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「和式VS洋式論争」って何? 指導者がJapan’s Wayに思うこと

2020.03.23

戦術的ピリオダイゼーション vs Japan’s Way #1】らいかーると×浅野賀一footballista編集長 【対談】

JFAが主導となって進めている「Japan’s Way」とは、欧州サッカーの真似事をするのではなく、日本独自のサッカースタイルを追求・確立すること目指した大方針だ。その一方で、近年の欧州サッカーの戦術革命をどうキャッチアップしていくかも大きな課題である。Japan’s Wayと欧州サッカーの進化の折り合いをどうつけるか――この「和式VS洋式論争」について、『アナリシス・アイ』の著者で、長年にわたり育成年代を指導してきたらいかーると氏に見解を聞いてみた。

ゲームメイカーを生んだ「負の側面」

浅野「日本サッカーは強い『個』を育てることを意識してきましたが、そこに重きを置き過ぎて、今の欧州のチーム作りの考え方――11人の意思決定をいかにそろえるのか、そのためにどんなトレーニングをするのか――のキャッチアップが遅れているのではないかと感じています。例えば、戦術的ピリオダイゼーションポジショナルプレーの発想を育成に入れていかないと、5年、10年後にとんでもないビハインドになってしまうんじゃないかと。その一方で、海外組の数はかつてないほど増えていますし、彼らが早いうちに海を渡るから欧州サッカーを知るのはそこからでも問題ないという考え方もあります。あとは『Japan’s Way』ですよね。『欧州のコピーではいつまで経っても勝てない』ので、日本独自の戦い方を模索する流れはずっとある。FC今治の岡田メソッドもこの延長線上にあるのかもしれません。このいわゆる『和式VS洋式論争』について、らいかーるとさんのお考えをお聞きしたいなと」


らいかーると「欧州のコピーではいつまで経っても勝てない……。そこが引っかかりますね」


浅野「引っかかるというのは?」


らいかーると「結局、サッカーはサッカーじゃないですか。だから、例えばポルトガル代表の真似をしたらポルトガル代表に勝てないのか?って言われると違うと思います」


浅野「『Japan’s Way』というのは自己実現でもあると思います。W杯の舞台で日本独自のサッカーを見せつけて世界を驚かせたい、という。ただ、確かにそれって勝つのとは別のベクトルの欲求かもしれません」


らいかーると「日本が世界で安定して上位に立つには、『トップレベルで日常を過ごせる選手をどれだけ増やせるか』『CLベスト4でプレーできる日本人がどれだけいるか?』だと思うんですよ。やっぱりW杯で上に行くチームはそういう選手をそろえている」


浅野「単純にW杯で優勝候補と言われる国はそうなっていますよね。では、初めて『Japan’s Way』について聞いた時はどう思われましたか?」


らいかーると「僕がちょうど指導者ライセンスを取る時に出てきたんですけど、特に何も……。サッカーはサッカーじゃない?っていう」


浅野「らいかーるとさんがおっしゃったように、一番レベルの高いコンペティションは間違いなく欧州です。今後もそれが変わる可能性は低い。だったら、『そこでプレーできる選手を数多く輩出していけば、必然的にW杯でも上位に行けるようになる確率が上がってくるんじゃないか?』という考え方ですよね?」


らいかーると「はい。そこにたどりつくためには欧州の基準で考えていかないと、向こうに行けないです」


浅野「現実問題として、サッカー強国であるブラジルやアルゼンチンでもそう考えてますもんね。南米のクラブは欧州に高く売れる選手を計画的に育てて儲けたい、というビジネス的な考えも強いと思いますが」


らいかーると「やっぱり、欧州のやり方や欧州の評価基準を戦略的に見極めていった方がいいです。そう考えると欧州を完コピできるくらいに突き詰めるのも、それだけではダメですけど、一つの手だと思います」


