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「僕は練習メニューのオタク。トレーニングで横浜FCの選手を成長させたい」須藤大輔新監督が掲げる「インプレッシブサッカー」とは何か(後編)

2026.02.06

Jリーグ新監督のビジョン#7

2026シーズンのJリーグは、降格がない百年構想リーグという変則レギュレーションの後押しもあり、チャレンジングな監督人事が目立つ。サンフレッチェ広島のバルトシュ・ガウル監督は38歳、ガンバ大阪のイェンス・ヴィッシング監督は37歳とドイツの新世代監督を招聘。トップレベルの指導経験はない藤枝MYFCの槙野智章監督も驚きの人選だった。名古屋グランパスのミハイロ・ペトロヴィッチ監督や北海道コンサドーレ札幌の川井健太監督、横浜FCの須藤大輔監督といった攻撃サッカーを掲げる戦術家も新天地で新たな挑戦を始める。未知の魅力にあふれた新たなサイクルの幕開け――Jリーグ新監督のビジョンに迫る。

第6&7回は、5シーズン率いた藤枝MYFCを離れ、横浜FCで新たな挑戦を始める須藤大輔監督。後編では「僕は練習メニューのオタク」と語るトレーニングにフォーカス。渡邉りょうや矢村健のような選手をどう成長させたのか、ゲームモデル・プレー原則・パターン練習の関係性や組み立て、そして影響を受けた指導者について詳細に語ってくれた(取材日:1月27日)。

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渡邉りょうや矢村健のケース。選手のストロングをいかに輝かせるか?

——藤枝にも渡邉りょう選手や矢村健選手など、シーズンごとに活躍が目を惹く選手がいました。彼らが輝いた理由、また輝けるチーム作りについてはいかがですか。

 「僕がいた時の藤枝の選手たちはダイヤの原石のようなもので、出来ることは出来るけれど出来ないことはやらない、そういう選手でした。渡邉りょうは沼津にいた頃から一発のカウンターを狙える選手だったけれど、プレーに関われないし守備ができない。極端に言えばそういう形なんですが、じゃあそれをチームとしてどうするの、ということを植えつけたんです。守備をすると逆に自分のところに最後にボールが転がってくるよとか、周囲と関わってワンテンポ置くことによって、後ろから味方たちが上がってくる時間が作れるから自分がゴール前に入った時にマークが分散されるよといったことを話しながら。そういう、自分が得をするようなプレーを戦術的に使うようになったことで、選手たちが輝けるようになったのではないかと思います。

 (矢村)健にしてもそうなんですよね。ゴールを狙うアクロバティックなシュートは打てる、でも関わるのが苦手。それだとピッチ上でマイナス1になってしまうんですよ。プラス1を作るどころかマイナス1になってしまうとボールは絶対動かないので、プラス1を作れるような動きをしながらゴール前に入っていけばより点が取れるよ、ということを彼とも話したりして、そうすると今まではなかった引き出しが開いて得点を量産できるようになった。

 横山暁之もそうですし、久保藤次郎、新井泰貴、西矢健人、内山圭もそう。育っていった選手はストロングがすごく秀でているけれども、ウィークでストロングが引っ張られてしまっていた。そのストロングを輝かせるプラス、ウィークをちょっと上げてあげると、より輝けるようになるんですね。これは選手全員に当てはまることだと思うので、横浜FCでもストロングのある選手のウィークの部分をちょっと上げてあげれば、世界で輝けるようになる選手がたくさんいると感じています」

——戦術プラス、何か原理原則的なものの指導という感じでしょうか。

 「そうですね、やはり戦術のところは結構細かく提示します。ボールの動かし方とか、それでここにボールが入った時に誰と関わるとボールが動くよとか、守備についてもこう行くとここにボールが流れるからここに立っていましょうとか、そういう細かなことは提示として出します。ただ、提示はあくまでも提示であって、自分の発想や即興性を持ってプレーしましょうというところでは結構ファジーにやっているので、そこで自由度が出ると選手はのびのびできるんですね。何から何まで雁字搦めにしてしまうと余白のない絵みたいになって綺麗な絵は描けない。余白を残してあげると、バンクシーじゃないけどいい絵ができるよね、ということにつながると思うので、そこは大事にしています。そのバランスは難しいんですけど。

 システムがありながら、そこから逸脱していくことも必要で、状況によって自分の判断で飛び出すとか、ここはステイするとか、ここはドリブルで仕掛けていいんだとか、そのレベルの判断まで奪ってしまうと、相手にとって守りやすく攻めやすいチームになってしまいます。だから状況に応じたプレーをできるような判断や認知、そういったものを高めるトレーニングを積むことが大事です。以前、オシムさんが言っていたように、考えて走る、考えてボールを止める・渡すができない選手は、ちょっと僕のサッカーにフィットするのは難しいのかもしれません。判断と認知がゲームの中で生きているからこそ、相手は守りにくいし攻めにくくなる。そういうことを感じています」

――インテリジェンスが低い選手は難しいということですか。

 「いえ、ちょっと違います。僕が絶対に譲れないのは、プレーをやめてしまうこと、足を止めてしまうこと、他人任せにすること。そこだけは絶対にやってはならないポイントとしてあって、あとはトレーニングでやっている大体のことは自然に出てくるので、そこだけをやってくれればこのサッカーはできるというトレーニングを積んでいます」

矢村健

ゲームモデルの「余白」とトレーニングでの選択肢の提示

——チームを作るにあたって、いわゆるゲームモデルのような全体のフレームを設定する時に、どのくらいの抽象度で設定するのでしょうか。そもそもゲームモデルをどう考えているか、またプレー原則の抽象度について須藤監督の考えを教えてください。

……

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Profile

ひぐらしひなつ

大分県中津市生まれの大分を拠点とするサッカーライター。大分トリニータ公式コンテンツ「トリテン」などに執筆、エルゴラッソ大分担当。著書『大分から世界へ 大分トリニータユースの挑戦』『サッカーで一番大切な「あたりまえ」のこと』『監督の異常な愛情-または私は如何にしてこの稼業を・愛する・ようになったか』『救世主監督 片野坂知宏』『カタノサッカー・クロニクル』。最新刊は2023年3月『サッカー監督の決断と采配-傷だらけの名将たち-』。 note:https://note.com/windegg

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