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コモの前例なきクラブ戦略=「地域ブランドを核とした事業開発」はUEFAのFSR規程をどうクリアする?

2026.02.06

CALCIOおもてうら#62

イタリア在住30年、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えるジャーナリスト・片野道郎が、ホットなニュースを題材に複雑怪奇なカルチョの背景を読み解く。 

今回も前回に続いてセリエAで快進撃を見せるコモ1907の経営戦略について。「地域ブランドを核とした事業開発」というサッカークラブ経営としては前例のない壮大なビジネスプランは、UEFAのFSR規程をどうクリアする余地があるのかを考察してみたい。

 セスク・ファブレガス監督の下で魅力的な攻撃サッカーを展開し、セリエA6位と来シーズンの欧州カップ戦出場を狙える位置に着けているコモ。しかし、前編で取り上げたように、その財務状況は、UEFAのファイナンシャル・フェアプレー規程=FFP(改めファイナンシャル・サステナビリティ・レギュレーション=FSR)に抵触する可能性が非常に高い。果たしてコモは、欧州カップ戦進出という次の大きなステップを踏み出すにあたって、このハードルをどのようにクリアしようとしているのか――というのが、この後編のテーマである。

着地点は「サッカー的な成功ではなく、ビジネス的な成功」

 それを理解するためには、オーナーであるインドネシアの巨大財閥ジャルムグループから送り込まれたミルワン・スワルソ会長が描く、壮大なビジネスプランに目を向ける必要がある。

 大前提となっているのは、その中心に置かれているのは「コモ1907」というサッカークラブそのものではなく、「コモ湖」という地域全体が持つブランド価値であるという点だ。サッカークラブとしてのコモ1907は、それを世界に向けて可視化し、注目を集めるための広告塔、集客装置として位置づけられている。

 スワルソ会長が「私たちの野心は、サッカー的な成功にではなくビジネス的な成功にある」と言う通り、その最終的な狙いは、サッカークラブの周辺で展開している不動産、観光、マーチャンダイジング、メディア、デジタルといった関連事業を成長させ、「コモ湖」に関わるビジネス全体をスケールしていくことにある。つまり、「コモ1907」を見る時には「サッカークラブ経営」という枠組みではなく「地域ブランドを核とした事業開発」として捉え直す必要があるということだ。

チケット販売、データ分析…自前のシステムを開発し、横展開を狙う

 実際、「コモ1907」が展開しているビジネスモデルは、サッカーの試合開催という「本業」に付随するマッチデー、放映権、コマーシャルという3分野の定型的なビジネスを拡大していくという、一般的なプロサッカークラブのそれとは一線を画すものだ。出発点は同じかもしれないが、ビジネスを拡大する方向と範囲がより広く、「本業」とのつながりも薄い分野にまで及んでいる。

 例えばコモは、ブロックチェーンによる独自のチケット販売プラットフォームを自前で開発している。これは、転売も含めた二次流通市場までをクラブが管理することを可能にするもので、クラブと提携したショップで用いられているポイントシステムにも連動している。試合のチケットを核として広がるエコシステムをクラブの周囲に作り出すこのプラットフォームをあえて自社開発したコモの狙いは、他のクラブにもB2Bで外販することにある。すでにサウジアラビア2部のアル・ウラーが、最初の顧客として契約済みだ。

 驚かされるのは、コモがクラブの内部に60人以上を擁するデジタル部門を持っており、このチケット販売プラットフォームの開発だけでなく、サッカーのデータ分析に関しても独自のシステムを構築していること。

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Profile

片野 道郎

1962年仙台市生まれ。95年から北イタリア・アレッサンドリア在住。ジャーナリスト・翻訳家として、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。主な著書に『チャンピオンズリーグ・クロニクル』、『それでも世界はサッカーとともに回り続ける』『モウリーニョの流儀』。共著に『モダンサッカーの教科書』などがある。

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