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直近2年でマイナス280億円の赤字。積極投資のコモは欧州カップ戦に出られるのか?

2026.01.23

CALCIOおもてうら#61

イタリア在住30年、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えるジャーナリスト・片野道郎が、ホットなニュースを題材に複雑怪奇なカルチョの背景を読み解く。 

今回は、ピッチ上ではセリエAの台風の目になっているセスク・ファブレガス率いるコモの経営面にフォーカスを当ててみたい。チームは欧州カップ戦を狙える位置までステップアップしてきたが、果たして欧州カップ戦出場の条件であるファイナンシャル・フェアプレー規程=FFP(あらためファイナンシャル・サステナビリティ・レギュレーション=FSR)をクリアすることができるのか?

 セスク・ファブレガス率いるコモがセリエAで躍進を続けている。

 セリエA昇格1年目の昨シーズンを10位で終えたのに続き、今シーズンは開幕からコンスタントに一桁順位をキープ、EL/CL出場権に手が届く6位で前半戦を折り返した。21節を消化した現時点での勝ち点は37で、CL圏内(4位以内)のローマ(勝ち点42)まで5ポイント差、5位ユベントス(勝ち点39)には2ポイント差に迫る位置を保っている。

パフォーマンスデータは、もはやビッグ3に匹敵

 近年のセリエA全体の構図は、インテル、ミラン、ユベントスのビッグ3をナポリ、ローマが追い、その後ろにアタランタ、ラツィオ、ボローニャ、フィオレンティーナといった中堅クラブが続くというもの。近年、現実的な目標として欧州カップ戦出場を狙えるのはこの9クラブまでであり、その下にいるトリノ、ジェノア、ウディネーゼ、サッスオーロ、パルマ、ベローナ、カリアリといったクラブは、残留回避と中位定着までが望み得る最大目標となっている。

 ところがコモは、昇格わずか2年目にして、これら中位グループを飛び越えて中堅クラブと同じ土俵に立ち、欧州カップ戦出場を射程に捉えている。これは快挙と言っていい。しかもピッチ上のパフォーマンスという観点から見れば、今シーズンのコモは内容・結果ともに中堅クラブ勢よりもむしろトップ5に近いところにいる。

 それを象徴するのが、OptaのAIが算出している勝ち点期待値XPTSとそれに基づく順位期待値XPOS。コモのXPTS35.0は、インテル43.8、ユベントス41.3、ミラン37.3に続く数字で、XPOSは実際の順位を上回ってCL圏内に位置する4位なのだ。31得点はリーグ3位タイ、16失点はリーグ2位タイ、得失点差15も3位タイだから、6位という現在の位置はパフォーマンスに対してむしろ下振れしていると言えるほど。

  これだけの内容と結果をもたらしているファブレガスのサッカーは、これまでも過去記事『セリエAで最も先進的。セスクのコモが追求する「GKを組み込んだ2つのビルドアップ・プラン」の意図』当連載第43回『セスク・ファブレガス、名将への歩み。コモでの「お伽話」の結実が見たい』で触れてきたように、「ボールと地域の支配を通してゲームを支配する」という明確なコンセプトに基づく、能動的かつ攻撃的なスタイル。ボール支配率61.3%、PPDA(プレス強度指標)8.7のいずれもリーグ1位というデータが物語るように、ポゼッションとハイプレスを高次元で融合した、セリエAでは唯一無二のスーパーモダンなサッカーだ。

躍進を支えるセリエA屈指の投資力と明確な戦略

 もちろん、この躍進を支えているのは、ファブレガス監督の優れた手腕だけではない。指揮官の戦術をピッチ上で解釈し表現する選手たちのクオリティの高さも特筆すべきレベルにある。

 実際コモは、セリエA昇格後の2シーズン、このレベルのクラブとしては破格というべき資金を移籍マーケットに投下してきた。昨シーズンは夏冬合わせて1億ユーロ、今シーズンも夏だけで1億1500万ユーロ(約214億円)の移籍金を新戦力獲得に費やしている。今夏の数字はセリエA全体でミラン、ユベントス、アタランタ、ナポリに次いで5番目に多いが、選手売却益も含めたトータルの移籍収支(-9400万ユーロ)となると、ユベントス(-5280万ユーロ)、インテル(-4400万ユーロ)を大幅に上回ってダントツ1位になる。

 人口8万5000人の小都市に本拠を置く一介のプロビンチャーレ(地方都市の中小クラブ)が、これだけの巨額をチーム強化に投じることができるのは、コモを所有しているのが兆単位の総資産を誇るインドネシアの巨大財閥ジャルムグループだから。注目すべきは、移籍マーケットにおけるこの巨額の投資が、単に目先の結果を勝ち取るための戦力アップではなく、中長期的な視点に立った明確な戦略に基づいて進められている点だ。

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Profile

片野 道郎

1962年仙台市生まれ。95年から北イタリア・アレッサンドリア在住。ジャーナリスト・翻訳家として、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。主な著書に『チャンピオンズリーグ・クロニクル』、『それでも世界はサッカーとともに回り続ける』『モウリーニョの流儀』。共著に『モダンサッカーの教科書』などがある。

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