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感謝や笑顔とともに――ジーコのチャリティーマッチでスターたちが共演

2024.01.03

 12月はブラジルの選手や元選手たちにとって、休暇を生かして積極的に慈善活動に取り組む季節。12月27日には、ブラジルサッカーの1年を締めくくる、年末恒例ジーコのチャリティーマッチが開催された。出場する選手や観客の誰もが「毎年マラカナンを満員にできるのはジーコだけ」と語る通り、第19回を迎えた2023年も、5万1000人の観客が訪れた。

久々に参加した大物も

 今回の1点目は元ブラジル代表であり、フラメンゴのアイドルであるアドリアーノが決め、スタンドは「皇帝が帰ってきた」のチャントで大いに盛り上がった。

イベントはアドリアーノのゴールで幕を開けた

 久しぶりの出場となった選手もいる。鹿島アントラーズでもプレーしたレオナルドは、ヨーロッパでミランやパリ・サンジェルマンなどビッグクラブのディレクターを務めていた時期が長い。フリーの現在、故郷で年末年始を過ごしている機会を生かして参加した。

 選手たちが通る取材エリアでは、そのレオナルドに写真やサインを頼むメディア関係者が続出し、人気ぶりがうかがえた。それにはにこやかに応じながらも、職業柄なのか、インタビューにはほとんど答えていない様子だったので、今回の参加についてのみ聞いてみると、笑顔で語ってくれた。

 「ジーコは僕らみんなにとって大事な存在だ。そして、僕にとっては永遠のお手本。だから、ここに来られるのはとてもうれしいことだよ。可能な限り、毎年来たい。ジーコと一緒にいられるのは子どもの頃からの夢だったんだから。アイドルであり、友達であり……すべてだよ。僕らにとって、ジーコはすべてを意味する存在なんだ」

 これを話してもらうのに、何度も中断された。会場に到着する選手たちも彼を見つけてうれしそうに、次々と通りすがりに声をかけていったからだ。

久々にフリーの立場になったことでイベント参加が実現したレオナルド

 ジーコと近況を語り合えることを喜んでいる選手たちも多い。元ブラジル代表で、クルゼイロやパルメイラスでも活躍したMFアレックスは、2021年から監督の道を歩んでいる。

 「ジーコは僕の幼少時代からのアイドルで、その後、トルコのフェネルバフチェで僕の監督になった。今は友達として、ここマラカナンでまた彼と一緒にいられるのが本当に幸せだ」

 元鹿島アントラーズのアルシンドは、サポーターにメッセージを送ってくれた。

 「2023年は娘が生まれて、今は7カ月。僕にとっても新たな人生の始まりだった。足首の手術もしてちょっと大変だったけど、今日は楽しんでプレーするよ。僕はジーコのチャリティーマッチの常連だからね。幸せと親愛を込めて、日本の皆さん、トモダチナラ、アタリマエ!」

アルシンドはおなじみのフレーズとともにメッセージを送ってくれた

 長年アルゼンチン代表でプレーし、ブラジルではインテルナシオナウの英雄だったアンドレス・ダレッサンドロも、住まいのあるブラジル南部ポルト・アレグレ市から駆けつけた。同市が地元であるドゥンガの慈善活動にも積極的に参加している。

 「ジーコとドゥンガは僕らのお手本だよ。サッカーで偉大な勝者となっただけでなく、今も助けを必要とする人たちに手を差し伸べている。こうして参加できることに感激しているんだ。サッカーは僕らに、尊敬すべき彼らや、他の選手たちと力を合わせる機会を与えてくれた」

ブラジルサッカーの歴史と共に

 2004年の第1回から振り返ると、時代やブラジルサッカーの歴史が見えてくる。2005年には現役時代にメディアからライバル同士として扱われてきたディエゴ・マラドーナと、2009年には長年に渡って犬猿の仲だったロマーリオとも一緒にプレーした。2011年には引退したばかりのロナウドと新星ネイマールが共演。2016年は航空機墜落の犠牲となったシャペコエンセへのサポートも目的とした。

