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Creation is Encouraged――3部リーグで12試合153失点を喫した東大サッカー女子たちが仕掛けた「皆が輝ける場所づくり」

2021.01.22

新型コロナウイルスにより、2020年はプロに限らずアマチュアレベルでも多くのスポーツ活動が制限されることとなった。そんな年に、大学女子サッカー界で画期的な動きがあったことをご存じだろうか。東京大学ア式蹴球部女子が主導し実現した、新リーグの創設がそれだ。リーグが掲げる理念や創設までの経緯、工夫されたフォーマットは、レベル差や競技者不足により生じるコンペティション開催や競技性維持の困難さ、競技者が楽しめないといった多くのスポーツ競技が抱える問題解決にも役立つもの。彼女たちの奮闘を、ぜひ知ってもらいたい。

 2020年12月13日、東大は関東大学女子CiEリーグ最終戦で見事快勝、得失点差で2位以下を上回り初代チャンピオンに輝いた。

 CiEリーグ(シー・リーグ)は関東大学女子サッカー連盟下の公式戦リーグで、昨年東大ア式蹴球部女子の働きかけが奏功し2020年に創設された。初年度は東大の他に東京学芸大、創価大、茨城大の4校が参加している。

 CiEリーグとはどんなリーグなのか? 前年までは3部リーグに加盟していた東大がなぜ新しいリーグの立ち上げに動いたのか? そして、どのようにスタートへと至ったのか? そこには学生スポーツにとどまらず、そしてプロ・アマを問わず、私たちのスポーツとの関わり方についてのヒントがいくつも詰まっている。

「サッカーって“勝てないもの”」部員たちの無力感

 その前にまず紹介したいのが、2014年の創部以来6年間にわたる東大の戦績(関東3部)である。

2014  4勝4敗1分 5位 得点11 失点18 得失点差-7

2015  3勝5敗2分 8位 得点10 失点27 得失点差-17

2016  2勝7敗1分 9位 得点9 失点29 得失点差-20

2017  2勝9敗0分 10位 得点5 失点62 得失点差-57

2018  0勝11敗1分 13位 得点1 失点93 得失点差-92

2019  0勝11敗1分 13位 得点2 失点153 得失点差-151

 当初は部員数が11名に達していなかったこともあり、3部参加校にルール上認められていた大学院生や他大学、いつも一緒にトレーニングをしている社会人チーム「文京LBレディース」の大学生選手との合同チームでリーグ戦に参加し、それなりに戦うことができていた。

 しかし2018年以降、部員数が11名を超え、待ちに待った単独チームで参加するようになってからは上位校との実力差がより顕著となり、2019年には20点以上の失点を重ねた試合が3試合を数えることに。2部への昇格争いが熾烈な上位校が、得失点差が絡むこともあり最後まで手を抜かず1点でも多く取ろうとしたためなのだが、東大としてはまず楽しくない、そしてうまくならない、自分の努力や成長を実感する機会も少ないという、ないない尽くしの環境に身を置くことになってしまっていた。

 チームの一員でCiEリーグ設立の立役者の一人、津旨まい(2年生)に話を聞いた。

 「大学に入ってサッカーを始めた私にとって、新人の時はサッカーの試合がどういうものかの基準がない状態でした。大差で負ける試合で、圧倒的な実力差があって、楽しいとか悔しいとかの感情もほとんどありませんでした。ただ、チームのみんなが試合に行くから行く、出番になったから出る、相手が走るから走る、ボールが来たから蹴る、そんな感じでした。入部して、そのリーグに出ているのが当たり前で、シーズンの序盤は大した疑問も抱かずに過ごしていました。しかし、時間が経つにつれて、負けても悔しさを感じられないことに違和感を覚えていきました。悔しさを感じないのは、自分が入部間もない初心者であるため、責任を感じていないからかもしれない。そうも考えましたが、やはりそれ以上に対戦相手との実力差の大きさに対する無力感が大き過ぎたんです」

