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Jリーグのホームグロウン制度が抱える矛盾。「育てる」「売る」はOK、でも「プロにする」はNG

2024.09.08

喫茶店バル・フットボリスタ~店主とゲストの本音トーク~

毎月ワンテーマを掘り下げるフットボリスタWEB。実は編集者の知りたいことを作りながら学んでいるという面もあるんです。そこで得たことをゲストと一緒に語り合うのが、喫茶店バル・フットボリスタ。お茶でも飲みながらざっくばらんに、時にシリアスに本音トーク。

今回のテーマは、高卒選手がJリーグで出場機会を得られないという「ポストユース問題」だったが、それを起点にした高体連とクラブユースの現状から、Jリーグのホームグロウン制度やABC契約といった時代に合わない制度が引き起こしている「本末転倒な現象」まで、過渡期のJリーグが抱えている問題点を幅広く議論してみた。

今回のお題:フットボリスタ2024年7月特集
ポストユースの壁に挑むルーキーたち

店主 :浅野賀一(フットボリスタ編集長)
ゲスト:川端暁彦

バル・フットボリスタが書籍化!

インターハイの独立。徐々に変化する夏のサッカー

川端「マスター、今年の夏も暑かったね」

浅野「やばいくらい暑いね。長時間外にいた時は日焼け止めを貫通して日焼けしていたなんてこともありました」

川端「専らインドアの人っぽい感想だ(笑)」

浅野「川端さんはいろいろ出かけてたでしょ。インターハイにも行っていたみたいだけど、大丈夫だった?」

川端「今年のサッカーのインターハイは東京で過ごすより快適でしたよ(笑)。女子は北海道だし、男子は福島の太平洋側ですからね。30℃を下回る日もありました。友達のベテランライター・森田将義さんは『北海道開催の昨年、Jヴィレッジ開催の今年は体が楽』という話をしていましたが、まあその通りだな、と。もちろん、暑いのは暑いんですが、常識の範囲内というか(笑)」

浅野「夏が暑いこと自体は自然なことではあるもんね」

川端「冷夏になったら農作物は死滅しますからね。それはそれで困ります。でも実際、鹿児島の神村学園の選手なんて『(鹿児島に比べて)めちゃくちゃ涼しい!』と言っていましたからね。連戦の末に迎えた昌平と神村学園の決勝もかなりハイパフォーマンスを出し合う試合になってましたが、これも暑さが穏やかだった影響はあったと思います」

浅野「福島県のJヴィレッジがメイン会場だよね? あのあたりは結構涼しいんだね」

川端「福島県の内陸側、会津とか郡山とか、あっちの方はめちゃくちゃ暑いと思いますが、海側は比較的涼しいと思います。あくまで『比較的』ですけど、でも東京や群馬とは比較にならないですよ(笑)。もっとも、福島が地元の人によると『例年より暑い』とのことでしたが」

浅野「インターハイは酷暑の連戦のイメージだったから意外だね。例年、夏に群馬でやっている大会もあったよね?」

川端「群馬でやってるのは日本クラブユース選手権(U-18)ですね。インターハイは全国の持ち回り開催で、今年は本来、北部九州開催です。それだと連日35℃超えの中で試合とかになっていたと思います。逆に去年も北海道が当番だったので、すごく涼しかったですね。昼間に26℃とか28℃とかの中で試合しましたから。ただ、持ち回りだと、トンデモなく暑い場所も必ず巡ってくるので(笑)、サッカーは独立して開催地を定めようということになったわけです」

浅野「それは賢い選択だよね。夏のスポーツ開催はサッカーに限らず、涼しい場所に固定した方がいいかもしれない」

川端「屋内競技はエアコン入れられれば別にいいと思いますけど、屋外競技、しかもサッカーのように走り続けなければいけないような競技特性だと厳しいですよね。サッカーも田嶋幸三前会長が『もうやめよう』と決断して、コロナ禍前から動かしてきた『インターハイ独立』プランが形になりました」

浅野「しかし、インターハイでサッカーだけ独立なんてできるもんなんだね」

川端「ラグビーみたいな先例もありますからね。もちろん、それを受け入れてくれる自治体や施設があるのが大前提ですけど。高体連自体から独立して高野連のように“高サ連”を作って出ていこうみたいな構想も一部にあったくらいですから」

浅野「なるほど、単一スポーツで活動しちゃえるようにしようということか」

川端「“高体連ルール”みたいなのがサッカーの文脈に合わないことはよくありますからね。転校した選手の扱いとか、そんなに厳しくしなくていいじゃん、というのがあったりね」

浅野「サッカーだと本来『移籍』はあってしかるべきだけど、他のスポーツの基準になるのか」

川端「スポーツじゃなくて“高体連”の基準ですね。転校した選手の扱いで言えば、サッカーみたいな競技の感覚と、陸上とか柔道みたいな個人競技の感覚ってまるで違うわけです」

浅野「なるほどね。何にしても、この暑さだとパフォーマンスもそうだし、単純に危険だったからね。観てる側もきついし」

川端「実際、倒れる人って観てる側が多いんですよ。そりゃそうですよね。普段デスクワークしかしていないお母さん・お父さんとか、お年を召されたおじいちゃんやおばあちゃんも来ますから。応援の先生や生徒もアウトドアタイプじゃなくて、浅野さんみたいなインドアタイプもたくさんいるわけで」

