【対談前編】L’Ultimo Uomo編集長が予測するポスト・コロナの「メディア再編」

ダニエレ・マヌシア(L’Ultimo Uomo編集長)×片野道郎(サッカージャーナリスト)
専門的な分析・考察記事や長編のストーリーといった従来のジャーナリズムとは一線を画したコンセプトで、イタリアで確固たる地位を築いたWEBマガジン『L’Ultimo Uomo(ウルティモ・ウオモ)』。その編集長を務めるダニエレ・マヌシアとサッカージャーナリストの片野道郎氏がたっぷりと語り合った対談をお届けする。
前編ではポスト・コロナのサッカーメディアの在り方の変化、後編では「無観客」が日常となる世界のサッカー界が今後どういった方向へ進んでいくのかを考えてみた。
40%減のガゼッタ、過去最高のUU
片野「コロナ禍について語る前段として、まずこの5年、10年でスポーツジャーナリズムの世界に起こった大きな変化について、その当事者でもあるダニエレの話を聞ければと思います。例えば、イタリアで『ガゼッタ・デッロ・スポルト』紙の販売部数は、この10年間で4分の1近くまで減少しています。コロナ禍前の時点での話です。それがコロナ禍でそこからさらに40%も減ってしまった。一般のファンにとって、スポーツ新聞が主な情報源だという時代は終わったと言ってもいい」
マヌシア「そこにはたくさんの要因が絡み合っていると思います。その全体が時代的な転換を記している。大きな危機に直面しているのはスポーツ新聞だけではありません。一般紙も同じです。どの新聞もデジタル時代に対応すると言って様々な取り組みを進めています。『デジタル』というのは魔法の言葉のように響きますが、具体的に彼らが追い込まれているジリ貧的な状況を解決する術が見出されたわけではない。以前は敵視していたけれど、今は積極的に対応しなければならない何か、抗えない何かに変わっただけです。紙のメディアが犯した大きな失敗は、デジタルを単に副次的な広告媒体だと位置づけて、メインの紙面では使う価値がないと考えた残り物の情報を吐き出す場所にしたことです。例えば大物監督のロングインタビューは、『ガゼッタ』や『コリエーレ・デッロ・スポルト』の紙面には載るけれどサイトには掲載されないのが普通ですよね。しかしその結果、一般のブログやそのクラブのファン向け情報サイトが、著作権をギリギリ侵害しないようなやり方でその内容をほぼ丸ごと使って記事を作るようになった。発言は丸ごと残すけれど質問だけ削るような編集の仕方をするので、その発言が出てきた文脈が失われてしまう」

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Profile
片野 道郎
1962年仙台市生まれ。95年から北イタリア・アレッサンドリア在住。ジャーナリスト・翻訳家として、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。主な著書に『チャンピオンズリーグ・クロニクル』、『それでも世界はサッカーとともに回り続ける』『モウリーニョの流儀』。共著に『モダンサッカーの教科書』などがある。