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海外からの興味、Jリーグのシーズン移行、新人年俸上限の引き上げ。「ここからスカウトの差はより出てくると思う」筑波大学蹴球部・小井土正亮監督インタビュー

2025.10.20

【特集】これからのJスカウトに求められる視点#8

今や「欧州組」「日本人対決」という言葉が陳腐化するほど、数多くの日本人選手が海を渡って活躍している。欧州各国からの評価も年々向上し、10代の選手たちのキャリアプランに夢ではなく、リアルな選択肢として「欧州クラブ」が加わるようになった。日本でも秋春制の導入、U-21 Jリーグの創設など大きな改革が進む中で、才能の原石を見つけるプロたちは何を考えているのか?――これからのJスカウトに求められる視点について様々な角度からフォーカスしてみたい。

第8回は筑波大学の小井土正亮監督。プロ注目のタレントを多数抱える筑波にも変化の波は押し寄せている。今季は“4年生”としてプレーするはずだった3人の主力がプロ入りを決断し、エースの内野航太郎は“3年生の夏”というタイミングでデンマークへと旅立った。小井土監督には大学サッカー界自体の現状や、今後のJクラブとの関わりかたも含めて、選手を輩出する側の視点で「スカウト」の現状とこれからについて話を伺っている。

J2のルーキーは明らかに大卒が増えている

――小井土さんが筑波大の監督に就任されたのが2014年ですね。そこから10年あまりの時間で、大学サッカーからの人材輩出という面ではどういう変化があったでしょうか?

 「1つは日本代表に大卒でも入れるということが、森保(一)監督が就任されてから顕著になって、今まで大学に入ってくるところで考えれば、『プロになれなかったから大学で頑張る』という選手が多かったですけど、本当にサッカー選手として成功するためのキャリアを考えた時に、『大学を経由することも全然アリだな』というマインドに変わったのは、この10年での大きな変化だと思っています。

 また、いわゆる“入りのところ”で、プロになれたにもかかわらず、あえて大学を選ぶ者が出てきたことで、“出ていくところ”でも入ってきた時よりいい状態で出ていきたいと思っていますし、送り出すこちら側としても入ってきた段階でプロになれた素材の選手を、もう1つ上のステージへ上げて送り出さないといけないというのは、また違う作業ですよね。『高卒の段階でプロになれなかったから、この4年間で必死にやって、プロになった選手を追い越すんだぞ』という形ではない育て方もあるのかなと。

 あとは明らかに変わったところは、山内翔(ヴィッセル神戸)が卒論でまとめたんですけど、J2のルーキーは明らかに大卒が増えていると。J1はずっと高卒の方がプロになる選手が多いですけど、J2は明らかに高卒の数は右肩下がりで、大卒の数は右肩上がりです。2019年ぐらいは、まだ高卒の方が多かったのが、今はもう3倍ぐらい開きがあるんですよね。

 J3にいたっては、やっぱり即戦力でタフにやれる選手という意味で、もともと大卒の方が多いですし、特にJ2でも高卒の選手を育成する力はなかなかないのかなということも、こういったデータから見て取れるかなと思います」

――J2やJ3に即戦力として期待される大卒の選手が増えるという意味では、正直入団しても悠長に成長するのを待ってもらえる状況ではないですよね。それは送り出す側にとってはいかがですか?

 「本来海外だと、セカンドチームやU-21チームがその国の3部や4部リーグに所属していて、そこで出場機会を得て、上を目指していくというシステムがある中で、日本だとJ1のクラブで高卒を獲っても、普段の練習は試合に出るための練習になってしまうので、強度は低いと。

 かといって、外国人監督だと週末にほとんど練習試合を組まない人もいると聞きますし、高卒1年目や2年目の選手をレンタルで出しても、J3だって甘くないので試合に出れなかったりするわけで、特に18歳のクラブのアカデミー出身の子たちはなかなか苦しいなと、見ていて思うんですよね。

