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【対談後編】L’Ultimo Uomo編集長が危惧する“TVコンテンツ化”で失う社会的価値

2021.01.20

ダニエレ・マヌシア(L’Ultimo Uomo編集長)×片野道郎(サッカージャーナリスト)

専門的な分析・考察記事や長編のストーリーといった従来のジャーナリズムとは一線を画したコンセプトで、イタリアで確固たる地位を築いたWEBマガジン『L’Ultimo Uomo(ウルティモ・ウオモ)』。その編集長を務めるダニエレ・マヌシアとサッカージャーナリストの片野道郎氏がたっぷりと語り合った対談をお届けする。

前編ではポスト・コロナのサッカーメディアの在り方の変化、後編では「無観客」が日常となる世界のサッカー界が今後どういった方向へ進んでいくのかを考えてみた。

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コロナが突きつけた「旧来メディアの死」

片野「2月、3月にコロナウイルスがやって来て、サッカー界はもちろん社会全体が3カ月にわたって止まってしまった。それがジャーナリズム、そしてサッカーにどのような変化をもたらし得るのかというのが、ここからの話題です。UUにはどんな影響があったのでしょう?」

マヌシア「UUはニュースを伝えるメディアではないので、試合がなくなったから発信するコンテンツに困る、ということはありません。むしろこういう状況だからこそ、独自の視点、新しい角度からサッカーを掘り下げ、興味深いストーリーを掘り起こし、スポーツについて語り続けることが重要だと考えています。スポーツはやる人にも見る人にも喜怒哀楽を提供するアクティビティであると同時に、巨大な産業でもあり、大きな社会的意義と重要性を持っています。試合が止まっているからと言って、スポーツについて語るのを止める必要はありませんよね。むしろこういう状況だからこそ語り続けなければならない。人々の最も大きな関心が試合に向けられているのは当然ですし、それがなくなったからジャーナリズムに対する需要が縮小している、新聞の販売部数やサイトのクリック数が落ちているというのは、ある意味で避けられないことです。それがもたらす危機にどう対応するかというのは、企業としての新聞社やメディア会社がそれぞれ考えるべきことですよね。ただ、そのツケをジャーナリストが払わせられることは避けなければならない。コンテンツのクオリティ低下に直結しますからね。逆に、すでに危機に陥っていた『ガゼッタ』のような旧来的な新聞にとっては、これまで惰性で、あるいは変化を望まないという理由だけで続いてきた旧態依然とした体制を見直し、より時代に合ったものに変えていくいい機会かもしれません」

片野「UUとしてこの状況にどのように対応するか、戦略は持っていましたか?」……

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ウルティモ・ウオモメディア文化

Profile

片野 道郎

1962年仙台市生まれ。95年から北イタリア・アレッサンドリア在住。ジャーナリスト・翻訳家として、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。主な著書に『チャンピオンズリーグ・クロニクル』、『それでも世界はサッカーとともに回り続ける』『モウリーニョの流儀』。共著に『モダンサッカーの教科書』などがある。

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