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各機関の足並みそろわず。リオ州選手権、大混乱の中の再開

2020.06.25

 6月18日、ブラジル国内の先陣を切って、リオデジャネイロ州選手権が再開された。3月半ばから州、全国、南米とすべての大会が中断された後の、3カ月ぶりのサッカー。後期リーグ第4節のバングー対フラメンゴ戦が18日に、ポルトゥゲーザ対ボアビスタ戦が19日に行われた。

再開当日も1200人超が犠牲に

 しかし、そこには残念ながら、ヨーロッパ各国リーグの再開のように、パンデミックの第一波を乗り越え、正常化へと歩み始めた社会を象徴するような歓喜はない。

 試合再開の日、新型コロナウイルスによる直近24時間の死者は、ブラジル全国で1238人。リオ州だけでも274人と、パンデミックが始まってから3番目に多い犠牲者数となった。

 フラメンゴ戦が行われたマラカナンでは、隣接する駐車場に新型コロナの重症患者用の仮設病院が設立されているが、この試合当日も54人が入院中で、2人が亡くなった。

マラカナンの隣には新型コロナウイルスの重症患者が入院する仮設病院があり、今も死者が出ている
(Photo: Rogério Santana/Governo do Estado do Rio de Janeiro)

 ブラジルは連邦制なので、州政府がコントロールできる範囲が広い。今や世界的に有名になったボルソナロ大統領の新型コロナ軽視にも屈することなく、各州は独自にロックダウンや厳しい外出規制を行ってきた。

 その甲斐あってリオ州でも、特にリオデジャネイロ市内の感染数は、ようやく下降に転じつつあった。しかし、外出規制が2カ月半を過ぎた6月5日、いよいよ経済がもたないことも考慮されて段階的解除が始まったことが、感染者の再増加に繋がったと言われている。

朝令暮改の大混乱

 リオのサッカー界は、この再開前も、再開後も、あらゆる決定が朝令暮改の大混乱だ。

 5月20日にはフラメンゴが、リオ市ではまだ禁止されていたクラブのトレーニングセンターでの練習を、勝手に始めてしまった。その後、そのフラメンゴとバスコダガマ、それに経営難から同調する小中規模クラブに押される形で、市は急遽、5月26日からのクラブでの練習を解禁した。

 一貫して早期再開に反対してきたのはフルミネンセとボタフォゴだ。自宅にいる選手とスタッフをオンラインで繋いだリモート・トレーニングを続け、チームが集まっての練習をスタートしたのは、それぞれ6月19日、20日だ。

本田圭佑を擁するボタフォゴは早期再開に反対の立場をとった(写真は2月の練習風景)
(Photo: Kiyomi Fujiwara)

 そんな中、リオ州サッカー連盟とリオ州選手権の参加クラブは、多数決で6月18日の州選手権再開を決めた。ボタフォゴとフルミネンセの試合も6月22日に設定されたが、両クラブは当然、断固反対した。

 ただ、この試合に出場しない場合は大会放棄とみなされ、罰則が適応される。罰金の上、来季は2部降格となるか、出場停止で3部への自由参加となるか。両クラブは「試合は7月1日から」を主張し、リオ州スポーツ裁判に持ち込んだが否認され、全国スポーツ裁判でも決着しなかった。

 そこで、無観客試合を解禁したリオ市政が強権発動をし、救済策として両クラブの試合のみ、6月25日まで停止とした。これに対し、リオ州サッカー連盟は2度、3度と対策を変更しながら試合開催に固執。

 そして、全国スポーツ裁判はついに、ボタフォゴとフルミネンセの試合を含む第4節の残り4試合を6月28日に、第5節の全6試合を7月1日に開催と決定した。

 両クラブは「良識をなくしたリオのサッカー」と強い遺憾の意を示しながらも、この決定に従うことを発表。3カ月ぶりのクラブでの集合から、わずか1週間で公式戦をプレーすることになった。

「人間性に欠けている」

 なぜ、これほどまでに先急ぐのか。もちろん各クラブの経営が成り立たなくなっているのが最大の理由だが、ブラジルの中でも感染数の低いリオグランデ・ド・スル州をはじめ、大半の州が目指しているのは7月後半の試合再開だ。

 しかも、強引とも言えるリーダーシップを発揮し、性急な試合再開を実現させたフラメンゴは、『TVグローボ』と放映権料が折り合わない中で、今も中継を突っぱねる余裕を見せている。

 フラメンゴの最大の目標はFIFAクラブワールドカップ優勝だ。今後、タイトル獲得を狙うブラジル全国選手権やリベルタドーレス杯で日程が立て込むことを避けるため、州選手権を早く終えてしまいたいのでは、という声もあるが、それらの2大会は日程も未定の段階だ。

 感染予防のガイドラインを守れば、選手の感染の可能性は低いかもしれない。しかし、試合が始まればソーシャルディスタンスの意識が薄らぎ、市民やサポーターが街に集まり始めるのではないか。サッカーはパンデミックの今こそ市民に歓喜を与えるべきか、それともソーシャルディスタンスの模範であるべきか。

マラカナンには消毒用のゲートが設置され、選手はそこを通って会場入りする。
写真はフラメンゴのフィリペ・ルイス(Photo: Alexandre Vidal/Flamengo)

 各局のスポーツ番組では、こうした終わりなき議論をすること自体を「恥ずかしい」とこぼす出演者もいる。元ブラジル代表、現在コメンテーターのジーニョは、準備不足による選手のケガを非常に心配している。

 マラカナンでの試合となるフルミネンセのウジソンは、クラブ主催のオンライン記者会見で慎重に語っていた。

 「これほどの性急さは理解できない。日程を決めた人たちは、人として動くというより、内外の利益のために動かざるを得なかったんだろう。(新型コロナの)病院があるマラカナンで僕らがゴールを決め、その横で人が亡くなっていくなんて、人間性に欠けている。だけど、僕らはサッカー選手だ。そういうすべてを乗り越えなければならない」


Photos: Alexandre Vidal/Flamengo, Kiyomi Fujiwara, Rogério Santana/Governo do Estado do Rio de Janeiro

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Profile

藤原 清美

2001年、リオデジャネイロに拠点を移し、スポーツやドキュメンタリー、紀行などの分野で取材活動。特にサッカーではブラジル代表チームや選手の取材で世界中を飛び回り、日本とブラジル両国のTV・執筆等で成果を発表している。W杯6大会取材。著書に『セレソン 人生の勝者たち 「最強集団」から学ぶ15の言葉』(ソル・メディア)『感動!ブラジルサッカー』(講談社現代新書)。YouTube『Planeta Kiyomi』も運営中。

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