浅野「完コピしても日本の特徴は残りますからね。でも、今の日本の育成はガラパゴス化しているように見えます。子供のサッカーでみんな『へい、へい』言うのが象徴的ですが、とにかくボールを要求する文化があって、ボールの周りに人が密集する。その副産物としてめちゃくちゃ狭いスペースでのコンビネーションプレーや中島翔哉みたいな足下の技術に特化した選手を生み出しています。ポジショナルプレー的な発想を育成に入れ過ぎてしまうと、この強みが消えてしまう可能性もあって難しいなと……。とはいえ、ファーストプレスを2人同時に行っちゃったりとか、相手がビルドアップのやり方を変えているのに指示されたままのプレスの方法を継続しちゃうのはマズいなと。それって何も地図を与えられないままピッチ上で選手たちがその場で最適解を判断しようとしているから起きるミスであって、チームとして意思決定基準がきちんと設定されていないんじゃないかと感じることがあります」


らいかーると「現状では判断基準やプレー原則がないチーム、または完全にパターンしかないチームが多いと思います。もしくは、1つの局面にだけやたら特化しているチーム。例えばボールを持つことに命を懸けているチームは、相手がプレスをかけてきたらどうするのか、すごく設定してきます。一方で、一時期は意味もなく必ずアンカーを降ろすチームもあったりして」


浅野サリーダ・ラボルピアーナみたいな」


らいかーると「それはまた違うよな!と」


浅野「それじゃあパターンプレーと同じで、それをやる理由が抜け落ちてしまっていますからね」


らいかーると「簡単に言うと、そのせいで前線の人数が足りなくて点が入らないとか。そうした戦術対応力はまだ、個による解決に委ねられているとは思います」


浅野「選手に全体像を教えないとそうなりますよね。構造を修正するんではなく、構造を変えるという発想がないから、全体のマッチアップのズレや局面で人数が足りなくなった時は根性で走ってカバーするしかない、という」


らいかーると「あと、個に委ねられる育成で生まれてくるのは、遠藤保仁、柏木陽介、柴崎岳みたいに一人でチームの組織を整えられる選手ですね。本来はチーム全体でやることを誰もやらないから、自然とそういう能力を身に着けてきたのでしょうね。もう『ゲームメイカー』って言葉は死語かもしれないですが、それはちょっと独特かな!と思います」

遠藤保仁
柏木陽介
柴崎岳


浅野「確かに今の欧州サッカーでは1人の選手の意思決定でチームが動くのは、なくなりましたね」


らいかーると「もうないです」


浅野「今では多くの国で全員の判断基準をそろえる戦術的ピリオダイゼーション的なやり方をしていますからね」


らいかーると「よく日本のSBが欧州クラブに買われていた理由もそこにあると思います。個による解決にも限界があるので、判断基準がない中でも周りの選手と波長を合わせたり、一つひとつの局面で自分で最適解を出す訓練を積んできた。そういう選手は『やばい!正解がない!』という状況でもなんとかする術を持っていたりするんですよね」


浅野「サッカーには教科書にはないシーンもたくさんありますからね。内田篤人なんかはチームとしては相手のプレスに嵌められてパス回しが詰まっていても、そこでどうにかしてしまう能力がありましたよね」

CLやブンデスリーガといった最高峰の舞台で、相手からの素早くかつ強烈なプレッシャーにさらされる中でも卓越した技術と優れた状況判断で確たる地位を築いた内田篤人


らいかーると「約束事がないから、答えがない中で答えを見つける能力を身につけていった選手が海外で評価されるのは、ちょっと皮肉で面白いです」


浅野「ただ、それって狙って生み出したわけではなくて……」


らいかーると「選手本人の生来的な資質とすごい努力によるものですよね」


浅野「そうしたメリットがある一方で、攻撃面でトップレベルでも守備面で大きな穴になってしまう選手もいますよね。中島翔哉がまさにそうですが。そうなると、使い方が難しい。圧倒的にボールを保持できるチームならいいですけど、そうじゃなければ攻撃から守備に切り替わる際にとんでもない場所にいるので、そこを相手に徹底的に狙われることになる。メッシやロナウドみたいに守備免除まで突き抜けちゃうと別ですが、もったいないですよね」