 チームを預かる藤岡佑将監督からも、このような言葉があった。

 「部員は大学から始めた子と経験者が7:3くらい。普通『大学でサッカーをやる』と言ったら『育成年代の最終段階』とか『いよいよ大人のサッカーに突入』とかを想像すると思いますが、そうではありません。半数以上にとっては『サッカーというゲームとの出会い』でした。正直『東大まで来て、女の子で、大学から体育会でサッカーやり始めるって、どういうこと?』と思っていました。部員に聞いてみると、『中学の時は休み時間の遊びといえば友達とやるサッカーで、一度真剣にやってみたかったんです!』や、『実はブラジルW杯からずっと観るのが好きで、自分でもやってみたくて、ア式女子はチャンスだと思って入部しました!』など、すごく普通というか、自然な動機でした。『好きだし、やってみたいからやる!』という感じでしたね。

 そんな部員から『大学からサッカーを始めた私にとって、サッカーって“勝てないもの”です』と言われたのは非常にショックでした。僕たちずっとサッカーをやってきた人間は、勝利の喜びや敗北の悔しさ、向上する喜び、努力や工夫の大切さを少なからずサッカーを通じて学んできたと思います。しかしそれは勝ったり負けたりしてきたからこそだったのだ、と気づかされました。その意味で2019年は『サッカーというゲーム』そして『リーグ戦という形式』の面白さや醍醐味を享受しているとは言いがたく、より意義あるものにするためには何かしらの工夫と努力が必要だと感じていたんです」

 2020年シーズンを迎えるにあたり、彼女たちには2つの選択肢があった。どんなに大きな戦力差があったとしても大学生同士、自らの大学を代表して公式戦を戦う機会を残すことを優先させるか、あるいはいったん関東学連からは脱退し、大学生に限らず競技レベルの合いそうなオープンなリーグや大会に登録し活動を継続させていくかの2択である。

 しかし、学生たちは監督や学連理事、他大学の大人たちを巻き込みながら、大学生同士の公式戦として、なおかつより拮抗したレベル同士で試合が行えるよう、新リーグ設立と言う第3のオプションを志向し、その実現に向けて動き始めた。

 「勝負にこだわれ」と檄を飛ばすことに加え、「リーグ運営への貢献」についても要求し続けてきた大里真理子理事(東大OG、自ら経営する会社で実業団のスキーチームを運営)から悩む学生たちに向かって「決められた枠組みに沿ってプレーするのも悪くないけれど、枠組みを決める側に回ってプレーするのはもっと面白いよ」と、背中を押されたのがきっかけだった。

実現までの悪戦苦闘と創意工夫

 津旨は当時を思い出しながらこう話す。

 「当初3部を2つに分けて4部を創設する案を出していたのですが、あまり色よい返事はいただけてなくて。代わりに学連の枠組みの中に従来の競技志向のリーグに加え、普及のためのリーグを新たに作ったらどうかという案を提示されました。そのリーグであれば、自主運営を行い、試合時間や他大学生の規定を柔軟に変えて、新規参入チームを見込むこともできるのではないかと思ったんです」

 とはいっても、東大女子の中でもすんなりとそれまでのコンペティションから抜け、新しいリーグを創設、そして参加しようと決意できたわけではない。やはり、「従来通り『関カレに出たい』という学生は多かったですし、実際めちゃくちゃ揉めました(笑)」(藤岡監督)といったように、部内でも随分と議論が交わされたようだ。

 「チームで掲げた軸の1つに『サッカーをやりたい女子学生が楽しくサッカーをできる環境を広める』というものがありました。その後、従来通りのリーグに出るか、新しいリーグをつくるかで意見が割れ、お互いに納得できる結論も出せなかったため、チームの軸をもう一度見直そうとオンラインミーティングを重ねました。新型コロナウイルスの影響で、大学で練習ができなくなった時期に新しいチームで自分たちは何を目指しているのか、何をしたいのかを話し合ったのです。その中で、楽しいという価値観には個人差があるけれど、普及というのは自分たちが存在する上で欠かせない根本的な部分であるという点で意見が一致しました。自分たちがどこに向かうにしても、何を目指すにしても、まず存在することが必要である。そのためには普及が必要である、と」(津旨)

