応しているのでしょうか?

 「そうなった時は中盤の3枚のうち、1人の選手にサイドまで下がってきてもらいます。相手のウイングやサイドハーフに寄せてもらって、僕がSBの選手をみるのが基本です。そういう指示を出すために、カタコトの英語やジェスチャーで前の選手に積極的に話しかけたりしていました。でも配置が整っていないと来てくれない時もあるので、瞬間的に1対2になってしまうような状況でも守れないといけないなと。まずはゴールを守らないといけないので、最初にボールを持っている足を切ってシュートを撃たせないようにしたりしていました。そういう数的不利での対応の仕方はまだまだ身につけていかないといけないですね」


──周囲との連携が必要な守備ではコミュニケーションが重要であることがお話から伝わってきますが、渡欧前から英語の勉強をされていたんですよね?
……

残り:3,022文字/全文:6,342文字 この記事の続きは
footballista MEMBERSHIP
に会員登録すると
お読みいただけます

TAG

橋岡大樹

Profile

足立 真俊

1996年生まれ。米ウィスコンシン大学でコミュニケーション学を専攻。卒業後は外資系OTAで働く傍ら、『フットボリスタ』を中心としたサッカーメディアで執筆・翻訳・編集経験を積む。2019年5月より同誌編集部の一員に。プロフィール写真は本人。Twitter:@fantaglandista

RANKING