らいかーると「そこは難しいですよね。ほんと。それを代償にして技術を身につけてきたのかもしれませんし」

中島翔哉
19年10月のモンゴル戦でドリブルを仕掛ける中島翔哉

個に委ねるサッカーvs欧州基準のサッカー


浅野「育成年代で散々ボールと戯れた結果、ああした突き抜けた選手が生まれているという考え方もありますしね。ちなみに、現状の育成年代はたいぶ変わってきているんですかね?」


らいかーると「それこそ、育成年代からポジショナルプレーをやっているチームがあれば、気合いでなんとかするチームもあって両極端です。どちらのチームにも良さがあって、身につく能力は別々だと思います」


浅野「別々と言うと?」


らいかーると「例えばプレスが嵌っていないのにプレスを続けてしまうのは、今まで受けてきた指導の中で勝手にプレスの枚数を変えてはいけなかったり、勝手にシステムを変えてはいけなかったりと、チームの約束事を守ることを徹底されてきた結果かもしれません。一方で、ドイツW杯で優勝したイタリア代表は1人退場しても選手同士で話し合って監督を介さず対応したという話を聞きました。それは、小さい頃から自主的にうまくいっていない理由や逆にうまくいっている理由を試合ごとに蓄積してきた結果だと思います」

2006年ドイツW杯を制したイタリア代表。GS第2節アメリカ戦では前半のうちに、ラウンド16のオーストラリア戦でも後半開始直後に退場者を出したが、選手たちの落ち着いた対応で難局を乗り切り頂点にたった


浅野「それができるのは、選手同士でバランスを見出せる大人な選手がそろっているからですね。それが育まれるのは育成年代からのトライ&エラーの蓄積かなと。まったく地図を与えられることなくずっと根性でやっていっても、戦術対応力は鍛えられていかないので。高校サッカーでも、FWが相手のCBにプレスをかけて、パスが出たらSBにもプレスをかけて、ボランチにもプレスバックして……コイツどこまで走らせるのっていう(笑)」


らいかーると「高校サッカーに限らず、あるあるですね」


浅野「それをやらせてしまうと肝心のゴール前で力が残ってないですし、FWの決定力不足以前の問題ですよね。もちろん、そこから特異な選手が生まれることもあるでしょうけど。ただ、もちろん今はいろんなチームがいるんだとは思います。最近、川端暁彦さんから高校サッカーはゲームモデル的なサッカーをするチームが増えてきていると聞きました


らいかーると「昔に比べれば増えてきているとは思います。少しずつ上のカテゴリー、例えば関東(ユースサッカーリーグ)、プレミアリーグとか、プリンスリーグでもそういう指導者は増えてきている気がします」


浅野「いろんなチームがあった方がいいですよね。根性で戦うサッカーももちろん大切で、そこから特異な才能が出てくるのも確か。昔の国見なんてその典型ですよね。そういうチームとトレンドに乗ったチームが戦うのが理想かもしれません」


らいかーると「チームごとに特色がはっきりしてきましたね。昔の高校サッカーは2試合やると、1試合目と2試合目でやるサッカーがまったく違いましたが、そこは変わってきています」


浅野「選手が変わっても戦い方が一貫しているのは基準があるからですよね」


らいかーると「でも、一番大事なのはトップレベルですね。そこでプレーする選手が守備をとかを教わらないとならないと思うんですよね。海外に行っても、そういうことが身につくとは限らない。そういうところが日本サッカーの課題なのかなとは思います」


浅野「Jクラブのユースも含めてですよね?」


らいかーると「そうですね。そういうチームってなおさら目の前の結果が大事じゃないですか。個による解決に委ね過ぎない指導者もいると思いますけど、評価されるのはやっぱり結果なので、そっちに寄ってしまっている気はします」


浅野「特に強いチームほどいい選手が集まってきますよね」


らいかーると「そういう子は難しいことを教えなくても解き放つだけで活躍してしまうので、気持ちはすごくわかります。こう言うと結果より大事なことがあると言われるんですけど、その大事なことをうまく伝えられていないのかなって」