 そうして学生たちはまず、同じ3部に所属する大学へ勧誘を始めた。しかしそんなに話は甘くはなく、合流したのは東京学芸大学1校にとどまった。早くもくじけそうになった学生たちだったが、ここでも大里理事に「やれない理由を見つけるのは簡単。今年できなければ来年だって無理」と退路を断たれ、今度は学連には加盟していない関東圏の大学サッカーチーム一つひとつにコンタクトを取っていく。「同じ女子学生同士で戦いたい」という思いはあれどハードルがある大学に対して、参加しやすい条件を一緒に考え、ともに行動を起こし、結果的にさらに2校が加わり何とか新規リーグの目処が立つところまでこぎ着けた。

『第34回 関東大学女子サッカーリーグ戦プログラム』内のCiEリーグ紹介ページ

 学連内での合意形成という面では、東大がこれまでに学生幹事長を輩出するなど汗かきをいとわず行ってきたことで提案を聞いてもらえるポジションを確立していたことや、大人の目から見ればまだ穴だらけの新リーグではあったが、そこは目をつむって前に進めよう、と学連理事間で暗黙の合意が取れていたことも大きかった。

 「女子サッカーは強化やグラスルーツの話だけでなく、ダイバーシティやLGBTQなど社会的なテーマと親和性があり、その議論の必要性も高まっています。1つの連盟の中に2つのピラミッドを創り上げた関東女子学連は、まさにその多様性を体現する先進的な組織だと感じました」(藤岡監督)

 運用面でも様々な工夫がなされた。例えば、11人に満たない場合は対戦校同士で話し合い、8人制や9人制で行うなどリーグ規則に柔軟性を持たせた(それまでは強豪校は11人で弱小校は人数が集まらずに8人で試合を臨むようなことも起きていた)。実力が均衡する状況でゲームができる工夫をすることで、楽しみながら切磋琢磨できる状況を生み出したのだ。

結果的に、学連の大槻理事長からも「既存リーグの改革を行い、競技性を高めることに成功した一方、どのように競技のすそ野を広げていくかは悩みのタネだった。学生自らがその解決策を打ち出したことは素晴らしい」との評価を受けるまでに至った。

2つの気づき、さらなる課題解決へ向けて

 学生たちにとって、新しいリーグ戦を展開していく中で2つの大きな気づきがあったようだ。一つは純粋にサッカーという競技の楽しさを再発見できたこと、そして、もう一つは新しい仕組みづくりの価値についてである。

 やはり拮抗した試合を通じてこそ喜び、それまでの努力を肯定する成長を感じられること、そして本質や目的から逆算して、いろんな立場の人たちを巻き込み、訴え、理解を得ながら新しい仕組みづくりをしていくことの充実感、やりがいだ。

 「私が初めて経験する、同じレベルのチームでのリーグ戦でした。本当に楽しかったです。先日zoomで行った表彰式でも、サッカーの楽しさを味わえたこと、1年目のCiEリーグに関われたことを喜ぶ声が聞けました」(津旨)

 「決してレベルが高いコンペティションだとは思いません。しかし『勝つか負けるかの緊張感』『勝利を引き寄せるための駆け引き』『勝敗を分けるようなギリギリでの体を張ったプレー』『結果に対する感情の爆発』など、『サッカーの醍醐味』『サッカーというゲームの面白さ』が、色濃くあったことは間違いありません」(藤岡監督)

 今後もより良いリーグにするための努力は続く。まだまだ多くのイシューがあることも事実だ。

 「今後の課題は、まず何よりもチーム集めです。CiEリーグを設立する時にも、試合をする時にも、対戦相手の大切さをひしひしと感じました。対戦相手がいなければ試合ができないという当たり前のことに気づかされました。

 次に、学連の中でのCiEリーグの立ち位置も確立させなければと感じています。CiEリーグは自主運営ではありますが、学連の中にあるリーグである以上、1~3部と母体は同じです。今後、運営がしやすいように制度を整えていく必要があります。

