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「得点力不足」改善の鍵はライン間にあり。研究が明らかにするJリーグの課題

2021.01.27

「得点力不足」「スピード感の欠如」といった日本サッカーの枕詞とも言える言説の検証ができないか。そこで着目したのは、相手守備組織内に侵入した時のプレーだった――プレーヤーとしての経験を基にサッカーのゲーム分析について研究を行っている筑波大学体育系博士特別研究員の鈴木健介氏に、博士論文「相手ディフェンダーとミッドフィルダーとの間を利用した攻撃に関する研究」を執筆するに至った経緯や今後の展望について紹介してもらう。

志のない大学院入学

 この記事をご覧の方で、学術論文を定期的に読んでいる方はどのくらいいるのだろうか。そういった人は、ほんの一握りなのではないかと思う。私は大学院に進まなければ、論文を読んだり書いたりすることはなかったと断言できる。実際、プロ選手を目指してサッカーに打ち込んでいた24歳までは、卒論作成時のわずかな期間を除けば論文を読んだ記憶はない。

 そんな私が、地域リーグに所属するチームへの入団が決まっていたにもかかわらず、大学卒業前に大学院の入学試験を受けたのは、プロ選手になれなかった時にいきなり社会に放り出されないようにするための保険のようなものだった。結局プロ選手にはなれず休学していた大学院に復学したが、志の高い、明確な目標と希望を持って大学院に入学する優秀な学生と違い、サッカーのプレーの代わりとなってくれるものを探す、逃げるような復学だった。

 復学後も未練がましくアマチュアサッカーを続けていたこともあり、修士課程ではアマチュアサッカー選手の職務満足感とサッカーに対するモチベーションの関連性について研究を行った。働きながらサッカーをするアマチュア選手は、職務満足感が低いとサッカーのモチベーションが下がるのではないかと仮説を立てたが、そのような関連性を証明することはできず、不完全燃焼で修士課程を終えた。もっと勉強して深掘りすれば仮説を証明できるのではないかと思い、博士課程への進学を決めた。

急転、博士課程ではゲーム分析の道へ

 修士課程ではアンケート調査を行ったが、博士課程ではインタビュー調査を行おうと研究計画を練っていたため、入学後すぐに質的研究が専門である先生を訪ねた。経緯と計画を説明すると先生は、「やるのであれば応援はする」という前置きとともに2点指摘をされた。

 1点目、インタビューのような、言葉をデータとして扱う質的研究は時間がかかる傾向にある。数値を扱う量的研究で博士号を取ってから行う、でも良いのではないか。

 2点目、なぜアマチュアサッカー選手が対象なのか。まずはトップカテゴリーを対象とした研究を行った方が良いのではないか。

 以上の指摘を受けた私は、部屋を出たその足で担当教官である中山雅雄先生の研究室を訪れ、「トップカテゴリーを対象としたゲーム分析をします」と宣言した(その時の中山先生の顔を表現する文章力は、今の私にはない)。

 かくしてゲーム分析の道へ踏み入れた私は、研究テーマを探す段階から始めることとなった。

バイタルエリアは本当にバイタル(重要)なのか

 研究テーマを探す上で、「得点力不足」「スピード感の欠如」といった日本サッカーの枕詞とも言える言説の検証ができないかと考えた。ただ、これまで行われてきた研究では、シュート数や得点数からリーグの特徴を見出すことは難しいことが明らかにされている。そこで着目したのが、相手守備組織内(相手ディフェンダーとミッドフィルダーの間のスペース)に侵入した時のプレーだった。現代サッカーでは、多くのチームがコンパクトな守備組織を形成するため、その中に侵入してゴールに向かうプレーの難易度は高くなっている。……

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Jリーグブンデスリーガ育成

Profile

鈴木健介

1988年生まれ。東京都小金井市出身。筑波大学を卒業後、地域リーグで5年間プレー。埼玉県の大学で指導をしながら、筑波大学大学院で修士号(体育学)、博士号(コーチング学)を取得し、現在は筑波大学体育系博士特別研究員に。研究の専門はゲームパフォーマンス分析。特技は4歳から始めたモダンダンス。