浅野「俺も普段デスクワークばかりだから、炎天下で長時間外にいるのはかなりきつい。というか、普通に具合が悪くなります。ここ2、3年の暑さは、またステージが変わってませんかね?」

川端「データ的にはそこまで極端な急変はしてないですよね。あくまで徐々に暑くなっていっているという形です。ただ、我々の体力が加齢に伴って落ちているというのはあると思います(笑)」

浅野「あー、それはあるね、きっと(笑)。少しずつ暑くなっていくのと、自分の衰えがリンクしてよりキツく感じるようになっているのか」

川端「あと、コロナ禍以降、オンラインでの在宅仕事が増えて、より弱くなっているのはありそうです」

7月の月平均気温が統計史上最高となった日本。8月も計測以来、2番目に高い数値を記録していた

「高卒即海外」がユース年代に与えている影響

浅野「それも思い当たる節がめっちゃあるな(苦笑)。環境面ではなく、プレー面についてインターハイで印象に残ったことはありますか?」

川端「変な言い方に聞こえると思いますが、『強いチームが残った』ということでしょうか。8強のうち7強が高円宮杯プレミアリーグ所属、もう1校もプリンスリーグ関東の桐光学園。そして4強はすべてプレミア所属チームが残りました。事前に『強そう』と思われていて、近年の実績を積み上げてきているチームが勝ち残った形でしたね」

浅野「パフォーマンスが発揮しやすかったから番狂わせが起きにくくなったのかな?」

川端「優勝した昌平のスタッフはそういう見立てをしていましたね。あと、天然芝の試合が多かったのも影響あるかなと思います。唯一、大津の初戦敗退は少し驚きを持って迎えられていましたが、内容的には上回っていたし、相手も関西の強豪・阪南大高校なので、サッカーでは普通にあり得る範囲だったというか」

浅野「素人質問で恐縮ですけど、今の高校サッカーとクラブユースサッカーの力関係ってどんな感じなのでしょう? 高円宮杯プレミアリーグに所属しているチーム数とか、単純に一番強そうなチームはどこかとか(笑)」

川端「そういうことなら、ちょうど前期が終わって対戦が一巡している高円宮杯プレミアリーグの順位表がわかりやすいでしょう。さっき『大津の初戦敗退が』と言ったのは、まさにこの順位ゆえですね」

浅野「なるほど。思ったより高体連が多いが、一言では言えない順位表だな(笑)」

川端「高校サッカー側にとってリーグ戦のプライオリティが上がった結果でもあると思います。『カテゴリーの高いリーグにいるチームに中学生が行きたがる』という、ある意味で当たり前の現象が間違いなく拡がってますからね。ガンバ大阪やセレッソ大阪、清水エスパルスのユースが揃ってこの表にいないなんて、一昔前はちょっと考えられなかった状態ですし」

浅野「そうだよね。名門アカデミーがプレミアリーグにいないなとは思った。ガンバはクラブユース選手権を制していたけど」

川端「近年のクラブユース選手権は『リーグ戦で振るわなかったり、下部リーグにいるチームがモチベーション高く戦って結果を出す』という、ある意味で非常にカップ戦っぽい感じになってきていますね。ただ、チームとしての結果なり順位なりだけで力関係が見えるかというと、そう単純な話でもないとは思います。やっぱり『有力』と見なされる、高卒ですぐにプロへ行きそうな選手の大半はJユースに在籍していますしね」

浅野「なるほどね。この前、横浜FCのMCO戦略について取材してきたんだけど、横浜FCはアカデミーの海外戦略に本格的に乗り出していて、クラブとして若手の欧州移籍のバックアップ体制を整えているんだよね。そういうクラブに徐々に選手が集まるようになってくるのかもしれないね」

川端「高校サッカーだと、神村学園なんかも結果的にそうなってきていますよね。福田師王以降、『欧州行き』の選択肢が当たり前になり、今年もそこで迷っている選手がいますから」

浅野「名和田我空選手ですよね。どうするんだろうなとは注目しています」

川端「インターハイで話した時は、『言えないとかじゃなくて、ガチでまだ迷ってます』って感じでしたね。どっちを選ぶにしても、たくさん迷って考えて、自分で決めればいいと思います。『こっちの道を選べば絶対成功する』なんて選択肢は人生に存在しないので」

インターハイでは9ゴールで得点王に輝いた名和田。年代別代表の常連で昨年のAFC U17アジアカップでも得点王&MVPに輝いた超逸材だ

浅野「それはそうだね。Jリーグで高卒選手たちの出場機会がないというポストユース問題が叫ばれて久しいですが、U-17アジアカップでMVPを獲得した名和田ですらJ1に行ってどういう扱いを受けるのかは未知数ですからね」……

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Profile

川端 暁彦

1979年8月7日生まれ。大分県中津市出身。フリーライターとして取材活動を始め、2004年10月に創刊したサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊事業に参画。創刊後は同紙の記者、編集者として活動し、2010年からは3年にわたって編集長を務めた。2013年8月からフリーランスとしての活動を再開。古巣『エル・ゴラッソ』を始め各種媒体にライターとして寄稿する他、フリーの編集者としての活動も行っている。著書に『Jの新人』(東邦出版)。

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