月刊フットボリスタ3月号(2月12日発売)では、「ユニット論で読み解くCLラウンド16新感覚プレビュー」と題して、新たな視点で欧州の頂上決戦を展望している。その一端を知ってもらうために、イタリアの名門ミランに籍を置く戦術分析の専門家アルド・ドルチェッティのアトレティコ・マドリー分析をWEBだけで特別公開! グループステージを楽々と首位突破、リーガでもバルセロナ、レアル・マドリーと肩を並べ3強を形成する「欧州のダークホース」の強さの秘密とは……?
アトレティコ・マドリーはディエゴ・シメオネそのものだ。私は20年ちょっと前にセリエAのピサで彼と一緒にプレーしたことがあるが、当時も今も彼のサッカー観はまったく変わらない。アトレティコは、シメオネ本人が明言している通り、ボールポゼッションにはまったく執着していない。ボールを持ったら、いかに最短距離でゴールまで運ぶか、というその一点だけが関心事だ。
最終ラインではほとんどボールを回さず、中盤も飛ばして一気に前線にボールを送り込む。パスの総数ではCLベスト16の中で最下位に近いにもかかわらず、ロングパスの本数だけは1位というデータ(以下のデータは、すべてCLベスト16進出クラブ内での比較)が、その徹底してダイレクトプレー志向のスタイルを象徴的に物語っている。
データで興味深いのは、ピッチを左、中央、右と縦に三分割すると、中央でのプレーボリュームが少なく、両サイドでのボールタッチが多いこと。これはSBからウイングを経由して、あるいは直接前線にボールを送り込むという展開が基本になっているからだ。他の多くのチームでは攻撃を組み立てる司令塔の役割を担っているボランチ(ガビ&ティアゴ)は、アトレティコでは最終ラインをプロテクトし攻守のバランスを取る日陰の仕事に専念している。
もう一つ興味深いのは、中盤から後ろはプレーの量・質ともに貧弱であるにもかかわらず、アタッキングゾーンでは質の高いプレーを展開していることだ。有効パスの本数もやはり最下位に近いのだが、これをアタッキングゾーンに限るとアーセナルと上回りマンチェスター・シティとほぼ変わらないところまで順位が上がってくる。作り出した決定機の数は、バイエルン、マンチェスターCに次いで多い3位。攻撃の最終局面におけるクオリティは高いのだ。そしてセットプレーからの得点も多い。
さらにこのチームを象徴するのが、アタッキングゾーンでのボール奪取数で1位というデータ。バイエルンやバルセロナと比較しても、より効果的なハイプレスを備えているということだ。さらにインターセプトとコンタクトによるボール奪取でも、それぞれトップクラスの数字を叩き出している。しかも失点はグループステージ6試合でわずかに3(これも1位)である。派手さはないが、一本筋が通ったプレースタイルを持ち、しかも恐ろしく効率的で抜け目のないサッカーを見せる。イタリアサッカーとアルゼンチンサッカーのいいとこ取りをしたようなチームだ。
【アトレティコの注目ユニット】
2トップを生かすサイドの「縦ペア」
攻撃:アルダ/ファンフラン or コケ/フィリペ・ルイス
守備の鍵は横方向のコンパクトネス
守備:ボールに絡まないFW/逆サイドのMF/逆サイドのSB
その攻撃の鍵を握るユニットは、フィニッシュを担う前線の2トップ、そしてそこにボールを供給するサイドの「縦のペア」すなわちSBとサイドMFの計4人だ。攻撃がどちらのサイドで展開するかによって、ユニットを構成する縦のペアは変わってくるが、SBを起点にしてサイドMFまたはCFにボールを展開し、そこから一気にフィニッシュを狙うという一連の流れはまったく変わらない。一つのアクションでパス5本以上、時間にして6、7秒以上かかることは極めて稀だ。
一方、守備に関して言えば、これだけ縦に速いダイレクトな展開で人数をかけずに攻めているにもかかわらず、前線でのボール奪取が非常に多い、すなわちハイプレスが効果的に機能しているところが、このチームの最大の特徴であり強さの秘密でもある。それを可能にしているのが、横方向のコンパクトネスだ。ボールロストが生じればアグレッシブに前に出てプレッシングを敢行する。それが効果的に機能するのは、逆サイドのMFとSBもボールサイドに絞ることで、横方向の間隔を小さくしてスペースを消しているから。この狭さ、コンパクトネスを生かしたインターセプトや高い位置でのボール奪取を可能にするのが、ボールに絡まないFW、逆サイドのMFとSBという縦のユニットだ(下図参照)。
Translation: Michio Katano
Photo: Getty Images