 さらに、初年度は東大関係者が中心となりましたが、今後の継続のためにも、もっと他の大学を巻き込んでリーグを運営していく力が不可欠であると感じています」(津旨)

 そして、大事な話としてお金の話も避けては通れない。

 「チームが継続的に参加できるように、登録費の負担軽減が必要であると思います。初年度は学連の補助金や普及促進費の他、大里さんがスポンサーについてくださったおかげで負担が少なくて済みました。チーム登録費やリーグ参加費は学連に所属している他のチームと同じですが、CiEリーグに所属する多くのチームは人数が少ないため、自然と負担が大きくなっていきます。負担が減るように動いてくださっている理事の方もいますが、自分たちでスポンサーを探していく意欲や経費削減の知恵を出すことも必要であると感じています」(津旨)

 「参加のハードルを下げるため、費用を下げました。また既存チームによって新規リーグを支える必要があることから、3部から移籍してリーグの立ち上げを手伝ってくれる大学に奨励金を払いました。反面、仲間意識を強めるため、リーグ運営に関わるところは配慮はしても、ハードルを下げてはいません。サッカーの試合だけではなく、コミュニティ運営に関わってもらうことにも意味があると考えたからです。また、スポンサーを募って金銭的援助もしています。金額の多寡よりも、新規チームをこのように歓迎している、というメッセージが伝わったのが大きかったのではと想像しています。ですから、次年度以降どうするのかは課題ですね。引き続き何かしらの援助は賛成ですが、ずっと援助し続けるというよりは将来のリーグの自立を促す援助であるべきですね」(大里理事)

 アマチュアスポーツとして、より多くの競技者一人ひとりがスポーツの持つ緊張感や高揚感、達成感を味わえるフォーマットを生み出し続けることはとても大事だ。

 そして仕組みづくりである。プロであれば国内、国外におけるトップチーム強化、若手育成のための最適な制度設計、そしてアマであれば年代ごとに最適な強化と普及、厳しさと楽しさのバランスが取れたフォーマット作り、そして不断のブラッシュアップ。

 どれもスポーツが持つ力や豊かさを具体的に体現させるもので、この2つを通じてより豊潤なスポーツ文化を根づかせていかなければならないと思う。

 その中でも特に大学生の場合は、選手や主務などのスタッフ自らが、チーム強化と同時にコンペティションの制度設計についても主体的に関わっていけるところが興味深い。これは、プロでも高校生以下の世代でも難しく、大学生ならではの醍醐味だと思う。

 「前例がなく、マニュアルもない中で戸惑うことは多々ありますが、CiEリーグの運営に関われて、たくさんのうれしい言葉や楽しさをもらって、自分やチームの成長を感じることができました。そして、今まで知らなかった、大学女子サッカーで戦う同志たちに出会うことができました。きっとまだ私の知らないところで、人数が少なかったり戦う場がなかったりする中でも、サッカーが大好きでプレーしている大学生女子たちがいるのだろうと思います。CiEリーグが多くのサッカーをしている大学生女子たちの、まだサッカーを知らない大学生女子たちの、楽しく真剣に戦える場になれたらうれしく思います」(津旨)

 「サッカーの面白さ・魅力はプレーすることだけではなく、サポートすること、分析すること、クラブを運営すること、連盟を動かし構造を改革すること、プロジェクトについて交渉すること、広報することなど様々な楽しみ方、関わり方があります。自分なりの楽しみ方、関わり方を考え、模索し、実行するのが大学生以上に求められる『サッカーと関わるということ』だと思います。それを見つけてほしい。その中に学びがあるんだと思います。大学の部活は学生スポーツの終わりですが、生涯スポーツの第一歩でもあります」(藤岡監督)

 大里理事に聞くと、今年は新たに2校から参加の意向が届いているとのこと。最後にもう一度CiEリーグについて。CiEという名称は、これも学生自身による発案だったがCreation is Encouraged. まさに「新しいものを創ることが勇気づけられる(励まされる)リーグ」なのである。

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女子サッカー東大ア式蹴球部

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利重 孝夫