浅野「そういう状況はありつつも、徐々に良くなっているのでしょうか?」


らいかーると「結果を求めるチームが多いのでスピードは遅いですが、自分のチームより強いチームを倒す方法を求めていく流れはすごい速い気がします。それこそボールを持つチームが増えたこともあって、それを倒す方法を考える中でパスコースを切ったり、ブロックを組んだりと、ジュニアユースもユースもプレッシングの戦術は発展してきています」


浅野「逆に、日本の育成でテクニック至上主義で育った選手が欧州のサッカーを学んで変わる流れもありますよね」


らいかーると「今、レアル・マドリーの下部組織でプレーしている中井(卓大)君もその一例ですよね。日本の育成で足下の技術をすごく磨いてあっちの世界にいったので、指導者業界ではかなり注目されてます。そういう選手が欧州の教育を受けるとどうなるんだろう?と。そのまま彼が日本にいたら、中島みたいな成長の仕方をしたのかもしれません」

“ピピ”こと中井卓大も出場したキリンレモンCUP2019のハイライト動画


浅野「久保(建英)も同じ例ですよね。10代前半で渡った彼らは例外ですけど、10代後半で欧州に行く選手が増えています。先日も湘南(ベルマーレ)と契約していた若月(大和)がスイスのシオンへ期限付き移籍しましたし。日本の育成年代では個でチームを粉砕してきたタレントが上に進んで、早い段階で欧州に渡りヨーロッパでサッカーの枠組みを身につける流れは悪くないような気もします」


らいかーると「でも、日本で学んでから行くことができれば、もっと違和感なく欧州でやれると思います。それこそ、徳島ヴォルティス横浜F・マリノスの選手が海外にいって、どれだけ早く向こうのやり方に順応できるのかが一つの道しるべ、基準になるのかなと。例えば、日本的なボールの持ち方と海外的なボールの持ち方はやっぱり違うと思っているので」


浅野「さっきも言いましたが、日本だとボールに寄ってきますもんね。テレパシーで通じ合うようなコンビネーションプレーで、狭いスペースを打開してしまうのは日本独特です」


らいかーると「うちのOBを集めた時に、みんなそれを始めたのは面白かったです。そんなことは一切伝えてないのに、みんなあれをやるようになって帰ってきたのはほんと面白かったです。あれ?って。その時はDNAなのかな?!とほんとに思いました」


浅野「イングランド人を集めたらロングボールを蹴り始めるという話もありますが、日本人を集めたらパスを回し始める(笑)。やっぱり文化も関係してきますよね」


らいかーると「それをブラジルやアルゼンチンとか、他の国は自分たちのオリジナルだ!って考えてるんですかね? 逆に欧州の人は、これが俺たちのサッカーだ!なんて感覚はあるのかなって。当然、こういうサッカーをしよう!って感覚はあると思うんですけど」


浅野「だから、日本はそこに自己実現を混ぜているんですよ。『日本のオリジナルのサッカーを世界で披露して、世界から認められて誉められたい!』っていう。日本人のサッカーの捉え方は、パスのコンビネーションによる崩しだと思いますし、そこに楽しさを覚えることはもちろん大切ですけど、そういう長所を生かしつつ奪われた時の準備不足とかの明らかな弱点を改善していけばいいのかなと」


らいかーると「僕も苦手なんですけど、ボールを持ちながら守備の準備をする設計って難しいんですよね。ただ、トレーニングメニューに差があるのかなと最近思っています。全国大会で優勝を争うような大学生チームがちゃんとメニューを組んでいなかったり、全国大会に出場するジュニアユースがゲームしかしていなかったりするので」


浅野「結局は指導の差ということですかね」


らいかーると「そうですね。勝てば評価されちゃうから」


浅野「入念に設計されたトレーニングをしているからといって勝てるとは限らないのが、サッカーの面白いところだとは思うんですけど、トップのタレントを預かってるチームがそういうことをやらないと……」