 2019年はフラメンゴのコパ・リベルタドーレスとブラジル全国選手権優勝を祝って、その優勝メンバーたちと、ビニシウス・ジュニオールやルーカス・パケター、GKジュリオ・セーザルといった元所属選手たちが一堂に会し、サポーターを歓喜させた。2022年はブラジルの至宝エンドリッキが大先輩たちに混じって縦横無尽に駆け回った。そして今回は、1年前に亡くなった2人の偉大な人物、ペレとホベルト・ジナミッチを称えるセレモニーが行われた。

 1人の元選手が、これほど長年、そしてこれほどの規模でチャリティーマッチを開催し続けている例は他にない。それが、ジーコの呼びかけで集まってくる選手たちの、誇りと幸せの理由でもある。

「ジーコは僕らの王様だ」

 試合後にも、サポーターにとっては楽しい時間が待っている。居残った観客がスタンドの前列に集まると、ジーコは足を引きずりながらでも、笑顔でピッチを一周して、一人ひとりの写真やサインに応じるのだ。

試合後はたっぷり1時間半ほどかけてファンサービス

 初めてこのイベントを取材したジャーナリストたちはその姿に感嘆し、毎年の取材の常連たちは「試合後のジーコのコメントが欲しければ、軽く1時間は待つよ。2時間待った年もある」と、そのジーコの忍耐強いファンサービスを、なぜか自慢そうに話すのも恒例だ。

 今回も1時間半ほど待って、ピッチから引き上げてきた笑顔のジーコに、この日の成功について聞いた。

 「このイベントの成功に、それぞれの形で協力してくれたみんなに感謝ばかりだよ。スタジアムに5万1000人以上が集まって、スペクタクルを楽しんでくれた。多くの素晴らしい人たちが、ブラジルサッカーに喜びをもたらしてくれるんだ。現役選手も、引退した選手も、サッカーに関わる仕事をしている人たちも。この試合を紹介するために、時間やスペースを与えてくれるメディアも、中継してくれるテレビ局も。パートナーシップを組んでくれるスポンサー企業の数々も」

 「だから、僕らはより良い試合を見せようと頑張るんだ。ここに参加してくれる選手たちの幸せそうな笑顔には、時には感動までするよ。ロッカールームで再会した時の、あの瞬間に幸せを感じる。年末に色々な犠牲を払ってでも、ここへ来てくれたサポーターに感謝ばかりだ。ここにいるあなたたち報道陣も、ずっと待っていてくれるしね。そうやって、僕らはここでのすべてを実現しているんだ。それはうれしいことだよ」

 試合ではジーコも前半にPKで1点、後半は流れの中でもう1点を決め、観客を沸かせた。スタンドにはサポーターが持ち込んだジーコの似顔絵の旗が翻り、長年歌い継がれたチャント「ジーコは僕らの王様だ」が響き渡った。

2ゴールを決めるなど、プレーでも沸かせたジーコ

 感謝と喜び、幸せにあふれた試合後のジーコのインタビューは「僕の身体もおかげさまで、ここでのすべてに耐え切ってくれた」と笑いながら語る言葉で締め括られた。このチャリティーマッチの収益は毎年、経営の苦しい子どもたちのための施設や小児病院などに分配される。


Photos: Kiyomi Fujiwara

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アドリアーノエンドリッキジーコビニシウス・ジュニオールフラメンゴレオナルド

Profile

藤原 清美

2001年、リオデジャネイロに拠点を移し、スポーツやドキュメンタリー、紀行などの分野で取材活動。特にサッカーではブラジル代表チームや選手の取材で世界中を飛び回り、日本とブラジル両国のTV・執筆等で成果を発表している。W杯6大会取材。著書に『セレソン 人生の勝者たち 「最強集団」から学ぶ15の言葉』(ソル・メディア)『感動!ブラジルサッカー』(講談社現代新書)。YouTube『Planeta Kiyomi』も運営中。

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