 その突破口でU-21 Jリーグを始めるんでしょうけど、それもお互いの真剣具合がどれぐらいのものになるのかを見定める必要があって、ただの練習試合の延長線上ぐらいになってしまうのなら、『大学リーグで本気の試合をした方がいいんじゃないの?』と見えてしまうでしょうし、来年は大きな転換期になるのかなとは見ています」

2023シーズンの関東大学サッカーリーグでMVPに輝いた山内翔

『U-21 Jリーグ』創設が大学サッカーに与える影響

――今、お話が出ましたが、『U-21 Jリーグ』に参加するチームは新卒の選手のリクルーティングが変わってくると思います。この『U-21 Jリーグ』ができることで、筑波大の選手の獲得が変化していきそうな感じはありますか?

 「筑波大に関しては、正直変わらないだろうなと思っています。大学生はプロではないので、当然勉強もしなくてはいけないですし、学費や部費といったお金を払ってサッカーをしているわけで、そこに意義や価値を見出す選手もいれば、一刻も早くプロになりたくて、『U-21 Jリーグにしか出られなくてもいいから、Jリーグに行くんだ』という選手では、そもそものメンタリティが違います。

 大学に来てはみたけれど、全然自分のやりたいことはやれないし、もやもやしながらくすぶってしまうような選手は、すぐにでもU-21 Jリーグに飛んでいくと思うので、大学サッカーも『我々はこういうことをやっているよ』という情報をオープンにしたうえで、来たい選手がくればいいですし、一方で高校生にとっては『U-21 Jリーグでもいいからプロになりたい』という、その選択肢が増えるだけだと思うので、大学サッカーの質が下がっていくような、ネガティブな面はないのかなと思います」

――それは想定として、大学サッカーにマッチしないなと思ったら、1年生や2年生の段階で大学をやめて、『U-21 Jリーグ』の出場を念頭にJクラブへ行く選手が出てくるということでしょうか?

 「はい。僕はそれも悪くないことかなと思っていますが、韓国はそれで大学サッカー界がだいぶ厳しくなってきているんですよね。プロになりたかった選手が入学してきて、1年や2年で活躍したら、そもそも大学サッカー自体に価値を見出していないので、すぐにKリーグに行ってしまっていると。

 日本の大学サッカー界でも『軽んじられるのは嫌だよね』という話はしていますし、入ってきた以上は『ここで最後までやり切るんだ』という想定は前提として、それでもその選手の本気具合を見定めることで、違う選択も出てくると。実際に今年は筑波からも3人の4年生がJリーグに行きましたし、大学サッカーでは力を持て余しているから、上のステージでサッカーをやるというのは、サッカー選手のキャリアを考えたときにはアリだと考えています。

 でも、『大学サッカーでうまくいかないし、同じようなレベル感のU-21 Jリーグがあるから、そっちに行って試合に出ます』というぐらいの軽い考え方の選手は、U-21 Jリーグに行っても成功しないと思います。ただ、当然新しい制度なので、それがしっくり来るまではそういう選手も出てくるだろうなと。ここ1、2年はいろいろなケースが出てくるでしょうね」

今シーズンは3人の“4年生”が一足先にプロの世界へ

――先ほど話題に出していただきましたが、今年の筑波は加藤玄選手(名古屋グランパス)、安藤寿岐選手(サガン鳥栖)、諏訪間幸成選手(横浜F・マリノス)と3人の4年生が、卒業を待たずにプロ入りを決断しました。その事実が筑波大蹴球部や、後輩たちに与えている影響はいかがですか?

……

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Profile

土屋 雅史

1979年8月18日生まれ。群馬県出身。群馬県立高崎高校3年時には全国総体でベスト8に入り、大会優秀選手に選出。2003年に株式会社ジェイ・スカイ・スポーツ(現ジェイ・スポーツ)へ入社。学生時代からヘビーな視聴者だった「Foot!」ではAD、ディレクター、プロデューサーとすべてを経験。2021年からフリーランスとして活動中。昔は現場、TV中継含めて年間1000試合ぐらい見ていたこともありました。サッカー大好き!

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