らいかーると「むしろタレントを持たないチームの方が努力しないとどうにもならないので、いろいろ考えているイメージがあります」


浅野「そして、両者が戦うとタレントのあるチームの方が勝つ(笑)。サッカーをやるのは選手なので。で、結局何も変わらないと」


らいかーると「試合を見ていると評価は違うんでしょうけど、結果だけ見ると『結局負けたのね』ってなりますからね」


浅野「だから、ちゃんと欧州のやり方を導入しているチームが、ちょっと結果を残したりすれば……」


らいかーると「変わるでしょうね」

「ゲームモデル」か、「全部サッカー」か


浅野「一方で、Jクラブでもゲームモデルを導入する動きがあります。ベルギーの育成監査組織、ダブルパス社がJクラブのアカデミーを観察したんですね。そこでクラブ哲学がないと言われた。人が変わると全部変わってしまう」


らいかーると「日本は社会的にそういう傾向がありますよね」


浅野「そうした現状を踏まえて会社組織としてクラブ哲学やシステムを導入していく流れがあって、ゲームモデルを取り入れる動きが生まれている。ただ、過去を振り返ってみると欧州のトレンドをそのまま鵜呑みにして、教科書通りにやってしまうチームも多かったじゃないですか。そういう危険性もありますよね」


らいかーると「ドイツがそこで苦労しているイメージがあって」


浅野「ゲームモデルはそうですよね」


らいかーると「作り込み過ぎて若い子たちが死んでしまった」


浅野「弱くなってしまいましたもんね。だから、今はイングランドから若手を買ってますから」


らいかーると「だから、やっぱ難しいなと。2015年頃に現地の指導者から聞いたんですけど、スペインではゲームモデルではない『コンセプト主義』でやってる地域もあるそうです。昔、バルセロナの下部組織から他のチームへと移籍した選手が活躍できていないことが話題になって。バルサみたいなサッカーをするチームが増えた今も、そんなにブレイクしている選手はいないですよね」


浅野「カジェホンやモラタ、サラビア、ロドリゴとか、レアル・マドリーの下部組織出身選手の方がいろんなクラブで活躍している印象です」

ホセ・カジェホン(ナポリ)
アルバロ・モラタ(アトレティコ・マドリー)
パブロ・サラビア(パリ・サンジェルマン)
ロドリゴ(バレンシア)


らいかーると「だから、ゲームモデルが独特であるほどすごい難しいと思います。日本の場合、育成がぶつ切りじゃないですか。ジュニアからユースまであるクラブってそんなにないので、一つのゲームモデルを徹底的に追求すると、次のチームで絶対問題が起きると思うんですよ。特にゲームモデルを掲げているチームは、そのゲームモデルを誇りに感じていると思うんですよ。それを次のチームで否定された時にどうなるのかな?と感じていて。例えば、僕のチームはボールを大事にするサッカーをやっていたんですね。その方が楽しいじゃないですか。でも、そこからジュニアユースにいって、蹴って走れ!と言われた時に、疑問を持つ子が多かったんですよ」


浅野「プレーしていても面白くないでしょうしね」


らいかーると「しかも勝てなくなっちゃうと僕ら指導者も、いろいろ間違っているのかな?って問題意識が出てきます。サッカーを好きになってもらうことも大事ですが、どんなサッカーも結局はサッカーじゃないですか。プレスもそうだし、ゲーゲンプレッシングもそうだし、撤退して守備するのもそうだし。だったら、網羅する形にしないとだめなのかな!と」


浅野「攻撃、守備、ポジトラ、ネガトラの4局面を学ばせるべきということですよね。そのために、いろんなサッカーを経験させると?」


らいかーると「はい。15歳くらいまでに『とにかく全部サッカー』ということ理解してもらわないと、後から問題が起きてしまう」


浅野林舞輝さんも『育成年代ではいろんなシチュエーションを経験させないと絶対ダメだ』という話をしてましたね」


らいかーると「ある試合だけ蹴らせてみたりして、そういう経験を重ねて走るサッカーやプレスを仕掛けるサッカーに触れて、みんながさらにサッカーを理解できるようになりました。ただ、ゲームモデルを導入すると同じような局面が繰り返されてしまう」


