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秋春制とU-21 Jリーグは日本独自の育成プラットフォーム「大学サッカー」と共存できるのか?

2025.11.13

喫茶店バル・フットボリスタ~店主とゲストの本音トーク~

毎月ワンテーマを掘り下げるフットボリスタWEB。実は編集者の知りたいことを作りながら学んでいるという面もあるんです。そこで得たことをゲストと一緒に語り合うのが、喫茶店バル・フットボリスタ。お茶でも飲みながらざっくばらんに、時にシリアスに本音トーク。

今回のテーマは、スカウト特集の背景にあった秋春制やU-21 Jリーグといった日本サッカー界の大きな制度改革の先にある未来について。特に近年、日本サッカーの育成プラットフォームの中で重要な位置を占めるようになった大学サッカーと新制度との共存について様々な角度から議論してみた。

回のお題:フットボリスタ2025年10月特集
これからのJスカウトに求められる視点

店主 :浅野賀一(フットボリスタ編集長)
ゲスト:川端暁彦

バル・フットボリスタが書籍化!

そもそも、なんでスカウト特集?

川端「マスター、お久しぶりです。今回のスカウト特集は、インタビュー特集みたいな感じでしたね」

浅野「結果的にすべてが取材記事でしたね。今回の特集は土屋雅史さんが主導で進めてくれたもので、企画も土屋さんの発案でした。10代の子たちにとって直接行くにしろ数年後に行くにしろ、『欧州クラブ』という進路が具体的な選択肢になっていますよね。加えてJリーグの秋春制やU-21 Jリーグが始まるなど制度的にも大きな過渡期を迎える中で、現場を知るスカウトの人たちは何を考えているのかを知りたかった、というのがそもそもの動機です」

川端「様々な業態のスカウトマン特集って感じでもありますね」

浅野「厳密に言うと、スカウトだけではなくてU-21リーグに参加する清水エスパルスの反町康治GMや『選手を獲られる側』の筑波大学蹴球部の小井土正亮監督にも話を聞きました」

筑波大学蹴球部の小井土正亮監督

より「スポーツ化」した大学サッカーのジレンマ

川端「小井土さん、というか筑波大は選手を獲る側ではという気もしますが」

浅野「高校生についてはそうですね。ただ、筑波も途中でJに行く選手や直接海外に行く選手が出てきていますから。やはり大学サッカーもここ数年でかなり変わってきていて、制度面の変更で今後はさらに過渡期的な状況を迎えるだろうという話を小井土さんはしてくれています」

川端「部活がクラブ化していく流れもありますし、登録制度自体が変わりそうですもんね。大学サッカーも教員の監督が良くも悪くも減った影響があって、『大学』ってより『サッカー』になってきてるのが大きな変化なんだという話を(長年大学サッカーを取材しているライターの)ドン飯嶋玲子さんも十年前くらいからおっしゃってましたね」

浅野「小井土さんもその違いは言っていましたね。彼は教員でもあり、大学の単位などもケアしながら指導できるけど、スポーツ的に特化している大学も増えてきている、と。もちろん、双方にメリット・デメリットがあるんでしょうけれど」

川端「昔はとかく『教員がやる』デメリットが強調されがちでしたが、トータルではメリットも大きいんですよね」

浅野「実際に大学サッカー部がスポーツに比重が傾くことで、デメリットが見えてきた部分もあるんでしょうね」

川端「これまたよくも悪くもですが、『外部の指導者』は学校に対して立場が弱くて主張できないとかもありますしね」

浅野「今回のインタビューで小井土さんも強調していましたが、筑波から途中でJに行く4年生の3人(加藤玄/名古屋グランパス、安藤寿岐/サガン鳥栖、諏訪間幸成/横浜F・マリノス)は単位をクリアして卒業資格を得てから行っているんですよね」

川端「筑波は昔から学業は厳しめですね。国立だから当然と言えば当然ですが。あと選手側にも『入ったからには卒業したい』という動機が発生しやすいのもあるのでは。そもそも入るのが簡単じゃないですからね。サッカー“だけ”では入れない学校です」

浅野「逆に『最終学年だからこその成長とか、後輩にその背中を見せる姿も、本来の大学スポーツの良いところだと思うので、彼らが最終学年になって出ていくという時に、後輩たちに残せるいいものが少なくなってしまうのは、デメリット』と今回のインタビューで小井土さんは語っています。最終学年をプレーすることで得られるものもあるわけで、選手側の成長という視点でも明確な正解はないですし、チーム側としては明確な戦力ダウンになるわけです。そういう意味では『外部の大学サッカー監督』はなおさら学校側から何を求められているかで指導での振る舞いも変わってきそうですね。大学サッカーの大会で結果を出すことなのか、Jに何人送り出したかなのか」

川端「あるいは、『特に問題を起こすことなく、そこそこの成績でいいから無難にやってほしい』くらいなのか(笑)。あと、『本当はプロの指導者をやりたいけど、そっちの椅子が空いてないからとりあえず大学で』みたいなケースも増えましたね。これは『非教員の大学サッカー指導者』のポジションの流動性や、そもそもの“椅子の数”が増えた影響もあるんでしょう」

秋春制とU-21 Jリーグで、どう変わる?