浅野「ゲームモデルを忠実にやるほどそうですね。戦術的ピリオダイゼーションの『傾向の法則』は、まさにそういう考えですし。トップチームがやるならいいんですけどね」


らいかーると「それこそ、Jクラブならやった方がいいですよ。トップがこういうサッカーをしているから、そこに向かってやるんだよね!という筋道があるので。他にも青森山田や昌平みたいな中高一貫校だったり、ジュニアユースとユースがあるクラブはどんどんやればいいと思うんですよ。目的がしっかりしているじゃないですか。そうじゃないところは、長期的に見ると選手によくない影響を与えるかな!というのが結論ですね」


浅野「同じゲームモデルでやってきて途中で分断しちゃうと、悲劇ですからね。青森山田はうまくやっているように見えます」


らいかーると「それを承知の上で入学しているんでしょうし」


浅野「『そういうサッカーをする』というブランドが、選手を引き寄せる部分もありますしね」

「状況整理」と「課題設定」が指導者の仕事


らいかーると「昌平もそうだと思います。ただ、しっかりとゲームモデルを落とし込んでいるチーム同士が対戦しても差が表れる」


浅野「差というと?」


らいかーると「ゲームモデル以前の話なんですけど、引きつけて剥がせるかとか、相手を見ているかとか、正対して体の向きを作れるかとか。初歩的なところですね。ゲームモデルを導入する前の段階で、一人ひとりの選手にどのような習慣を身につけさせるかが大切ですね」


浅野「ゲームモデル以前の基礎、ファンダメンタルズってやつですね」


らいかーると「かと言って、ゲームモデルのないチームの選手がそういうのを重視しているかというと、必ずしもそうではない。『あ、このタイミングでボールを離しちゃうんだ』とか、『ここでターンしないんだ』とか、『そもそも相手を見なかったらどうするんだ』とか。それをやろうとすらしないのは一番良いないのかな、っていろんな試合を見て最近特に思います。そういうゲームモデルのもっと手前側の部分が気になったりしています」


浅野「でも、それってどういう教え方をしたらいいんですかね?」


らいかーると「スペインの指導者は作戦盤を持ってきて、選手に簡単な局面を与えるそうです。そこで質問すると、どの選手もいい答えを返してくる。つまり、みんな答えを知っているんです。それがピッチの上でできない理由は、『見てない』から。見ていたとしても状況がわかってない。だからまずは、そういうトレーニングをしないと話にならん! だから僕のチームでは、ボールを受ける前に首を振ること、ボールを持ってからゆっくりでも、失敗してもいいから、ちゃんと見て根拠のあるプレーをしろ!ということをすごく言っています。一人ひとりの選手にそういう意識を植えつけることが抜けちゃっているのかな?とは思います」


浅野「個人の認知や状況判断を鍛えるということですね。引きつければ空く選手がいる状況で、それができないのはそもそも『見えていない』からでしょうか?」


らいかーると「CBの子がフリーでも、何となく隣にパスしちゃう。聞いてみると、なんとなくやっちゃうみたいですね。引きつけて剥がすとか、誰も来なかったら前進するとか、基本じゃないですか。まずちゃんと見ること。あとは、どこを見ているかもすごく大事です。例えば、全然プレスに行かないFWがいたので『なんで行かないの?』って聞いたら、『CBがめちゃくちゃ見てくる。全然、顔が下がらないから行けないです』と言っていて。確か、(ディエゴ・)フォルランが『いいFWはCBと目が合う』って言ってたんですけど、ボールじゃなくて見るべきところをしっかり見てるんだな!と」


浅野「その経験の積み重ね、トライ&エラーのサイクルがどんどん早く回っていくようにオーガナイズするのが指導者の仕事ですよね」


らいかーると「それを整理してあげて、『この試合は前の試合と同じだよ』『あの時の経験と一緒だよ』って言えるかどうかですね。その時に何をしたのか覚えてると思うんですよ。それがダメだったらまた次のことやればいいし。その整理を選手にやらせるのは難しいと思います」


浅野「それができる稀有な選手は、遠藤とか柏木みたいに独自進化を遂げたゲームメイカーにクラスチェンジしていくんでしょうけど、才能があったのに埋もれてしまった選手もいると思うんですよ。だから、ポジショナルプレーや戦術的ピリオダイゼーションみたいな欧州の考え方が、日本の育成やトップに入ってくるというのは、ゲームメイカー的な資質はないけれど……みたいな別の才能が発掘されるという面でポジティブだと思います。おそらく“答えのない状況で答えを出せないような選手”は、その時点で『頭が悪い選手』として淘汰されてしまいますからね」


らいかーると「だと思います。それによって発見される才能も増えてくるでしょうし、全部が全部そうなる必要はない。いいとこ取りをしてもいいですし、それ(洋式)を倒すにはどうしたらいいか?という競争が生まれていくので」


浅野「だから、高校サッカーの強豪校やJクラブのアカデミーのように、年代別代表の選手を輩出するようなチームはゲームモデルを導入して、戦略的に選手を育てた方がいいですよね。そこで例えば走る能力が足りない選手がいたら、そこを鍛えるためにサイドで起用したりとか」


らいかーると吉田麻也もアンカーをやっていましたよね。CBで使えば勝てるけど、将来を考えればアンカーで使うのが大事だということですね」


浅野冨安(健洋)も中盤でやってましたしね。U-20W杯でCBコンビを組んでいた柏レイソルの中山だって、めちゃくちゃいろんなポジションをやっていました。そうやって同じゲームモデルの中でも、ポジションを変えたり工夫することで、その選手の短所を改善したり長所を向上させることはできますよね」


らいかーると「はっきり言って、戦術的ピリオダイゼーションにしろ、ポジショナルプレーにしろ、ゲームモデルにしろ、指導者をやる上では頑張って理解しないといけない。その上で採用する・しないを決めればいいと思います」


浅野「ヨーロッパの枠組みを無視するのは少なくともない、と」


らいかーると「無視するのはないですね。絶対にそれはやっちゃいけない。例えば、繋げないGKをこれから育てるのは完全に犯罪じゃないですか」


浅野「確かにそうですね」


らいかーると「〇〇だけやってりゃいいんだよ!っていうのは、結局はその子の将来で足かせになる。これだけ情報が集まる時代に、お前、何教わってきたんだよ!って100%言われますからね、次の年代の指導者に。そこにはやっぱり、世界に目を向けていろんなことをキャッチしていかないといけないです。世界を目指すとか何?とか、うちはそんな大げさなチームじゃない!とかじゃなくて、この子たちがサッカーを好きになって続けていってもらうためなので。だったら、その先で生き残る術を見つけだしてあげなきゃダメじゃん!って」


浅野「繋げないGKは、その時点で使われなくなっちゃいますからね」


らいかーると「それが理由でサッカーを辞められたら指導者の責任になりますよ。GKだったら、『繋げなくていいって言ったじゃん!』って言われてしまう。それはやっぱり違います。育成に携わっている以上は、キャッチアップして子供を導いていくのが責任かなと。リバプールに移籍した南野のように欧州のビッグクラブでチャンスをつかんでもらうために、日本の指導や環境が足を引っ張らないようにしたいと思っています」

2019年のアジアカップ・ラウンド16サウジアラビア戦でゴールを決めた冨安健洋を祝福する吉田麻也、南野拓実と武藤嘉紀


Edition: Masatoshi Adachi (footballista)
Photos: Getty Images, Ryo Kubota, Bongarts/Getty Images

戦術的ピリオダイゼーション vs Japan's Way ラインナップ

Profile

浅野 賀一

1980年、北海道釧路市生まれ。3年半のサラリーマン生活を経て、2005年からフリーランス活動を開始。2006年10月から海外サッカー専門誌『footballista』の創刊メンバーとして加わり、2015年8月から編集長を務める。西部謙司氏との共著に『戦術に関してはこの本が最高峰』(東邦出版)がある。