浅野「2026年夏からU-21 Jリーグが始まれば、大学に在籍しながらU-21の方に出たり、途中でプロになるケースがもっと増えていくと思うんですよね。その場合、『外部の大学サッカー監督』はどう考えるのだろうというのも気になりました」

川端「まあ、『結果』にこだわるなら『選手を行かせたくない』になるだろうけど、現場の監督に何かを言う権限があるかな。あと、『Jリーグに行きたい』監督なら、そもそもJリーグとの関係性を良い形で作りたいと思っちゃうだろうからね。ついてる代理人がJクラブと関係の深いところというパターンも多いだろうし。教員監督よりむしろ『どうぞどうぞ』になるのかもしれない。むしろ、大学サッカーとのコンフリクトは、秋春制がどうやっても馴染まないところでしょう。『大学生活が春から始まる』こと自体は、動かせるとは思えないですからね」

浅野「Jリーグの始まりに合わせると、プロに行く選手は6月いっぱいでいなくなる感じになるのかな?」

川端「それなら新チームになる前に抜けてもらったほうが……ということになるのかもしれない。ただ、Jクラブからすると、『(シーズン途中の)1月に急に来られてもなあ』って感じもあるでしょう」

浅野「それは高校生も一緒だよね。Jと学校のどちらかが犠牲になるしかないから難しいな」

川端「高校生は『戦力未満を獲得する』イメージもあるだろうから、ちょっと違うかもね。それこそU-21カテゴリーを作るわけだし。ただ、大学生は即戦力前提でしょ。だから余計に『監督が誰か』とか、『同じポジションに誰がいるか』とかが加入に当たっては大事になる。しかも獲得自体は遅くとも春から動かないというふうに考えると、体制未定の前シーズンから『翌シーズン半ば(1月)の補強』について動く……いや、無理だ(笑)。とんでもないミスマッチが頻出しかねない」

浅野「『あんなに熱心に口説いたのに同じポジションに外国籍選手獲るんだ』というのは絶対に大学の指導者は考えちゃいますからね(苦笑)」

川端「そこはまた違うんだよな。学校関係者はよく『スカウトにウソをつかれた』と言いがちなんだけど、大抵はウソのつもりはなく、『その時点ではそうだった』って話ではあるのがほとんどだと思う。特に今のJリーグは選手の移動がかなり流動的になっているから。ただまあ、そもそも、スカウトやら強化担当者が見せる『熱意』とか『誠意』とか、もっと疑ってドライな判断したほうがいいぞ、とは思っています」

浅野にもこの話したな。お金のあるJ1クラブのスカウトのほうが熱心に足を運んでくれるから『熱意』を感じちゃいがちだけど、実際に出られる可能性が高いのはお金がなくてスカウトを送る余裕がないJ2やJ3のクラブの方という……」

川端「あとシーズンがズレることによって、『スカウトマンが学年の途中で入れ替わる』ことも結構起きるようになるだろうね。これもまた、いろんなコンフリクトの根っこになりそう」

U-21区分に込められた背景と「距離の問題」

浅野「話を戻すと、こんなふうに秋春制やU-21 Jリーグ後の諸問題をいろいろと考えていくと、日本の選手獲得=スカウティングはかなり変わらざるを得なくなるというのが見えてくるので、一度ちゃんと考えてみたいな、ということですね」

川端「考える材料を提供したい、的な?」

浅野「まさにそうです!バシッと答えは出ないものなので」

川端「では、今回の特集の中で特におっと思った情報や考え方はありますか?」

浅野「また具体化はしていないみたいですが、清水の反町GMが語ってくれた『O-16、U-23、トップというカテゴリー分け』は『なるほど』と思いました」

川端「簡単に説明してもらっていいですか」

浅野「詳しくはこの記事を読んでほしいのですが、U-21 Jリーグは実際にU-24の選手を4人オーバーエイジで使える(※初年度はこれに加えて、年齢無制限のOAも6名起用可能)ので、そもそもU-23のカテゴリーがあれば、大卒選手もアカデミーの選手も入れ込めるということですね。以下、反町さんの発言を引用しますね。

 『もともと自分もJリーグのフットボール委員会の方に携わっていたので、意見をいろいろ言わせてもらったんだけれども、『なんでU-21にする必要があるんだろう。U-23にすればいいんじゃないの?』と。このU-21のフォーマットだと、ユースから無理やり感を持って上げる選手が出てくる可能性もあるわけですよ。それが彼らにとって本当にいいことなのか、ですよね。

 ポストユースということで19歳、20歳、21歳という考え方があるのと、ヨーロッパが『U-21』という言葉を使っているので、それに足並みをそろえたのかなと。それ自体はいいんですけど、ヨーロッパと日本では学校のシステムが違うので、そこもちょっと無理やり感はありますよね』(引用ここまで)

 『U-21』というカテゴリーが日本のサッカー事情に合っていない部分があるから、U-23チームを作ったほうがいいのではという問題提起ですね。案それ自体の是非というより、『言われたから対応する』ではなく、問題に対して主体的にアプローチしている反町さんの姿勢が本質的だなと感心しました」

……

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Profile

川端 暁彦

1979年8月7日生まれ。大分県中津市出身。フリーライターとして取材活動を始め、2004年10月に創刊したサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊事業に参画。創刊後は同紙の記者、編集者として活動し、2010年からは3年にわたって編集長を務めた。2013年8月からフリーランスとしての活動を再開。古巣『エル・ゴラッソ』を始め各種媒体にライターとして寄稿する他、フリーの編集者としての活動も行っている。著書に『Jの新人』(東邦出版)。

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